本日、大阪拘置所において、死刑確定者1名に対して死刑が執行された。今回の死刑執行は、昨年6月の執行以来のものであり、高市内閣となって初めてのものである。
当会を含めた多数の弁護士会及び日本弁護士連合会は、昨年6月の死刑執行の際にも、これに対する抗議声明を発表し、死刑執行を停止するよう求めた。それにもかかわらず、高市内閣の平口洋法務大臣が死刑執行を命じたことは極めて遺憾であり、当会は、今回の死刑執行に対し、強く政府に抗議するものである。
本件死刑囚は、放火により5人を殺害したもので、このような犯罪は決して許されるものではなく、被害者のご遺族の方が厳罰を望まれる心情は十分に理解でき、悲惨な体験をされた犯罪被害者・遺族の方々に十分な支援を行うことは社会全体の責務である。しかしながら、そうした犯罪者に死刑を執行することは、これまたかけがえのない生命を奪うもので、非人道的な刑罰であり許されないものであると考える。
また、終身刑などと比べて死刑に特別な犯罪抑止力があることを示す根拠は薄弱であり、このような悲惨な事件の再発を防止するためには、本件死刑囚のような境遇に置かれた人物について、社会からの孤立を防ぐ粘り強い努力こそが重要であると考える。
翻って、私どもは、死刑制度が持つ問題点から目を逸らしてはならないと考える。判決には常に誤判の恐れがつきまとうところであり、日本においては、これまでにも、2024年9月の袴田事件再審判決を含めて5件の死刑確定事件についての再審無罪が確定している。このことは、裁判は人が行なう以上、誤判の可能性が否定できないことを物語っている。また、死刑えん罪には、死刑か無期懲役かという量刑上の判断を誤ることもある。誤って死刑が執行されれば、それは二度と取り返しのつかないことであり、そうした事態は絶対に回避されなければならない。
更にまた、死刑の廃止は国際的な趨勢である。2024年12月末日現在、法律上・事実上の死刑廃止国は145か国に及び、世界の中で3分の2以上を占めている。そして、OECD(経済協力開発機構)加盟国38か国のうちで死刑を残置しているのは、日本、米国、韓国の3か国だけであるが、韓国は長年死刑の執行をしておらず事実上の死刑廃止国であり、米国も多くの州で死刑廃止ないし死刑の執行停止が宣言されており、国家として統一的に死刑を執行しているのは、日本だけである。
こうした死刑制度が持つ重大な問題性や国際的な死刑廃止への潮流に鑑み、日本弁護士連合会は、2016年10月7日に福井で開催した人権擁護大会において、死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言(いわゆる福井宣言)を採択し、その中で2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきであると宣言した。そして、当会も、2020年12月15日、死刑制度の廃止を求める決議を採択し、国に対し、死刑確定者に対する死刑の執行を直ちに停止し、速やかに死刑制度を廃止することを求めた。
ところで国会議員、学識経験者、警察・検察出身者、弁護士、経済界、労働界、被害者団体、報道関係者、宗教家及び文化人ら委員16名による「日本の死刑制度について考える懇話会」が設置され、日本における死刑制度に関して熱心に検討された。そして、2024年11月には、委員16名全員一致で、日本の死刑制度とその現在の運用の在り方は、放置することの許されない問題を伴っており、早急に、死刑制度について、根本的な検討を任務とする公的な会議体を、国会及び内閣の下に設置することを提言した。それにもかかわらず、本日、政府の決定により死刑が執行されたものであり、強い非難を免れない。
当会としては、改めて、上記のとおり国会に公的な会議体を設置し、かつ死刑執行を停止するとともに、速やかに死刑制度自体を廃止すべきことを強く訴える。そして、当会は、死刑廃止の実現に向けて粘り強く運動を進めていく決意である旨を表明する。
2026年(令和8年)8月21日
愛知県弁護士会
会 長 長谷川 龍伸

