愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > 高齢者・障害者総合支援センター運営委員会 > 編集にあたって
編集にあたって
ちょっと前の話だが、あるご婦人からこんな法律相談を受けたことがある。
実家は母と知的障がいのある兄(独身)の2人暮らしだったが、母が1年前に他界して今は兄独りで住んでいる。最近相談者が実家を訪ねたら 屋根に見慣れない太陽熱温水器が設置してあり、玄関先にもう1台太陽熱温水器が置いてあった。不審に思って家に入るとパソコンが入った段ボール箱が開けな いまま放置されていた。兄を問いつめたら、母が死亡して間もなくセールスマンが訪ねてきた。兄はその人の勧めるまま太陽熱温水器を買った。その後別のセー ルスマンが来て、また太陽熱温水器を勧めた。そのセールスマンが言うには冬になるともう1台必要になるとのことだった。それなら買おうと思ってすぐ申し込 んだ。そのころまた別のセールスマンが来てパソコンを勧められた。これからの世の中はパソコンが使えないと仕事もさせてもらえない、我が社からパソコンを 買った人には懇切丁寧に使い方を教えるということだったのですぐ買ったという。兄にはパソコンを使う能力はない。兄はクレジット会社から毎月12万円以上 の返済の催促を受けているが、月給15万円しかもらっていないのでとても支払えない。何とかならないでしょうか。
私は早速、弁護士名義でクレジット会社と販売会社に解約の手紙を出して交渉をし、この件は事なきをえた。しかし「こういう兄のことだか ら、勧められるままにまたクレジットを組まされるんじゃないか。兄のことを考えると夜も眠れない。」というご婦人の心配はもっともだった。私はこのご婦人 を補助人とする補助開始(成年後見制度)の申立をするとともに、「セールスマンに告ぐ! この家の住人に何かを販売しても全て無効です。弁護士××」とい う貼り紙を、玄関の見やすいところに貼っておくように指示した。あれから何もご婦人から言ってこないから、多分あの件はあれで収まったのかなあと思ってい る。
知的障がいを持った人やその家族がこのような被害にあったり悩んだりすることは、それこそ日常茶飯事だと思う。しかし、われわれ弁護士は 彼らに対してこれまで十分な援助の手を差しのべてきたであろうか。彼らは社会生活を営んでいく上でどんな困難な状況に置かれているのか、公的な援助制度は どの程度保障されているのか等について、一部の先進的な弁護士は別にして、ほとんどの弁護士は十分な知識も持っているとは言えない。
こんな問題意識から出発して、本書を発刊することにした。
本書が、知的障がい者が「ともに暮らせる社会」の実現のための一助になれば望外の幸せである。
2002年10月
- 名古屋弁護士会高齢者・障害者問題特別委員会第三部会
- 部会長 鈴木 泉