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消費者被害の未然防止と拡大防止
~荻原典子会員、伊藤陽児会員、岩城善之会員~

連載 弁護士とプロボノ活動(2)
消費者被害の未然防止と拡大防止
~荻原典子会員、伊藤陽児会員、岩城善之会員~

会報「SOPHIA」令和3年2月号より

会報編集委員会

 12月号(記事へのリンクはこちら)に引き続く「弁護士とプロボノ活動」。第2回は、東海地方で唯一の適格消費者団体である「特定NPO法人消費者被害防止ネットワーク東海(通称「Cネット」)」で、主要メンバーとして活躍されている、荻原典子会員(38期)、伊藤陽児会員(50期)及び岩城善之会員(62期)からお話を伺いました。

写真3名(2月号 プロボノ(Cネット東海)).jpg

写真:左から岩城会員、荻原会員、伊藤会員

■消費者被害防止ネットワーク東海(以下「Cネット」)の主な活動内容を教えてください。

伊藤 当団体は、消費者契約法13条の定めにより内閣総理大臣の認定を受けた適格消費者団体(以下「団体」)の1つです。団体は、消費者契約法や景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)に基づく差止請求権、簡単に言うと、契約条項や広告等の表示の使用停止を求める訴権をもっています。消費者契約法や景品表示法に反する約款や広告を使用していると認められ、当団体が差止請求すべきと考えた事業者に対しては、その約款や広告を改めるよう申入れをし、それに応じてもらえない場合には差止の訴訟をするという活動を行っています。

荻原 申入れの要否は検討委員会と理事会で決定します。それぞれ月1回開催し、基本的には検討委員会で内容を検討しています。その検討委員として、当会会員18名、大学教授2名、消費生活相談員7名が参加しています。

■個々の消費者ではなく、団体がこのような申入れをすることの意義はどのような点にあるのでしょうか。

伊藤 例えば、ある契約において、いかなる場合においても事業者が顧客に損害賠償義務を負わないとする、いわゆる全部免責条項が定められていたとしましょう。消費者契約法制定前は公序良俗違反でしか約款の有効性を争うことができませんでしたが、今は消費者契約法8条1項1号・3号により、全部免責条項は無効であることが定められています。

 ところが、実際に、ひとりの消費者が条項の有効性を争うことは難しいです。損害賠償を求めたい金額は数千円~数万円と少額であることが多いため、弁護士費用を負担すると赤字になってしまうのです。そこで、団体が、このような不当な条項の是正を求める申入れを行う意義が出てくるのです。団体には、申入れに応じてもらえなかった場合に、当該条項の使用の差止を求めて提訴できるという権能があるため、多くの事業者が申入れ内容を真剣に検討してくれていると感じています。

■いつ頃から団体の活動に携わっていますか。

荻原 2005年の国民生活審議会で、消費者団体訴訟制度を認めるべきだという答申が出たので、全国で消費者団体を作りましょうという運動が起きました。当時、私は日弁連の消費者問題対策委員会の委員を務めており、他の委員の方と一緒に、法律制定に関わる運動をしていました。

 その中で、愛知でも適格消費者団体を作ろうということになり、NPO法人になる前から、色々なところに陳情に行ったりしました。2005年に当会会員の9名の方に呼びかけ人になっていただき、当団体の礎になった任意団体ができました。2007年にNPO法人となり、2010年4月に全国で9番目の団体として認定されました。

 現在、当団体の副理事長に就いています。

伊藤 団体設立総会が2005年にありましたが、その呼びかけ人になりました。しばらく身を引いていたのですが、荻原先生と交代で日弁連委員となり、そこからどっぷりと団体の活動に浸かるようになり、理事として活動しています。

賞状.jpg写真:2013年に受けた表彰

岩城 私は、現消費者庁職員で、元当会会員だった小田典靖さんに「良いことがあるからとりあえず来なさい」とだま...、あ、いやいや、声を掛けていただいて、参加するようになりました。良いことがあったかどうかは神のみぞ知るといったところです。

 そんな私も、今では理事になりました。

■Cネットの活動の成果をご紹介いただけませんか。

伊藤 2010年に団体に認定されてから、昨年末までに104事業者に申入れをしました。消費者庁の担当者によると、申入れ件数としては全国に21団体ある中で最も多いそうです。一方、当団体が差止請求訴訟を提起した件数は3件で、比較的少ない方です。

荻原 印象深いのは、4年前に情報提供があったジャニーズファンクラブの会員規約についての事案です。同ファンクラブには真摯にご対応いただき、当団体の申入れの趣旨に沿った会員規約の改訂につながったのですが、その際には全国のジャニーズファンクラブ会員から激励のメールや手紙をいただきました。これまでにそのようなことはなかったので、驚きましたね。

 他にも、名古屋モード学園に対する差止訴訟の案件等も、大変でしたが印象深いです。

■やりがいはどのようなところにありますか。

岩城 弁護士の仕事は、基本的にはトラブルが発生した後の権利救済ですが、当団体の申入れ活動は、約款が改訂されることで新たな消費者被害の防止を図ることができるという被害予防の活動ですので、消費者の利益擁護としてより大きな効果を生み出すことができる点にやりがいがあります。

 また、とても建設的な解決ができる点も魅力です。事業者にとっても、自社の利益のみ優先するのではなく、消費者のための経営をすることが、結果的に自社の利益を増大させる近道であることをご理解いただき、そのために約款の改善を図るという認識で交渉して解決されるケースも少なくありません。

伊藤 そうですね、実際に事業者に対して申入れをしてみると、真摯に受け止めてくれて、約款の改善等にも快く応じてくれるケースは少なくないですね。中には、当団体が申入れで求めた以上に、消費者に寄り添った改善を実施してくれた事業者もいます。

 私たちの活動は、消費者を相手とする事業活動には消費者契約法の適用があることを広く事業者に認識してもらうという波及的な効果ももたらしていると思います。

荻原 ひとりひとりは小さな力しかない消費者のために活動すること、少額の被害で泣き寝入りを強いられていた消費者被害を減らせることにも意義を感じます。

■最近、被害回復制度ができたと聞いていますが、Cネットはできるのですか。

伊藤 残念ながらできません。被害回復制度は2016年に施行された消費者裁判手続特例法に基づく制度で、団体が消費者に代わって事業者に対する損害賠償等を請求できる制度です。損害賠償制度なので、訴えられると企業の信用リスクも生じます。そこで、団体の中でも特に物的・人的な基盤が充実していると認定された「特定適格消費者団体(以下「特定団体」)」だけが被害回復請求権を行使できるようになっています。特定団体は、東京、埼玉、大阪に1団体ずつ認定されており、当団体も特定団体を目指して活動しているところです。

 東京、大阪にあるため、ぜひ愛知にも、という思いはあります。

事務所.jpg写真:現事務所の様子

■団体の活動で苦労されているのはどのような点でしょうか。

岩城 当団体の申入れ活動は、全て消費者からの情報提供をきっかけに行っています。当団体が不当な約款や広告を探す、ということはしていません。ただ、この1~2年は、非常に多くの情報提供をいただくため、その検討にとても時間がかかることがネックです。1回の検討会議に4時間かかることもあります。検討委員全員がボランティアのため、あまり件数が多すぎると疲弊してしまいますが、情報提供の中には看過しがたいものもあるので、悩ましいところです。

■えっ、全くのボランティアなのですか?訴訟の提起もですか?

荻原 全くのボランティアです。当団体の財政は、大部分を会員の会費と寄付で賄っていまして、実費はそこから捻出しています。会員の方が増えて会費が増えれば日当等も出せると思いますが、今は全然出せていません。訴訟を提起したときに限り、消費者スマイル基金というところから補助が下りることもありますが、全国の団体と競合するため、弁護士が訴訟受任した場合の着手金の金額にも満たないことが多いです。

伊藤 数年前まで丸の内に事務所があったのですが、賃料を圧縮するために千種に移転するという涙ぐましい努力もしています(笑)。

■今後の活動の目標等はありますか。

伊藤 特定団体を目指したいですね。そのために、財政基盤の充実と構成員の拡充が必要と感じています。

 ぜひ多くの会員の方に様々な形で関わっていただけると嬉しいです。興味のある方からのご連絡、お待ちしています!

荻原 財政基盤を充実させ、検討委員の方にはせめて会議の日当ぐらいは出せるようにしたいですね。

■個々の被害者からの被害弁償の依頼とは異なり、通常の弁護士活動だけでは達成できない大きな視点での消費者保護を目的に活動しているCネット及びそのメンバーお三方。
 事業者と交渉して、消費者保護の視点を知ってもらうなどして、消費者と事業者のより良いルール作りを支えておられることを知りました。
 また、弱い立場にある消費者の利益を守るという弁護士としての熱い想い。会報子も弁護士を目指した初心を思い出しました。
 今後、益々、Cネットが発展し、お三方がさらなるご活躍をされることを祈念しております。大変お忙しい中、インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。

【入会・寄付・消費者被害情報ご提供の連絡先】
消費者被害防止ネットワーク東海事務局
〒464-0075 名古屋市千種区内山三丁目28-2 KS千種ビル6階F
電話 052-734-8107 FAX 052-734-8108
メール cnet-tokai@cnt.or.jp
HP https://cnt.or.jp/