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労働(使用者側)問題についてのご質問

労働(使用者側)問題に関するご質問にお答えします。

「労働審判制度」とはどんな制度なのですか?
 労働審判制度は、企業と個々の労働者の間の権利義務に関する労働紛争について、調停による解決を試みつつ、それで解決できない紛争については、権利関係を踏まえて事案の実情に即した解決案(労働審判)を定める裁判手続です。
今までは、労働関係の個別紛争を解決する制度はなかったのですか?
 従来、民事訴訟(仮処分を含む)や、都道府県労働局による助言指導・あっせんの制度などがありましたが、前者は通常は解決までに長期間を要し、後者は基本的には当事者の自主的解決を促すことに主眼が置かれています。労働審判制度は、これらのデメリットを克服するために創設されました。
「労働審判制度」には、どのような特色があるのでしょうか?
労働審判制度の特色は3つに集約されます。
  •  第1は、迅速な解決です。原則として、3回以内の期日(申立てから3~4か月程度)で結論が出ます。
  •  第2は、専門的な解決です。労働審判官(裁判官)とともに、労使問題の実務経験に富んだ専門家である労働審判員が審理・判断に加わり、合議体としての「労働審判委員会」を構成して、専門的な解決が行われます。
  •  第3は、事案の実情に即した解決です。例えば解雇に関する紛争では、通常訴訟ですと、判決としての結論は解雇が有効か無効かのいずれかしかありませんが、労働審判においては、その実情に合わせて金銭解決を基本として解決金の額を調整したり、雇用継続するにしても一定の条件を付加したり、といった柔軟な解決が可能です。
「労働審判制度」は、どのようなイメージで審理が進むのですか?
 第1回期日は、原則として申立の日から40日以内に開かれます。期日当日は、充実した内容で早期の解決を図るため、代理人だけではなく当事者本人(使用者側の決裁権者、担当者)が出席することが望ましいです。期日では、ラウンドテーブル(円卓)法廷が使用されることが多く、当事者双方出席のうえで、労働審判委員会から事情を聴取されたり、解決の方向性を話し合ったりします。
当社は、年功序列型賃金体系から歩合給を取り入れた新たな賃金体系に変更することにしました。そこで、この就業規則の変更について、当社の労働者の過半数を組織している労働組合に対し、意見書の提出を求めましたが、労働組合はこの就業規則の変更について何らの意見表明もせず、意見書の提出を拒否しています。このような場合、就業規則の変更届を提出することはできないのでしょうか。
 本来、使用者は、労働組合の意見書なしに就業規則の変更届を提出することはできないのが原則ですが、労働者を代表する労働組合ないし労働者代表が意見表明を拒んだり、「意見を記した書面」の提出を拒んだりする場合には、「意見を聴いたことが証明できる限り」受理されることになっています。
というのも、そもそもこの規定によって労働組合ないし労働者の意見を聴くことを求めたのは、労働者に就業規則の作成・変更に一定の発言権を与え、それによって就業規則の内容に関する労働者の関心を集め、内容をチェックさせることで、労働者の知らないところで不当に変更されたりすることがないようにしたものです。そのため、意見書の提出を適切に求めたにもかかわらず何らの意見も出さないという場合には、発言権を行使する機会をすでに与えている以上、就業規則の変更届を提出させないことに理由はないことになるからです。
 もっとも、裁判例では、「意見を聴く」とは、労働者過半数の意見が十分に陳述された後、これが十分に尊重されたという事実が存することとされており、十分に意見が陳述されたとは、十分に陳述する機会と時間的余裕が与えられたということとされています。
 また、労働契約法において、就業規則の不利益変更については、今回のような意見陳述の機会を与えることが手続上必要とされています。そのため、意見陳述の機会を適切に与えなかった場合、就業規則の変更自体の効力が否定される可能性もあると考えられます。
 以上の点を踏まえると、意見書の提出なしに変更届を出すためには、準備として、十分に陳述する機会を与えたにもかかわらず意見の表明がなされたかったことを証明できるようにすべきです。このような準備を経た上であれば、意見書なしに変更届を出してもよいといえるでしょう。
当社の取締役の一人が退職することになりました。退職慰労金を支給しようと思いますが、どのような手続、基準に基づいて支給すべきでしょうか。
 退職慰労金は、功労報償といった側面もありますが、そういった部分も含め、基本的には在職中における職務執行の対価と解されています。
 そのため、退職慰労金を支給する手続としては、取締役の報酬と同じように、定款で定めていなければ、株主総会において決議を経る必要があります。実際には、定款で定めている例は少ないですから、株主総会の決議を経ることになります。
 株主総会の決議においては、原則として、退職慰労金の具体的な金額、あるいは算定方法を明示した上で決議を求めることが必要です。
 しかし、これまでの実務では、支給する退職慰労金の総額を明示せず、具体的な金額や支給方法につき、取締役会(ないし取締役の過半数)に一任する旨の決議がなされることが通例でした。この場合、裁判例では、退職金支給に関し一定の基準が確立していること、さらにはこの基準を株主が推知しうる状況にあることが必要とされています。
 このうち、「一定の基準」については、多くの会社では、月額報酬に在任期間や役職に応じた一定の係数を乗じた額を基本として、これに会社の業績や役員の功績による加算を行うものとすることが多いようです。
 また、「株主が推知しうる状況」が必要ですので、株主総会の招集通知に記載したり、基準を示した書面を本店に備え置き閲覧できる状況にしたり、株主総会で質問があった場合は説明を行ったりする、といった対応が求められます。
会社の従業員が、多額の借金を抱えて返済が遅れがちなようで、貸金業者が会社に頻繁に取立てに来たり、請求の電話が入って困っています。このような従業員を解雇することはできるでしょうか。
 また、従業員が破産手続開始決定を受けたことが分かった場合はどうでしょうか。従業員が、給与の差押えを受けた場合はどうでしょうか。
 まず,多額の借金があり返済が滞っていることを理由とした解雇については,そのことだけを理由とした解雇はできません。この場合、会社も迷惑でしょうが,それはそのような取立てをする貸金業者に問題があるのであり,その従業員を解雇する理由とはなりません。貸金業法21条1項では,貸金業者は債権の取立てにあたり,人を威嚇し又はその私生活もしくは業務の平穏を害するような言動により,その者を困惑させてはならないと規定しています。勤務先への訪問や頻繁に電話をかけて請求する行為は,私生活や業務の平穏を害するような行為であって同法により禁止されている違法な取立行為です。会社としては,違法な取立行為である旨を貸金業者に告げ,本人には取り次がないなどの毅然とした態度をとってあげるべきでしょう。
 また,破産手続開始決定を受けたことだけを理由とする解雇も違法な解雇となります。ただし,破産をすると資格を失う職業もあります。たとえば,生命保険の外交員,警備員などです。資格を失ったことにより,雇用契約において定められていた労務の提供が不可能になるのであれば,破産による解雇もやむを得ないでしょう。
 債権者から給料の差押えを受けたことを理由とした解雇についても、給料の差押えがあると,会社は給料の中から差し押さえられた部分を債権者に支払うか,供託しなければなりません。そのことで事務量が増えて煩わしく思うでしょうが、これを理由とする解雇はできません。なお差押えに応じないと、債権者から取立訴訟を起こされますので、注意が必要です。
この度、従業員が退社し、退職金を支払ってしまったのですが、その後、その従業員が在職中に不正を行っていたことが判明しました。すでに支払ってしまった退職金の返還を求めることはできるでしょうか。また、仮に退職金を支払う前であった場合には、支払いを拒むことはできるでしょうか。
  1.  まず、すでに退職金を支払ってしまっていた場合ですが、退職金規定などに、退職後も返還を求めることができること、そしてそのための要件について明記されていれば、退職金規定に基づいて返還を求めることが検討できるでしょう。
     また、このような直接的な規定がない場合であっても、退職後、懲戒事由が発覚した場合には退職金を支給しないといった趣旨の規定がある場合には、そもそも当該退職金には退職金を受領する法的根拠がないことになるので、一旦支払ってしまった場合でも不当利得に基づいて返還を求めることができると考えられます。
  2.  次に、まだ退職金を支払う前についても、退職金規定において、退職金減額事由や不支給の事由がある場合には減額ないし不支給とする旨の定めがあり、今回発覚した不正がこの減額ないし不支給の事由に該当すれば、退職金規定に基づき、減額ないし不支給とすることはできます。
     しかし、このような規定がない場合には、退職金の減額ないし不支給の根拠がないため、すでに退職してしまった以上支払わなければならないと考えられます。
  3.  なお、上記のいずれの場合においても、規定に定めておけばそれでよいというものではありません。退職金は、功労報償的な性格だけではなく、退職までの労働に対する対価としての意味合いもありますので、不支給とするのであればこれまでの功労を否定するほどの著しい背信行為、減額するにしても事情に即した柔軟な減額率の設定をするなど、内容としても適正なものであると評価できる必要があります。
職場におけるセクシュアル・ハラスメントとは何ですか。
職場におけるセクハラには、大きく分けて、対価型と環境型があります。 対価型とは、例えば、査定を良くしてあげるからと言って交際を強く求める場合や、女性の胸や腰を触ったところ、女性が抵抗したため腹いせにその女性を解雇する場合のように、性的言動に対する女性の対応によって女性を職場で不利益に扱うケースを言います。 他方、環境型とは、女性従業員の抗議にもかかわらず、職場で卑猥な話をしたり、ヌードポスターを貼ったりするなど、性的な言動により労働者の就業環境を悪化させるケースを言います。
 例えば、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、性的な関係を強要すること、必要なく身体に接触することなどです。
職場の忘年会での出来事もセクハラになるのですか。
なり得ます。セクハラの起る時間や場所という点では、必ずしも会社内や就業時間内に限りません。アフターファイブに社外の飲食店で行われる忘年会であっても実質上職務の延長と考えられる場合にはセクハラになり得ます。同様に、取引先や出張先、移動中、ゴルフコンペなどのレクリエーションもなり得ます。むしろ社外の方が、気が緩んでセクハラが起りやすいので、ご注意下さい。
セクハラの被害者は女性だけですか。
いいえ、男性も被害者になり得ます。ただ、実際には男性から女性へのセクハラが起りやすいのも事実です。
セクハラの被害者は正社員だけですか。
いいえ、正社員とは限りません。アルバイト、パート、契約社員、派遣社員など、広く職場で働いている人は被害者になり得ます。