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子どもの事件の現場から(208)
うまくいかなかったよりそい弁護士活動
子どもの事件の現場から(208)
うまくいかなかったよりそい弁護士活動
会報「SOPHIA」令和2年11月号より
子どもの権利委員会 委員 犬 飼 敦 雄
昨年度から当会で始まったよりそい弁護士制度(ただし、昨年度実施の愛知県モデル事業)を利用した少年の支援をしましたので、報告します。
少年は、少年院から仮退院予定で、精神障害の手帳を所持しており、特別調整により更生保護施設に入所予定で、施設での就労等が難しいことも予想され、グループホームも準備されておりました。
私が、ケース会議に参加し、少年と初めて面会したところ、少年の障害特性は顕著である一方、障害受容をしていない状況であり、お笑い芸人になる夢を熱く語っており、よりそい弁護士として、どのような支援ができるか不安がよぎりました。
少年が少年院にいる間に3回面会に行き、信頼関係構築に努めましたが、更生保護施設に入所後まもなく、私が面会に行き、職員の方と話をしている隙に、施設から逃げ出してしまい、私も施設の周りを探し回るということがありました。
その後少年は見つかり、別の成人用の更生保護施設に入りました。そこで生活自体は多少落ち着きましたが、少年が、自分で一般就労をしようとして面接に行き、不合格になるということが続き、就労先がなかなか見つかりませんでした。
私は、施設へ行き、少年と5回外出して、一緒にご飯を食べながら、今後の生活のこと、就労のこと、お笑い芸人になるにも下積み生活が必要なこと、グループホームのことなどをゆっくり話してきました。少年は、前回話したことをあまり覚えておらず、同じ話を何度もしながら、就労経験を積んでいくことが良いとの考えになり、グループホームへ入ることになりました。この段階でよりそい弁護士活動は終了しました。
保護観察官やグループホームの方の協力を得ながら、県外のグループホームに入所したのですが、そこでの生活になじめず、何度も逃げ出してしまい、無銭飲食をして逮捕となってしまいました。
私が、国選で少年事件を担当し、少年審判までに、以前、少年院からの仮退院先候補であったグループホーム併設の更生保護施設が受入れ可能となりましたが、少年審判の結果は少年院送致となってしまいました。
裁判官から少年に対して、自分の障害を受容し、自己中心的な構えを改め、周囲の支援を適切に受けられるようになる必要があるとの話がありました。私自身としては、少年が信頼して支援を受けられるような周囲の環境を整えることができなかったことを反省しておりました。
その後、私は、少年院に会いに行き、また少年が手紙を送ってくれるので、返信をして手紙のやりとりを継続しています。
少年が、少年院入所中に成人したため、親族による未成年後見も終了してしまい、今まで以上に親族の関与が期待できない状況になりました。
最近の少年からの手紙で、少年院からの仮退院先が、少年審判の際に受入れ可能となっていた更生保護施設となったとの報告を受けました。今度こそ、そこで安定した生活ができることを願っています。
少年からの手紙には、ちゃんと働いて、今度は、自分がご飯をおごりますということを書いてくれています。首を長くして待っていようと思います。
*注:よりそい弁護士制度とは、罪に問われた人の社会復帰又は再犯防止のために、対象者に対して弁護士による面接相談及び支援活動を行うことをいいます。