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消費者問題速報 VOL.108 (2012年12月)

1 借主が借入停止を決意し,あるいは信用状態の悪化により無効登録がなされた時点をもって過払金返還請求権の消滅時効の起算点とする貸金業者の主張が否定された判決(岐阜簡判平成24年9月11日)

 本件では,借主が借入を止めることを決意し,あるいは借主の信用状態の悪化により無効登録がなされたときは,以後,新たな借入が予定されていないから,前者の場合には過払金充当合意が消滅し,後者の場合には過払金充当合意と異なる合意が成立しているとして,それらの時点から過払金返還請求権の消滅時効が進行すると,被告である貸金業者が主張をしていました。

 本判決は,借主が借入れを止めることを決意したことをもって過払金充当の合意が消滅したと解することはできず,信用状態の悪化による無効登録も貸金業者の内部手続に過ぎないから過払金充当合意と異なる合意が成立したとはいえないとして,消滅時効の完成をいずれも否定し,原告の請求を認容しました。

2 判決確定後,代理人弁護士を無視して過払金を本人の口座に直接送金したKCカードに対して損害賠償を命じた判決(宮崎簡判平24年11月20日)

 被告は,過払金返還請求訴訟の判決確定後も減額交渉を継続して,減額に応じてくれる借主の代理人に対しては代理人口座に過払金を送金し,減額に応じない借主に対しては本人口座に振り込む対応をしていました。

 本判決は,被告のこのような対応は,借主と代理人の信頼関係を崩壊させる要因を与え,代理人の報酬請求権の円滑な行使を妨害する行為であり,債務の履行行為であったとしても不法行為に該当するとして,借主と原告それぞれに対して損害賠償を支払うことを命じました。

3 ①クレジット契約に付随しないカードローン契約について,借入の有無に関わらず1個の取引が成立しているとして,第1取引と3年6月の期間を空けて開始された第2取引とを一連の取引と認定した判決。②利率変更の前後を通じて1個の過払金充当合意が存在するとした判決。③無効登録のときから消滅時効が進行することを否定した判決(大阪地判平24年11月20日)

 本判決は,①について,カードローン契約は金銭消費貸借取引を目的とする契約であるから,同カードに基づく借入れをするか否かにかかわらず金銭消費貸借契約が成立しているとの考え方を示し,取引期間中に完済することがあったとしてもカードローン契約に係る契約関係が終了することはなく,完済の有無にかかわらず一連の取引であるとしました。その上で,第1取引と第2取引の間に3年6か月の期間がある場合でも,1個の過払金充当合意に基づく取引である以上,第1取引の過払金が第2取引に充当されるとしました。②は,貸付利率を利息制限法の範囲内の利率に変更したことにより,別個の取引が開始したとの貸金業者の主張に対し,貸付利率の変更により従前の基本契約を解約したなどの事情があるとは認められないとして,利率変更の前後を通じ1個の過払金充当合意が存在していると認定しました。その上で,本速報1の判決と同じく,③無効登録による貸付停止によっても,従前のカード契約が終了したことを意味するとは理解できないとして,消滅時効に関する貸金業者の主張を退け,原告の請求を認容しました。

4 消費者である賃借人に後見開始又は補佐開始の審判ないし申立があったことを理由として賃貸借契約解除の意思表示をすることにつき,差止が認められた判決(大阪地判平成24年11月12日)

 適格消費者団体消費者支援機構関西が不動産賃貸業者に対してした差止請求訴訟で,裁判所は,①消費者との間で建物賃貸借契約を締結するに際し,賃借人に対する後見開始又は補佐開始の審判や申立があったときに契約を解除できるとの意思表示は,賃借人の資力は無関係であり,消費者契約法10条に違反するとして差止を認め,②上記文言が記載された契約書用紙の廃棄を命じました。

5 携帯電話の定期契約の解除による解除料を一律に課すことが違法であるとして解除料条項の使用差止を求めた訴訟で、請求が棄却された事例(京都地判平成24年11月20日)

 適格消費者団体京都消費者契約ネットワークがソフトバンクモバイル株式会社に対し,携帯電話の定期契約(ホワイトプランN)に一律の解除料を課すことは違法であるとして解除料条項の使用差止を求めた訴訟で,裁判所は,解除料の額がソフトバンクの損害を下回っており,不当に高額とはいえないこと,ホワイトプランNは基本使用料が安いなど消費者が優遇される面もあること,解約条項についてウェブページなどで十分な説明があり,消費者も当該解除料条項を十分認識した上で契約を締結していることなどを認定し,請求を棄却しました。

 auに対する同様の訴訟では,定期契約の解約金条項を無効とし,その使用の差し止めを認めるとともに,解約金の一部返還が命じられています(京都地判平成24年7月19日判決)(消費者問題速報Vol.104