1 はじめに
政府は、2026年5月27日、国家情報会議設置法を制定し、本日、同法が施行された。
同法は、「国家情報会議」及びその事務局として「国家情報局」を新設して、各行政機関が保有する情報を集約し、国家安全保障に資するインテリジェンス機能を強化することを目的としている。
たしかに、政府の意思決定が正確な情報に基づくべきことは当然であり、インテリジェンス機能の強化そのものを否定することはできない。しかし、同法は、プライバシー権や表現の自由を侵害する重大な危険性を内包している。
2 既存のインテリジェンス機関による違法行為
これまで、日本のインテリジェンス機関とされている都道府県警察、公安調査庁、自衛隊情報保全隊が、市民のプライバシー権を侵害し、裁判所から違法とされた事例が繰り返されている。
これらの事例は、政府に批判的な市民が監視対象とされてきた歴史を示しており、プライバシー権侵害にとどまらず、市民が政府を監視するという民主主義の根幹を揺るがす問題である。
先週にも、陸上自衛隊の中央情報隊の対外情報部門が、市民を対象に思想・信条等の情報を調査・収集していたとの報道があった。もし、このような報道が事実なのであれば、違法行為である可能性が高い。
3 国家情報会議設置法の施行がもたらす危険性
国家情報会議は、内閣総理大臣を長として、各インテリジェンス機関を統括する強大な権限を持つため、行政権が過度に集中して、権限濫用の危険性が高くなり、三権分立を定めた憲法の理念に反する懸念がある。
国家情報会議設置法7条は、各行政機関の長に対し、国家情報会議への情報提供義務を課している。その結果、各行政機関が個別目的で収集した個人情報が本人の同意なく横断的に共有されることとなる。その結果、国家情報会議は、各行政機関の保有する個人情報の全てを管理・使用することが可能となる。また、違法に収集された情報が政府内部で伝達される可能性も否定できない。これらのことにより、憲法13条が保障するプライバシー権が侵害されるおそれがある。
前述したように、裁判所が違法とした監視の対象は、いずれも政府に批判的な市民や団体であった。そのため、強大な権限を持つインテリジェンス機関である国家情報会議が設置されれば、憲法21条が保障する政治的表現の自由、憲法19条が保障する思想・良心の自由に深刻な萎縮効果をもたらす。
民主主義は、政府への自由な批判が保障されてこそ成立するから、政治的表現の自由や思想・良心の自由を萎縮させる国家情報会議の設置は、民主主義の基盤を揺るがすこととなる。
4 活動ルールの整備、第三者機関の設置の欠如
行政権の濫用を防止するためには、国家情報会議を含むインテリジェンス機関の活動ルールの法定化、インテリジェンス機関を監視する独立した第三者機関の設置による民主的統制や司法統制の仕組みが不可欠である。
しかし、国家情報会議設置法の施行までに、別途、インテリジェンス機関の活動ルールの法定化や、インテリジェンス機関を監視する独立した第三者機関の設置がされることはなかった。
民主的統制や司法統制の仕組みが不十分な形で、インテリジェンス機関の強化だけを先行させれば、これまで以上に、行政権濫用が懸念される。
5 関連法制に対する懸念
政府は今後、外国代理人登録法、機密漏えい行為の厳罰化、対外情報庁(仮称)の設置といった更なるインテリジェンス・スパイ防止関連法制を検討している。
しかし、制度の必要性や人権侵害の危険性を踏まえて、慎重な審議がなされないと、これらの法制も人権侵害をもたらし、民主主義に反する危険性がある。
6 結論
以上のとおり、国家情報会議設置法の施行は、市民のプライバシー権を侵害する危険性、政府の批判を萎縮させる危険性、行政権の集中により立憲主義を崩壊させる危険性を内包しており、重大な問題を含んでいる。
よって、独立した第三者機関を設置することなく、国家情報会議設置法を施行することに強く反対するとともに、政府に対し、インテリジェンス機関の活動ルールの法定、関連法制の慎重な検討を求める。
2026年(令和8年)7月31日
愛知県弁護士会
会長 長谷川 龍伸

