もし無実の罪で逮捕され、死刑判決を受けたら、自分だったら何を思うだろうか――そんなことを考えたことはありますか。

 「映画じゃあるまいし、そんなことが現実にあるはずがない」と思われるでしょうか。

 ところが、現実にこの日本で、そんなことが起きています。いったん死刑判決が確定し、その後再審によって無罪が確定した事件として、いわゆる「免田事件」、「財田川事件」、「松山事件」、「島田事件」が知られています。

 そして、本年3月13日、いわゆる「袴田事件」について、東京高裁が再審開始を認め、その後検察官がこれに対する特別抗告を断念し、再審開始が確定しました。再審の審理はこれからですが、無罪判決がなされれば、5件目の死刑えん罪事件となります。

(再審開始決定を喜ぶ再審請求人の袴田秀子さん(死刑判決を受けた袴田巌さんの姉))

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 裁判は、人が行うものである以上、完全に誤りをなくすことはできません。そして、誤った判決によって死刑が執行されてしまったら、取り返しがつきません。死刑制度には、このような誤判の危険性があるほか、後に述べるような問題があります。

 死刑制度廃止委員会では、死刑制度の実態、実際の死刑事件の経緯、世界の議論状況等を勉強し、市民の皆様へ情報提供する活動をしています。

死刑制度の問題点と、弁護士会のスタンス

死刑制度の問題点

 生命は、人が人であることによって当然に尊重されるべきものであり、どんな理由があろうと、これを奪うことは重大な人権侵害です。

 そして、死刑は、先に述べたように、誤判・えん罪の場合に取り返しがつきません。弁護士・裁判官・検察官がどれだけ気を付けても、誤判を完全になくすことはできません。現に先に述べた4件(あるいは5件)の死刑えん罪事件が実際に発生してしまっています。

 自分がその当事者になる可能性も0ではありません。

 

 また、死刑を存置している国は世界の中で少数派であり、このままでは日本は世界の潮流に取り残されてしまいます。

 死刑制度があり執行もしている国は195か国中54か国のみです。OECD38か国の中では、死刑制度があるのは米国・日本・韓国の3か国のみで、しかも米国は半分の州で死刑制度を廃止しており、韓国は1997年を最後に執行していません。

 日本が犯罪者引渡条約を締結している相手は米国と韓国のみであり、死刑制度の存在が条約締結の妨げになっているのではないかと指摘されています。

死刑の必要性?

 このような問題点に対し、「凶悪犯罪に対する抑止力になる」、「被害者(遺族)の無念を晴らすために必要である」という意見もあります。

 しかし、無期刑などと比べて死刑に特有の犯罪抑止力があるという事実は証明されていません。1981年に死刑を廃止したフランスでも、上記のとおり1997年を最後に死刑の執行を停止している韓国でも、廃止・停止の前後で殺人事件の発生率に有意な違いはありません。

 また、被害者の救済・生活支援が大切であることはいうまでもありませんが、これは死刑制度のあるなしに関わらず取り組むべき課題であって、必ずしも死刑を残すべき理由にはなりません。

弁護士会のスタンス 

 このような状況を踏まえて、日弁連は、2016107日に「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択しました。

 愛知県弁護士会も、20201215日の臨時総会で、「死刑制度の廃止を求める決議」を賛成多数で可決しました(ただし、会としての決議であって、会員個人の思想・信条を拘束するものではありません)。

 この宣言の内容を基本スタンスとして、死刑廃止を実現すべく、死刑制度廃止委員会では、以下のような活動を行っています。

死刑制度廃止委員会の主な活動

1.「死刑廃止を考える日」シンポジウム

 毎年12月ころに、「死刑廃止を考える日」として、愛知県弁護士会館にて、映画上映や講演会等を内容とするシンポジウムを行っています。

 昨年は、1955年に死刑判決が確定してから今も再審請求が続いている「帝銀事件」を題材とした映画上映と、冒頭に述べた「袴田事件」(当時は再審開始決定が出る前)の再審請求人及び弁護人の講演会を実施しました。

 本年も12月2日(土)にシンポジウムを実施すべく企画中です。詳細が決まりましたらこのホームページでお知らせしますので、ご確認ください。

(参考資料:昨年度のシンポジウムのチラシ)

三2210死刑廃止を考える日チラシ.png

2.死刑に関する勉強会

 毎月1回程度、死刑制度廃止委員会に所属する委員同士で集まって、死刑に関する勉強会を開催しています。

 勉強会の内容は様々であり、死刑判決が下された実際の事件について、その弁護人を務めた弁護士を招いて事件の問題点や弁護手法について議論したり、あるいは、死刑制度の理論的問題について、大学教授を招いて講義を受けたりと、最先端の議論に取り組んでいます。

 その他、随時委員同士で情報交換を行い、死刑に関するニュースや、他の弁護士会の取り組み、おすすめの書籍などを教えあって、日々切磋琢磨しています。

(勉強会の様子)

勉強会.JPG

3.国会議員との意見交換

 所属政党を問わず、また、死刑廃止派か存置派かを問わず、愛知県選出の国会議員に対し、死刑制度に関するアンケートを行ったり、死刑廃止を求めて面談を行ったりと、コミュニケーションをとっています。

 また、本年は、死刑制度を取り巻く状況についてQ&A形式でまとめたパンフレットを作成して配布しました。

おわりに

 死刑制度廃止委員会では、以上のような活動を通して、市民の皆様一人一人が死刑制度について考え、議論する土台を提供したいと考えております。

 12月2日(土)実施予定の「死刑廃止を考える日」シンポジウム等、市民の皆様に向けた情報発信については、随時このホームページで公開しますので、ぜひご確認ください。