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新連載 弁護士とプロボノ活動(1) 子どもに寄り添い続ける ~北川喜郎会員~

会報「SOPHIA」令和2年12月号より

会報編集委員会

 当会には、様々な方面で熱心にプロボノ活動をされている会員が多くいらっしゃいます。新連載「弁護士とプロボノ活動」では、そのような会員にスポットライトを当てて、お話を伺っていきたいと思います。記念すべき第1回は、北川喜郎会員(65期)がNPO法人子どもセンター「パオ」の活動に熱心に参加されているとの噂を聞きつけましたので、「パオ」の事務局を訪問して、お話を伺ってきました。会報子も胸を打たれた北川会員の子どもに対する熱い思いを是非ご一読下さい!
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■ここが「パオ」の事務局ですか。座布団がたくさんありますね。壁には五味太郎さんのポスターが飾ってあるのですね。
 そうなんです。「パオ」の事務局長を務める高橋直紹会員とのご縁で、五味太郎さんも設立当初から「パオ」を支援して下さっているお一人なんですよ。事務局の中のこのスペースは、会議をするのに使ったり、先日は、産婦人科の医師を招いて子どもたちに対する性教育のセミナーを開催するなど、寺子屋として利用することもあるんです。
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■「パオ」について少し教えてもらえますか。
 「パオ」は、様々な事情によって心身共に傷ついた少女のためのシェルター「丘のいえ」(現在は人員不足のため休止中)と社会に出る準備をその子のペースでゆっくりできるようにと、働くことを前提としない自立援助ホーム「ぴあ・かもみーる」を運営しています。当会会員の有志と福祉関係者の協力によって設立されたNPO法人です。私の事務所の所長である多田元会員が理事長を務めています。


■「パオ」の活動に参加するようになったのはどういう経緯ですか?
 私は、もともと子どもの権利に関わる活動がしたくて弁護士を目指して、子どもの権利に熱心に活動されている多田会員の指導を受けたくて、南山大学のロースクールに進学しました。ロースクールの授業で「パオ」の存在を知って、エクスターンシップでも多田法律事務所にお世話になったのですが、その時に「パオ」の会議等にも参加させていただきました。司法試験に無事合格できた時には、すぐさま合格の報告とともに多田法律事務所で勉強させてほしいと多田会員に懇願し、事務所に入れていただいて今に至ります。


■そうでしたか、多田法律事務所に入るべくして入られたのですね。でも、子どもの権利に関わる弁護士を目指すようになったのは、何かきっかけがあったのですか?
 それまでは警察官になりたいと思っていたのですが、姉がアルバイトをしていた愛知県の一時保護所で宿直のアルバイトをしたことがきっかけですね。当時から子どもが好きだったので、子どもと遊んでお金も貰える良いバイトだと思って始めましたが、そこで親から虐待を受けたり、ヤクザから身を隠していたりという様々な事情を抱える子どもたちと出会いました。当時、母親の内縁の夫から壮絶な虐待を受けて一時保護所に入所した少年がいて、その少年が身の安全を確保して自立するため弁護士の支援を受けて一時保護所を出て行ったということがありました。その時に、子どもたちの支援に弁護士が関わっているということを初めて知って、自分もそういう弁護士になれたらと思うようになったんです。その後、エクスターンシップの時に、多田会員と一緒に福井県の自立支援施設に行ったのですが、そこで偶然にも私が一時保護所で関わっていた少年と再会したんです。


■えっ!そんな偶然あるんですか!?
 「北川さんどうしてここにいるの!?」って少年から声をかけられて、私も本当にびっくりしました。さらに、当時その少年を支援していた弁護士が実は多田会員だったということが判明して二度驚きました。でも、安心できる場所で生活を送っている成長した彼の姿を見て、自分も絶対に弁護士になってこういう子どもたちを支援したいという思いが高まりました。


■それは感動の再会でしたね。いい話ですね~。ところで「パオ」の活動には、実際どのように関わっているのですか?
 「パオ」での主な活動としては、子どものパートナー弁護士となって子どもの自立支援に携わる活動と、「パオ」の運営に携わる活動をしています。


■パートナー弁護士というのは、どのような活動をしているのですか?
 「パオ」を利用する子どもには、必ず男女1名ずつの弁護士がパートナーとしてついて、その子の支援を担当します。私もこれまで5人の子どもたちの支援を担当してきましたが、支援の内容は子どもの状況によって様々です。例えば、子どもに虐待した親の刑事事件に子どもの被害者代理人として関わることもあれば、虐待する親の元から飛び出して保護された子の場合は、親との交渉、自宅に必要な荷物を取りに行く、アルバイト等自立に向けた目標について相談にのる、施設からの旅立ちのために未成年者でも貸してくれるアパートを探して交渉するなどしています。また、親からの虐待が原因となってPTSDや愛着障害等の様々な症状を訴える子どもたちも多いのですが、そのような子どもをどのように理解して支援することができるのか、児童相談所や主治医の児童精神科医とケース会議を行って、他機関との連携や情報共有を図ることもあります。あと、毎月1回は、パートナー弁護士と施設のスタッフ、審査員(弁護士や児童養護・福祉の専門家等)でケース会議を行っています。また、退所した子どもの支援もパートナー弁護士の大切な役割です。


■入所中だけでなく、退所した子どもたちの支援までされているのですか?
 退所後も、元気にやっているか、仕事は続けているかなど、時々ご飯を一緒に食べに行ったり、LINEをしたりして様子を聞いています。同居していた彼氏と喧嘩して居場所がなくなったからと連絡をくれて、新たな居場所を一緒に探したこともありました。結婚して子どもが生まれた元利用者の赤ちゃんを抱っこさせてもらったこともあります。私の子どもの服のおさがりを送ったりして、今でも関係が続いています。そういった、旅立ち後も子どもたちとずっと関われるのは、パートナー弁護士の役割というよりもやりがいというか、特権のように感じます。


■子どもたちとは長い付き合いになるのですね。子どもたちの支援をしていく上で何が大切になると思われますか?
 子どものパートナーとして、ありのままの子どもを受け入れて、一緒に悩んだり、共感することが大切だと思っています。その基本となるのは、子どもの声を聴くこと、子どもの意見(そのプロセスを含めて)を尊重することだと思います。そのためには、信頼関係の構築は不可欠ですので「ぴあ・かもみーる」に足を運んで、一緒に美味しいものを食べに行ったり、時には息抜きに遊びに出かけたりなどして共に時間を過ごすことを大切にしています。また、今年はコロナであまりできていませんが、例年は、季節ごとに、いちご狩りやBBQ、クリスマス会やサーモンパーティ(コストコからの寄付でサーモンを食べる会)等のイベントを企画して、子どもたちとレクリエーション活動もしています。それから、宿直として、「ぴあ・かもみーる」に月1回程度泊りに行っています。これは、スタッフの負担軽減という目的もあるのですが、子どもたちとコミュニケーションをとる貴重な機会にもなっています。


■「パオ」の運営に携わる活動ではどのようなことをされているのですか?
 運営に関しては、月に1度の運営会議と、広報会議に参加しています。広報会議では、毎年のイベントの企画、「パオ」を広報するためのグッズの開発、ニューズレターの発行等をしています。

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■へぇ~これが「パオ」グッズですか。可愛いですね~!
 可愛いでしょ。私も、夏には「パオ」のワッペンを付けたポロシャツを着て仕事をしていたんですよ。


■「パオ」の活動で大変なことはありますか?
 やはり、資金面の問題では苦労していますね。子どもたちの生活費やスタッフの人件費等、運営に年間およそ3000万円が必要となります。児童福祉法に定める児童自立生活援助事業(自立援助ホーム)となり公的支援も出ていますが、それだけではとても賄いきれず十分な活動ができませんので、会費や寄付で賄っているのが現状です。当会の会員の皆様にも支えていただいています。約80名の方に正会員や賛助会員として寄付をいただいていますし、お歳暮やお中元でもらった品を「パオ」の子どもたちにと差し入れてくれる会員もいます。また、身寄りがない方が財産の寄付先を探されていて、遺言作成に携わった会員のご紹介で、「パオ」に遺言で多額の寄付をしていただいた件がこれまでに何件かあります。会員の皆様からも同様の事例がありましたら是非「パオ」をご紹介いただけますと有難いです!


■子どもたちとの関係で苦労された経験はありますか?
 子どもとの距離感というか、信頼関係の構築の過程等で苦労する場面はたくさんあります。「パオ」に来る子の中には性的虐待の被害を受けている子もいて、男性に対する拒否感が特に強い子もいます。「パオ」に来て落ち着いて安心して自分の心の傷を露わにすることができるようになった頃に私と口をきいてくれなくなった子がいました。私が話しかけてもうつむいてばかりで、スタッフを介してやっと会話できるほどで、その期間は半年ほど続きました。私には支援をしたいという思いがあるけれど、自分が関わることで子どもを苦しめてしまうのかなどと悩んだこともありましたが、スタッフや女性弁護士の助けもあって、その後も関わり続ける中で自然と関係が改善していきました。その子とは、退所した後も、その子の旦那さんや子ども含めた家族と交流を継続しています。別の子からも、私とは一緒の車に乗りたくないと言われて、私だけ子どもを乗せた車から降りて、別の車で夕食の店に向かったこともありました。様々な背景を抱えた子どもとの距離感をどうもつかは、非常に難しい場面が多いです。だからこそ、一人で抱え込まずに、周りの弁護士やスタッフに相談しながら、できる範囲でやっていこうというスタンスでいます。


■話をお聞きしていると、かなりの時間を「パオ」の活動に費やされているようですね。プライベートの時間はあるのかなと若干心配になりますが・・。
 大丈夫ですよ(笑)。土日には、家族と過ごすプライベートの時間もちゃんとありますのでご心配なく。
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■「パオ」での活動は、北川さんにとってどのような意味をもっているのでしょうか。
 難しい質問ですが、「パオ」の活動は、まさに私が弁護士になりたいと思った理由そのものなので、非常にやりがいを感じています。また、純粋に子どもたちと関わることは非常に楽しいです。でも、私自身の力は非常に無力というか小さなものなのだろうということも同時に感じています。大きく傷ついて苦しんでいる子どもたちに対して、弁護士が少し関わったからといって、劇的にその子たちを救ってあげられるわけでもないし、その子たちの悩みに対して正解を導いてあげられるほど、自分は正しい存在でもないと思っています。子どもの気持ちを分かる弁護士になりたい、弁護士になって子どもの力になりたいと強く意気込んでいましたが、実際のケースを目の前にすると、大変な思いをしてきた子どもたちに対して「分かるよ」なんて軽々しく言えないですし、思い描いたように事は進まないというか、弁護士の無力さを思い知りました。でも、だからこそ、無力でも子どもの声(心の声)を聴いて、子どもを応援し続けていく、 子どもにずっと寄り添い続けることの大切さを学びました。「パオ」の活動をしている中で、子どもたちからたくさんのことを教えてもらいます。それは、「パオ」の活動にかかわらず、弁護士として関わる色々な活動にも通じることだと思います。ですので、「パオ」での活動は、私自身が楽しい、やりがいを感じる活動であり、私自身が色々と教えてもらう、鍛えてもらえる居場所のように感じています。


■子どもに対する思いをキラキラと目を輝かせて語る北川会員のお話に会報子一同胸が熱くなりました。北川会員には、今後も子どもたちのパートナーとして子どもたちに寄り添い続けてご活躍いただきたいと思います!

【入会・寄付に関してのお問合せ先】
NPO法人子どもセンター「パオ」事務局
〒461-0001名古屋市東区泉2-22-17 
ゑむづビル2F 原田・高橋法律事務所内
電話052-931-4680
URL https://www.pao.or.jp