このたび、愛知県弁護士会では、下記要領にてシンポジウム「えん罪 湖東記念病院事件から考える再審法の問題点 再審法改正の実現に向けて」を開催いたします。

事前申込不要・参加無料ですので、えん罪や再審法の議論に関心のある方、あるいは「えん罪とか再審法とか初めて聞いた。どういうものだろう?」という方も、是非ご参加ください。

企画概要

内  容  講演

 実在のえん罪事件「湖東記念病院事件」の当事者、主任弁護人、本事件を追った書籍の著者のお三方をお招きし、ご講演いただきます。

日  時  2023年7月22日(土)13時~16時

場  所  中区役所ホール

      (名古屋市中区栄四丁目1番8号 地下2階

      (地下鉄栄駅12番出口より東へ1分)

参加対象  会員及び一般市民

定  員  先着500名 (事前申込不要、予約不可)

※新型コロナウイルスの蔓延状況によっては、入場制限その他のご協力をお願いする場合がございます。

主  催  愛知県弁護士会

共  催  日弁連

企画の趣旨~「えん罪」と再審法改正の必要性

「えん罪」とは

ある日、身に覚えのない罪に問われて、刑務所に服役する。

「そんなことがあるのだろうか」と思われるかもしれません。

ですが、2007 年、西山美香さんは無実の罪により刑務所に収容され、その後10 年を超える長きにわたり刑務所で生活されました。

無実の罪を「冤罪(えん罪)」といいます。えん罪は、取り返しのつかない結果を引き起こす重大な人権侵害です。

そのため、えん罪が発生した場合には、すみやかに救済すべきであることは言うまでもありません。

えん罪を防ぐために~救済手段としての再審法とその課題

えん罪被害のすみやかな救済のためには、裁判のやり直しを認める「再審」が重要となります。

しかし、現在の法制度(刑事訴訟法)の再審の規定は、500条を超える条文の中でわずか19 条にとどまります。

しかも、再審請求審における具体的審理の在り方は裁判所の裁量に委ねられており、証拠開示の基準や手続は明確ではありません。

また、再審開始決定がなされても検察官が不服申立てを行う事例が相次いでおり、えん罪被害者の速やかな救済が妨げられています。

このような現行の再審制度が抱える制度的・構造的な課題により、えん罪被害者の救済は残念ながら進んでいません。

えん罪被害者のすみやかな救済のためには、再審法改正が必要です。

講演「えん罪 湖東記念病院事件から考える再審法の問題点 再審法改正の実現に向けて」

この度、湖東記念病院事件を題材とした「冤罪をほどく」の著者の秦融さん、同事件の再審請求人である西山美香さん、主任弁護人の井戸謙一弁護士にご講演いただきます。

えん罪被害者が再審無罪を勝ち取るまでの道のりについてのお話を伺い、再審法改正の必要性やあるべき再審法改正の内容について、皆様と一緒に考えたいと思います。

講師・パネリストのプロフィール

■秦 融(はた・とおる)氏

湖東記念病院事件(えん罪被害者は西山美香氏)を題材とした「冤罪をほどく」の著者(中日新聞編集局と共著)。同書では、第一次再審請求によって再審の扉が開かなかった時期に、獄中からの350余通の手紙等からえん罪の可能性に気付き、家族や支える会への取材、専門医の協力等を経て、発達障害・知的障害が自白の強要につながったという新たな視点を得て、「冤罪をほどく」に至った経過が綴られている(2022年講談社本田靖春ノンフィクション賞を受賞)。

■井戸謙一弁護士

 湖東記念病院事件の主任弁護人。

1954 年大阪府生まれ。

1979 年判事補として任官。2011 3月に退官。

現在、滋賀県彦根市の井戸謙一法律事務所の代表弁護士。

■西山美香さん

 湖東記念病院事件の再審請求人。

【湖東記念病院事件】

2003(平成15)年5 22 日、滋賀県愛知郡湖東町(当時)所在の湖東記念病院に看護助手として勤務していた西山美香さんが、同病院に慢性呼吸不全等の重篤な症状で入院中であった患者(当時72 歳)に装着された人工呼吸器のチューブを引き抜いて酸素供給を遮断し、急性低酸素状態に陥らせて殺害したとされた事件。

西山さんは、捜査段階で自白したものの、公判では否認に転じ、その後は一貫して無罪を主張してきました。しかし、2005(平成17)年11 29 日、大津地方裁判所は懲役12 年の有罪判決を言い渡し、2007(平成19)年5 21 日、最高裁判所の上告棄却決定により、同判決は確定しました。そして、西山さんは刑務所に収容されました。

西山さんは 、判決確定後も無罪を訴え、2010(平成22)年9月10日、大津地方裁判所に再審を請求しましたが、2011(平成23)年3月30日、大津地方裁判所は請求を棄却し、再審を開始すること自体を否定しました。西山さんは最高裁まで争いましたが、2011(平成23)年8月24日、最高裁で特別抗告が棄却され、再審は開始されませんでした。再審請求から特別抗告棄却までの期間はわずか1年足らずでした。

西山さんは、患者の死因や自白の信用性を争い、2012(平成24)年9月28日に2度目の再審請求をしました。2017(平成29)年12 20 日、大阪高等裁判所は、新旧証拠の総合評価を行い、①患者が他の死因で死亡した可能性があること、②自白についても、その変遷から体験に基づく供述ではないとの疑いがあり、西山さんが捜査官の誘導に迎合した可能性があることから、患者が自然死した合理的疑いが生じたとして再審開始を決定しました。

2019(平成31)年3 18 日、最高裁判所第二小法廷も、検察官の特別抗告を棄却して再審開始決定が確定し、再審公判が開かれました。

再審公判手続では、警察が検察官へ送致していなかった証拠の存在が明らかとなり、人工呼吸器の管内での痰の詰まりにより患者が心臓停止した可能性もあるとする解剖医の所見が記載された捜査報告書などが新たに開示されました。

2020(令和2)年3 31 日、大津地方裁判所は、患者の死因が人工呼吸器の管の外れに基づく酸素供給欠乏により死亡したと認めるに足りる証拠はなく、かえって、患者が低カリウム血症による致死性不整脈等、上記以外の原因で死亡した具体的な可能性があるとし、事件性を認めるに足りないと判断しました。そして、西山さんの自白についても、信用性に疑いがあるのみならず、防御権の侵害や捜査手続の不当によって誘発された疑いが強く、その任意性にも疑いがあるとし、証拠排除しました。

判決は無罪。検察官は控訴せず、西山さんの無罪が確定しました。2度目の再審請求から7年半、最初の再審請求からは9年半、先の有罪判決確定からは13年近くが経過していました。