一見勝之三重県知事は、2025年12月25日、外国籍の県職員によって秘匿性の高い情報が他国に流出することに懸念を示し、1999年度以降、外国籍者にも門戸を開いてきた県職員の採用方針について国籍要件を復活させ、公権力の行使に関わらない業務であっても外国籍者の職員採用を取りやめる方向で検討を始めたと明らかにした。そして、例年県民に対して実施している「みえ県民1万人アンケート」において、外国籍職員の採用継続の是非を問い、その結果を踏まえて最終的な判断を行うとして、当該アンケートを実施した。
しかしながら、三重県の上記方針には、人権保障の観点から重大な問題がある。
憲法上の基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民に限られるものを除き、在留外国人にも及ぶものである。憲法14条1項が保障する法の下の平等原則及び同22条1項が保障する職業選択の自由も在留外国人に及び、外国籍者を国籍のみを理由として、一律に除外することは、目的の正当性及び手段の合理性を欠くものといえ、これら憲法上の権利を侵害するものである。
この点に関し、地方自治体における外国籍者の職員採用については、1953年の内閣法制局による「公務員に関する当然の法理」を根拠に制限されてきたという歴史があった。しかし、1970年代以降、国籍要件を撤廃する地方自治体が増加し、1999年、三重県でも県職員の多くの職種で国籍要件を撤廃し、現在は49職種のうち44職種で国籍要件が廃止されている。このような動きは、日本が1970年代から自由権規約、社会権規約、人種差別撤廃条約、難民条約等、人種等による差別を禁止する国際人権諸条約を批准してきた流れにも沿うものである。
また、日本には2025年6月末時点で395万人を超える外国籍者が居住していることからすると、外国籍者が公務を担うことは、多様な住民の実情に即した行政サービスを実現し、多民族・多文化共生社会の実現に資するという点でも重要である。
そもそも県職員には、国籍にかかわらず、地方公務員法及び個人情報保護法、刑法等によって守秘義務が課せられており、違反した場合には刑事責任を含む厳格な責任が問われる。情報漏洩の危険性は国籍にかかわらずあり得ることであり、十分な根拠を示さないまま国籍と情報漏洩のリスクとを一般的に結びつけ、外国籍という属性それ自体を理由として採用の機会を一律に制限することに、合理性は認められない。なお、一見知事が懸念する外国籍の県職員による情報漏洩の事実はこれまで確認されていない。
したがって、外国籍者を国籍のみを理由として、一律に三重県の職員採用から除外することは、目的の正当性及び手段の合理性を欠き、憲法14条1項及び職業選択の自由を保障する憲法22条1項に反するものである。
また、三重県の「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」は、「県行政のあらゆる分野において人権尊重の視点に立って取り組むとともに、不当な差別その他の人権問題を解消するための取組をはじめとする人権施策」の推進を県の責務としており(同条例5条)、同条例において不当な差別の対象となる属性には「国籍」が含まれている(同条例2条1号)。したがって、一見知事の上記方針は上記条例にも違反するものである。
加えて、三重県が、外国籍者の職員採用継続の是非につき、有権者名簿に記載された日本国籍の県民に対するアンケートを参考資料とすることは、マイノリティの人権制約について多数決原理を採用するに等しく、人権保障の観点から重大な問題がある。さらに、県が「公務員の守秘義務に抵触する事案が発生することが懸念」されるとの前提でアンケートを実施すること自体、外国籍者に対する偏見や差別を助長する危険性が極めて高い。
三重県及び当会が拠点を置く地域には、多くの外国籍住民が居住しており、各地方自治体が多文化共生社会の推進を図っている。また、多くの住民や弁護士が外国籍者の人権保障に向けた取組に参画しており、三重県が、職員採用において国籍要件復活を検討していることは、外国籍者の人権を脅かすものであって看過することはできない。
以上の理由から、当会は、三重県が、職員採用において国籍要件を復活させることに反対するものである。
2026年(令和8年)2月26日
愛知県弁護士会
会 長 川 合 伸 子

