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シンポジウム 「シリア、ロヒンギャ、日本に暮らす難民」開催される

会報「SOPHIA」 平成27年8月号より

人権擁護委員会 国際人権部会 部会員
川口 直也

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1 はじめに

 7月25日、弁護士会館にて、当会、NPO法人名古屋難民支援室及び名古屋難民弁護団主催で、標記のシンポジウムを開催した。当日は約70名の方々にご参加いただき、ご協力いただいた皆さまに感謝したい。

2 UNHCR小尾尚子氏基調講演

 初めに、国連難民高等弁務官駐日事務所副代表の小尾尚子氏より「世界の難民と日本の難民保護」というテーマでお話しいただいた。世界では、紛争、民族対立、様々な恐怖からおびただしい数の人が家を追われ、2014年には5950万人が移動を強いられた。殴られ、服を脱がされ、拷問された人、自分のすぐ隣で人が殺され、自身も頭など5ヶ所に銃弾を受けた人、ロヒンギャ民族の人々がすし詰めになった船で逃れている様子、シリア難民と逃れた先のキャンプ等が映像や写真を交えて紹介された。また、世界の難民の状況の紹介の後、2015年7月UNHCR駐日事務所発行の「日本と世界における難民・国内避難民・無国籍者に関する問題について(日本への提案)」に基づき、日本では、①パートナーシップと啓発活動、②包括的な庇護制度、③第三国定住、④無国籍の4分野においてさらなる取り組みが必要と考えることが発表された。包括的な庇護制度については、難民及び難民認定申請者の権利と義務を明確に規定する難民法の制定や、難民を専門的に扱う部局の設立、難民認定申請手続中の難民認定申請者の処遇を適切にする努力、難民申請者が原則として収容されないこと、並びに収容の代替措置(ATD)がさらに拡大運用され、申請者が収容されない、あるいは収容を解かれること、より公正かつ効率的な難民認定手続の確立及び専門部会の提言の速やかな施行において考えられるUNHCRとの連携、難民として認定された人が日本社会に円滑に統合していくことを支えるための、包括的な統合支援の枠組作り及び国際保護の必要性がないとされた人の処遇を定めた法的枠組みの確立を、日本に対する提案として紹介された。

3 東海地域の認定ネパール難民からの報告

 次に、今春ネパール人としては全国で初めて難民に認定された愛知県在住のネパール人に登壇いただきお話しいただくと共に、代理人の笹尾菜穂子会員が本件の概要や認定の意義について解説した。本件難民は、王制支持派の家族に生まれ、国民民主党(RPP)の党員であり、党の秘書や軍の青年組織の副会長、関連政党の党首秘書を務めていたところ、マオイストから度々献金要求をされた他、RPP支持の停止やマオイストへの入党を要求される等脅された。2003年、マオイストに家を焼かれ、2004年にはマオイストによって連行され、キャンプ地で暴行を受けた。その際足の骨が見えるほどの傷を負い、また体中に縫合が必要なほどの大怪我を負わされた。本人は、ネパールの伝統舞踊の有数な踊り手であったが、この事件で負わされた怪我を理由に踊れなくなってしまった。またキャンプ地では、何日も監禁され、食事はほとんど与えられず、やっと出てきた食べ物はヒンズー教徒の本人が食べられない牛肉が入ったカレーであったこと、キャンプ地で村の学校の先生が、首に縄を掛けられ木から吊るされて殺されているのを見たこと等を話し、本人としては、自分の命が助かっただけでも奇跡だと語った。迫害を逃れ、日本に入国したものの、日本で庇護を求める方法を知らず超過滞在になり、隠れて暮らしていた。ある日入国管理局で難民認定申請ができることを知り、出頭して申請を行ったが、いったん超過滞在となったため、申請中に在留資格は与えられず、仮放免で難民認定手続きの結果を待った。その間、就労の許可はなく、アメリカに逃れた兄弟から支援を受け続けて生活していたこと、また保険にも入れなかったため病院にも行けなかったこと等の体験を話され、認定を受けた今は、在留資格を得られ、日本でやっと安心して生活できるようになったこと、またその感謝の気持ちを込めて、ネパール人を集めて地域で清掃活動を行ったり、母国で発生した地震の支援金を集める活動をしたりしていることを参加者に語った。

4 東海地域の難民支援

 続いて、NPO法人名古屋難民支援室より、東海地域の難民問題と、それに対する取り組みが紹介された。例えば、庇護希望者が空港で難民として保護を求めた場合収容される問題に対し、収容代替措置(ATD)が今年の6月より中部国際空港においても実施されていること、難民認定申請手続の主張・立証の困難さと弁護士、通訳者・翻訳者、出身国情報の調査を行う者等の取組み、申請手続の間の生活を支える支援者や、無料・低額診療を行っている病院、シェルターを持つ団体、フードバンク等との協働等が紹介された。

5 質疑応答

 最後に、参加者の皆さまから、発表内容に対する具体的な方法や他国との比較に関する質問、難民申請者の権利と義務を明確に規定する法律ができた場合、現状はどのように変わるか、またそれは誰が提案するのか、今回の認定事例と他の難民認定申請案件の違い、難民として認定される前とされた後で変わったこと、支援者・弁護士としてしてはいけない支援の方法があるか、私たちにでもできる具体的な支援について等様々な質問や、収容代替措置(ATD)としてNGO、弁護士が支援する方向の様だが、これは国がやるべきことなのではないか等のご指摘をいただいた。

6 おわりに

 今回は多くの方に多大なご協力をいただき、当日は当会会員の弁護士をはじめ、中高生等幅広い層の方々に参加いただいた。「グローバルな話から個別的なお話、ローカルなお話それぞれから現状課題、展望を聞かせていただき包括的に学べました。自分にできることをしていきたいと思います」(40代女性)、「難民認定を受けた方のお話からも分かるが、難民申請をする人々の中には地位が高い人や能力が高い人が多いと思われる。そういった人々は認定されても、されていなくても、彼らの持つ能力を十分に発揮できているのか疑問に思った」(20代学生)等の感想をいただいた。

 難民問題や、日本の難民認定申請制度には多くの課題があるが、今後もたくさんの方々と共に、改善に向けて活動していきたい。