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この地の難民に扉を開く~川口直也会員~

連載 弁護士とプロボノ活動(3)
この地の難民に扉を開く~川口直也会員~

会報「SOPHIA」 令和3年 4月号より

会報編集委員会

 弁護士とプロボノ活動の第3回目は、川口直也会員(51期)が行っておられる難民支援活動について、副代表を務めるNPO法人名古屋難民支援室(Door to Asylum Nagoya 略称DAN)の活動を中心に取り上げます。難民支援活動を始められたきっかけや、具体的な支援活動等についてうかがいました。

―DANはどのような活動をしておられますか。

 ①難民一人一人への支援、②難民問題についての理解促進、③難民支援のネットワークの構築です。そのうち、中心になるのは①難民一人一人への支援です。具体的には、難民申請手続の支援等の法的支援や、生活場所の確保等の生活支援です。

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 法的支援は、難民申請をする方から事情を聴取して申請書を作成したり、出身国の状況を調査して出身国情報をまとめたりする作業です。出身国情報の検索収集は事務局にしてもらっており、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のデータベースであるrefworld(レフワールド)や、ヨーロッパのecoi.net(European Country of Origin Information Network)といった公的情報を中心に探します。ただ、最新情報がカバーされていなかったりすることもあるので、それら以外からも収集します。また、難民申請に必要な書類の作成方法をまとめた「セルフヘルプキット」を作って提供しています。これは、「難民申請書」バージョンと難民の方が自身の事情をまとめて記載する「陳述書」バージョンがあります。

 生活支援は弁護士ではできない部分もあり、支援者の方々にお願いしています。

―DANの構成員はどのような方々ですか。

 理事は、代表が名嶋聰郎会員、副代表が私です。その他の理事は、20年以上前から難民支援に関わってきた支援者や学者の方々です。理事ではありませんが、当会の永井康之会員と松尾久美会員も頑張っています。

―難民支援に関心があったのですか。

 小学校4年生から中学校1年生までベルギーのブラッセルに住んでいたこともあり、外国人に関することがらに興味がありました。名古屋大学在学中に外国人の支援に関わる活動に加わり、司法修習生の時は名嶋会員が主宰する「ハート」という会に参加して外国人支援の活動を行っていました。最初の難民に関する事件はロヒンギャ(ビルマのイスラム系少数民族)の方の案件で、その方が難民のコミュニティに入っていて、難民の方々と接するようになりました。

―事務局スタッフはいらっしゃいますか。

 事務局のスタッフは4名います。今日は、DANの活動について説明するのに、事務局スタッフの一人である羽田野真帆さんがZoomで参加してくれますので、つなぎますね。

(羽田野さんが画面で登場)初めまして。

―初めまして。羽田野さんは、どういう経緯でDANの活動に参加されたのですか。

羽田野 もともと海外で難民支援をしたいと考えていましたが、ある時「日本にも難民がいるよ」と聞いて驚き、日本で難民支援をしようと考えるようになりました。大学生のころ、難民のための日本語教室で日本語を教えていました。当時習いに来ていた人の中にウガンダ人の方がいて、彼女の依頼で通訳のボランティアをしており、その時に川口先生の事務所に難民申請手続の打合せでよく来ていました。名古屋を含めた東海地区には難民を専門とする支援団体がなく、何とかしたいと思っていたところDANが設立されることになり、事務局員に応募しました。

―DANの活動が開始されたきっかけや、時期はいつですか。

プロボノ2.jpg Zoomで取材に参加される羽田野さん

羽田野 2012年7月に団体が設立され、NPO法人になったのは2013年2月です。ただ、名古屋での難民支援の活動は川口先生等を中心にそれ以前からありました。

川口 今から20年前、先ほどのロヒンギャの方の難民申請に続いてビルマ人の集団難民申請をすることになって、弁護団を結成したことがあり、その時から難民支援の活動に関わっています。当時は、稲森幸一元会員(現、福岡県弁護士会)や当会の弁護士に声を掛けました。ただ、弁護士のみではできることに限界があるため、ビルマの支援活動をしているボランティアの方々も弁護団に参加していただきました。また、2012年当時は愛知県でも難民申請のケースが増大する一方で、東海地区には難民を支援する団体がなく、何とかしなければならないと考えていました。

 そのころ、NPO法人難民支援協会と全国難民弁護団連絡会議の連携事業として名古屋にも団体を設立してはどうかという話があり、私に声がかかって、2012年7月の団体設立に至りました。これがDANの活動開始ということになります。弁護団は、案件がないと活動がしぼんでしまいますので、難民支援活動を継続するためにも団体を設立するのがよいと考えました。その後、活動のための助成金の受け皿としてNPO法人が必要だと考えて法人を設立しました。

 DANの事務局は、当時私が弁護団の事務局をしていたことから私の事務所に間借りして設置し、現在まで続いています。

―DANの名前の由来は何ですか。

川口 DANは、Door to Asylum Nagoyaの略称ですが、正式名称はNPO法人名古屋難民支援室です。当時、出入国管理を所管する法務省に「難民認定室」という部署があり、難民認定をなかなか認めてくれませんでした。そこで、「難民支援室」としました。

―DANの活動費はどのように賄っていますか。

川口 9割が助成金で、残りは寄付です。助成金はUNHCRやWAM(独立行政法人福祉医療機構)の助成事業などです。助成金は年単位で、かつ、毎年必ず得られるものではなく審査がありますので、毎年、多くの団体に申請しています。この申請作業が大変ですが、ここは羽田野さんが専門家ですので...。

羽田野 そうですね。事務局の作業の一定割合は助成金の申請作業が占めています。いわゆる休眠預金等活用法(民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律)に基づく休眠預金を活用した助成事業による助成も受けています。

―難民事件での弁護士費用はどのようにされていますか。

川口 当初は、本人に当事者意識を持ってもらうためにも分割で費用を支払ってもらっていました。人権救済基金や制度ができてからは日弁連の委託援助事業を利用しています。弁護士一人分の費用をいただいて、そこから実費を支出して、余れば弁護団の若い先生に取得してもらい、あとの人はボランティアですね。難民事件は長期化したり記録の量が膨大になったりするのでとても大変です。ただ、こういったプロボノ活動は、現役の人が時間を使ってやることに意味があるのだと思っています。通常の業務との兼ね合いで余裕がないと難しいのですが、続けることが大事と思っています。

―最も印象に残っている事件は何ですか。

川口 空港にFAXを送った件かなぁ。

羽田野 ですねぇ。

―空港にFAXですか?

川口 空港で入国しようとしたけど送り返されそうだ、本国に送り返されると殺されてしまう、ということでした。空港には、難民支援を行う団体の連絡先が掲示してありました。法務省等とやり取りする際の難民支援のNPO側の窓口としては、DANも加入している「なんみんフォーラム(Forum for Refugees Japan、略称FRJ)」があります。DANが支援していた難民の親族ということでDANに連絡が来ました。短期滞在等で入国した後に難民申請したいと来られる方がほとんどですから、入国時に空港から連絡があるというケースは珍しく、印象に残っています。この時はすぐに「難民申請をするから送り返さないように」と入管に申し入れをして送還を阻止し、支援につなげました。

―当会では難民に関する研修は行われていますか。

川口 DANと当会との共催でUNHCRの小尾尚子さんに講演してもらいました。2015年8月号の会報に掲載されています。その後、何回か難民に関する研修等が行われましたが、最近はありません。

―DANの課題はどのようなことですか。

川口 資金とスタッフの確保です。活動資金の9割は助成金に頼っていて安定した収入基盤はありません。安定した収入基盤がなければ、難民支援の強い思いを持ったスタッフを確保することもできません。

―スタッフはどのような方が応募しますか。

羽田野 やはり難民に関心がある方ですね。

川口 それと、自身のキャリアパスのためにという方もいます。国際的な組織では難民支援の活動をしていたことの実績が必要なときがありますので。DANが募集した時も世界各国から応募がありました。

―羽田野さんから見た川口会員の印象は。

羽田野 熱意と変化球でしょうか。

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―変化球ですか?

羽田野 他の人が考えないようなアイデアを出すところがすごいと思います。例えば、入管に対する開示請求で、対象を特定せずに「~に関する全ての書類」で申請することを始めたこととか、裁判所の指定通訳人を母語の通訳人で探してもらうとか。とにかく新しいことを開拓していくところですね。

―今後の目標はどのようなものですか。

川口 理想は難民支援専門のローファームを作ることですけど、ハードルは高いと思います。ただ、カナダにはそのような事務所があると聞いています。法的支援では、弁護士が就かないと難民申請が通らないと思われるのに、弁護士が就いていない人が多いです。そこで、出身国情報を提供したり事情を聴取したりして弁護士が支援しやすい態勢を整える、弁護士が難民支援を専門にできることの支援ができたらいいなと考えています。生活支援では、独自のシェルターを持ちたいですし、食糧支援もより多くの団体から得られるようにしたいと思っています。そして、共感者を増やし寄付を増やして助成金に頼らない環境を整えたいですね。

 理想は難民支援専門のローファームというところに川口会員の難民支援の真髄を見たような気がしました。川口会員と事務局の羽田野さん、お忙しい中、ありがとうございました。

【難民支援・寄付等についてのお問合せ先】
NPO法人 名古屋難民支援室
〒460-0002
名古屋市中区丸の内2-1-30丸の内オフィスフォーラム7階 川口法律事務所内
電話070-5444-1725
URL http://www.door-to-asylum.jp