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交通事故についてのご質問

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自賠責保険と任意保険の賠償責任保険はどのような関係にありますか。
自賠責保険は強制保険とも呼ばれ、適用除外自動車を除き加入しなければ運転することができません。この保険は、被害者救済を目的に、最低限の保障を確保する性格の保険なので、賠償として支払われる額は訴訟等の水準より低く定められていますし、支払最高限度額も定められています。また、保障の対象は、他人の生命または身体を害した場合に発生する人身損害に限定されています。
 一方、任意保険の賠償保険は、被保険自動車の所有・使用・管理上のミスにより、被保険者が法律上の賠償責任を負担することによって被る損害に対して、保険会社が保険金を支払うものです。これは、対人賠償に限らず被害車両の修理代等の対物賠償も対象となります。
 任意保険の対人賠償保障は、自賠責保険に対し、いわば「上積み保険」と呼ばれ、保険約款上、賠償責任額が自賠責保険金額を超過する場合に、その超過額について任意保険から支払われることになっています。
なお、加害者が自賠責保険に加入していない場合やひき逃げ事故等で加害者が特定できない場合など自賠責保険が使えない場合は、被害者としては、政府保障事業によるてん補金の請求を自賠責の保険会社等を通じて政府に対してすることができ、被害者は自賠責保険に近い金額を受けることができます。この場合、加害者は後に政府から求償を受けることになります。
 ところで、民事上の賠償責任額は、通常、自賠責保険金額を上回ることが多いのですが、例外もあります。例えば、事故発生について被害者にも落ち度(過失)がある場合は、過失相殺により賠償額が過失割合に応じて減額されますが、自賠責保険では被害者の救済が重視されるため、被害者に7割以上の重大な過失がない限り過失相殺を理由に減額しません。その結果、自賠責保険金額が民事上の賠償責任額を上回ることがあります。その場合には、自賠責保険とは別に任意保険からの支払はないこととなります。
「人身事故」と「物損事故」とはどのような違いがあるのですか。
交通事故で人間の身体・生命に損害が発生した場合を「人身事故」といいます。交通事故でも人間の身体・生命に損害がおよばず、車や建物などの物に損害を与えた事故を「物損事故」といいます。
 まず金銭面での問題、つまり民事的な場面では、両者とも民法第709条の「不法行為」として、加害者が被害者に損害を賠償しなければならない点は共通しています。
 しかしながら人身事故の場合には、被害者保護のため「自動車損害賠償保障法」(自賠法)が適用されます。この法律によって次のような違いがでてきます。①人身事故の場合には、自動車損害賠償責任保険にて最低限の補償は確保されますが、物損事故には自賠責保険の補償はなされません。また②物損事故の場合には被害者が加害者の故意過失を証明する必要がありますが、人身事故の場合には、加害者が無過失を証明しない限り、被害者に対して賠償責任を負うこととされています。さらに③人身事故の場合には、加害車両の運転者のみならず、運行供用者(たとえば自動車の所有者など)にも損害賠償請求が可能とされています。このように人身事故の場合には、自賠法により被害者の救済の範囲が拡大されているのです。
 また請求できる損害範囲についても違いがあります。人身事故の場合には、被害者は主に入院・通院日数を基準に精神的苦痛に対する賠償(慰謝料)を求めることができます。しかし物損事故の場合には、原則として慰謝料の請求はできません。買ったばかりの新車を事故で傷つけられても、慰謝料を請求することは原則としてできないのです。
 次に刑罰の話、つまり刑事的な場面での違いはあるのでしょうか。人身事故の場合、自動車運転過失致死傷罪や危険運転過失致死傷罪の適用があります。しかし物損事故の場合、重大な過失で建物を壊した場合(道路交通法116条)以外には、過失で物を壊したことで罪に問われることはないという違いがあります(飲酒運転などは別ですが)。
 なお人身事故でも物損事故でも、発生した場合には道路交通法上、警察に通報する義務がありますので、くれぐれも怠らないように注意してください。
交通事故の加害者となった場合、法律上はどのような責任を負うことになりますか?
交通事故の加害者は、【1】刑事上の責任、【2】民事上の責任、【3】行政上の責任の三つの責任を負うことになります。
 まず、【1】刑事上の責任として、刑法や道路交通法上の刑罰を受けます。例えば、被害者が怪我をしたり亡くなったりした場合には自動車運転過失致死傷罪(刑法211条2項)に問われ、7年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金の刑が科せられます。アルコールやスピード違反、信号無視などの危険な運転が原因となった場合には危険運転致死傷罪(刑法208条の2)に問われ、更に重い刑が課せられます。なお、罰金刑は行政処分としての反則金とは異なるものであり、前科となります。
 次に、【2】民事上の責任として、事故によって人に怪我をさせたり物を壊したりした場合に治療費や修理代などを支払う損害賠償責任を負います(民法709条)。つまり、交通事故によって被害者に与えた損害をお金で償うのです。被害者が亡くなった場合などの損害賠償額は相当高額となりますので任意保険に加入していないと大変なことになります。
 最後に、【3】行政法上の責任ですが、交通事故の程度によって点数が付けられ、運転免許の停止や取消の処分となることがあります。行政処分は公安委員会によって行われるものです。なお、平成21年6月1日の道路交通法改正により、違反点数が大幅に引き上げられたほか、免許の再取得ができない欠格期間が最長10年に延長されましたので、お気をつけ下さい。
交通事故に遇って、後遺症が残ってしまいました。後遺症について、教えて下さい。
交通事故の被害者の方が医師等による治療を受けても、完全には治癒せず、身体に一定の障害(失明、手足の欠損、視力や聴力の低下、部分的な神経症状など)が残る場合があります。これを後遺症または後遺障害といいます。
 交通事故でけがを負った被害者の方は、事故の原因となった過失の割合に応じて、加害者に対して、治療費などの損害賠償を請求することができますが、後遺障害が残ってしまった場合には、後遺障害に基づく損害についても賠償を請求することができます。この後遺障害に基づく損害には、①以前のようには仕事ができなくなってしまったことで収入が減ったりゼロになったりしたことによる損害(「逸失利益」といいます。)や、②後遺障害が残ったことで受けた心の痛み(精神的損害)を金銭的に評価した「慰謝料」等があります。
 後遺障害に基づく損害額を算出するにあたっては、その後遺障害がどの程度重いものであるかが大きく影響します。ですから、被害者の方が、加害者(あるいはその加入している保険会社)に対して後遺障害に基づく損害を請求するにあたっては、被害者の方で、自分がどの程度の重さの後遺障害を負っているかを証明しなければなりません。このとき、重要な判断要素となるのが、「損害保険料率算出機構の調査事務所」による等級認定です。これは、本来は自賠責保険会社が保険金を支払うべきかどうかを判断するためのものですが、その認定は任意保険会社の判断や、場合によっては裁判所の判断も左右するため、非常に重要なものとなっています。
 この認定は、被害者の主治医が作成する診断書や「後遺障害診断書」等の書類などの資料を中心に、顧問医の意見も参考にしながら、第1級から第14級までの等級のいずれかに該当(又はいずれにも非該当)するとの体裁により行われます。なお、この等級は上位等級に行くほど後遺障害の程度が重いものとされています。たとえば、第1級には両眼失明などがあり、最も下位の第14級にはむち打ち症などによる部分的な神経症状などがあります。
家のガレージに、私が購入した車をおいていたところ、泥棒に盗まれてしまいました。私が盗まれたことに気づく前に、警察から電話連絡があり、車を盗んだ窃盗犯が、30キロメートルほど走ったところで、他の自動車と衝突し、相手の運転手が重傷を負ったとのことでした。私は、交通事故の損害について賠償する責任があるのでしょうか?
交通事故を起こした当事者である窃盗犯人が、損害賠償責任を負うことは間違いありません。しかし、窃盗犯人に賠償能力がない場合などは、車の所有者に対して運行供与者の賠償責任を請求されることがあります(自動車損害賠償保障法3条)。「運行供与者」とは、一般的には、その自動車について、運行支配をし、かつ、その自動車の運行により利益を得ている者を言い、運行供与者は、利益の裏返しとして、法律上、損害賠償責任も負うこととなります。あなたは、自動車の所有者で、自動車を自ら使用する権限があり、このような人を自動車損害賠償保障法上「保有者」と呼びますが、保有者は、通常、運行供与者に該当します。なぜなら、保有者は、運行支配をし、運行利益が帰属している者と考えられているからです。
 しかし、本件のように、窃盗犯が無断で運転した場合には、原則として、保有者は「運行供与者」には該当せず、損害賠償責任を負わないと考えられます。なぜなら、窃盗犯は、保有者に断りなく勝手に自動車の運転をしており、運行支配や運行利益は、保有者でなく窃盗犯に帰属していると考えられるからです。
 しかし、窃盗犯に運転されて事故が生じたケースであっても、例外的に、保有者に賠償責任が認められる場合があります。これは、保有者に自動車管理上の過失が認められる場合です。具体的には、家の前の道路にエンジンキーをつけたまま車を置いていたところ盗まれたというようなケースが挙げられます。このような場合は、保有者が無断運転を容認していると解され、自動車に対する保有者の間接的な運行支配が残っていると解される余地があるからです。本件では、自分のガレージで車を管理していて盗まれたということですから、あなたには保管上の過失はないと考えられ「運行供与者」には該当しないと思われますが、泥棒に車を盗まれた上に、自動車賠償責任を負わされるなんてことのないように、自動車の管理には十分気をつけましょう。
追突事故を起こしてしまったのですが、被害者から「事故歴がついたことにより自動車の評価額が下落するからその分も補償して欲しい」と言われてしまいましたが、支払う必要はあるのでしょうか。
設問のような損害を評価損、あるいは格落損といいます。評価損が生じうる場合としては、①修理が一応終了したけれども、完全に修理しえず自動車が事故に遭う前に持っていた機能を含めた使用価値が下がりそれが自動車の価値の低下を伴う場合、②自動車が持っている機能は回復したが、外板や塗装面に補修跡が残るために自動車の価値が低下する場合、③完全に修復はなされたが、事故車が嫌われるために自動車の価値が低下する場合が考えられます。
 まず、①の場合には損害が現実化していますので損害賠償が認められることに問題はないと思われます。この場合には、当該車両の事故時の時価と修理後の価値との差額が損害となります。次に、②の場合についても、自家用車などある程度美観も重視される自動車では同様に損害賠償が認められると思います。③の場合ですが、これが最も争われるケースです。このケースについては、本来あるべき価値・価格が事故によって減少していないのであるから、仮に計算上価値が減少した場合でも下取交換等によって損害が現実化しない限り損害賠償の対象とはならないという考え方があり、この見解に立つ裁判例もかなりあります。これに対し、修理によって完全に直っていても、また現実に使用価値の減少がなくても、現実に中古車市場で事故歴のある車は価値が低下し、中古車業者は公正競争規約によって修復歴の表示が義務付けられていることなどから自動車の価値は明らかに減少しており損害賠償が認められるとする考え方があり、この見解に立つ裁判例も多いです。
 ③のケースで評価損を認める場合、賠償額の基準が問題となりますが、修理費を基準としてその何パーセントかを損害と認める方式が裁判例でも多いです。修理費に対する割合については、新車に近いかどうか、高級車かどうか、という要素が考えられます。したがって、設問の場合も、被害車両について上記要素を考慮して損害の有無及び賠償額を検討していく必要があると思います。
自賠責保険は、どのような場合に、どのようにして保険金が支払われているのか教えてください。
自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)とは自動車損害賠償保障法に基づきすべての自動車(自衛隊の自動車等一部例外があります)について契約締結が義務づけられている強制保険です。
 自賠法が自動車による人身事故の損害を最低限度保障する措置(被害者救済)として立法化されたものであることから、保険金が支払われるのは他人を死傷させるなどした人身事故による損害に限られます。
 また自賠責保険では、被害者1名についての支払保険金が政令により定められており、支払保険金限度額は、傷害による損害の場合で被害者1名につき120万円、死亡による損害の場合で1名につき3000万円です(後遺障害による損害の場合についても別途限度額の定めがあります)。
 実際の保険金の請求に際しては、自賠責保険を超える部分を担保する任意保険が、自賠責保険で支払われる分を含めて一括して被害者に支払った後に自賠責保険から自賠責保険金相当分を回収する取扱いが認められているため、事故当事者間では表面に出ませんが、ほとんどの人身事故で自賠責保険の保険金は支払われています。
 また上記の場合のほか被害者が直接自賠責保険金の支払請求をすることもできます。この直接請求が行われる典型的な例としては、加害者が任意自動車保険契約を締結しておらず賠償する資力のない場合があげられます。