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はじめに

 障がいをもつ人々が人権を保障され、幸せに生きるためには、さまざまな配慮が必要です。とりわけ、自分の意思を表明できない、あるいは人とのコミュニケーションを不得手とする知的障がいをもつ人々は、本来、さまざまな社会の諸相で支援のシステムが不可欠です。しかし、社会の無理解と支援システムの欠如から、今までの社会の仕組みの中で、知的障がいをもつ人々は、十分な支援を受けていないばかりか、権利侵害に晒されてきた現状があります。

 障がい者の権利宣言では「障がい者はその人間としての尊厳が尊重される権利を生まれながら有する。障がい者はその障がいの原因、性質、程度のいかんを問わず同年齢の市民と同一の基本的な権利を有する」と謳っています。近年、国際障がい者年、国連障がい者の10年の理念のもと、雇用や福祉の分野を中心に、少なからず国や地方自治体の施策に取り組みがみられるようになり、社会参加の場面は広がりつつあります。

 わたくしたちのかかわる法律の分野は、知的障がいをもつ人々の自立と社会参加を手助けする力を本来最も持っているはずです。けれども、わが国の刑事訴訟手続や民事訴訟手続はじめ多くの裁判に関する法律は、原則として障がい者が裁判を受けることを想定してこなかったといってよいと思います。

 名古屋弁護士会では、高齢者・障害者問題特別委員会のメンバーを中心に、昨年来、知的障がいをもつ人々の抱える問題について、取り巻く家族、施設関係者、研究者の方々の声に耳を傾け、また知的障がいを抱えた人々の生活する場に足を運んで、少しずつ理解を深めてきました。このような体験から、わたくしたちは、法律家として知的障がいをもつ人々の様々な問題に殆ど関わりを持ってこなかったことを反省し、思いを新たにいたしました。

 このたび、わたくしたちは、法律家としての責務を果たすため、障がい者の生活全般の実態を十二分に理解し、その障がいの程度、内容に応じて最も適切な法的な支援を考えるべく、ここに民事実務支援マニュアルを作成しました。

 この分野で、司法が重要な役割を果たすこと、また、わたくしたちがその一翼を担うことを決意して、本書を送り出したいと願っています。

2002年10月

  •     名古屋弁護士会
  •     会長    成 田   清