2025年9月8日、佐賀県警察科学捜査研究所の技術職員が、刑事事件のDNA型鑑定を実施していないのに、実施したかのように報告するなどの行為を含む不正行為(以下、「本件不正行為」という。)を繰り返していたことが明らかとなった。

 報道によると、2017年以降、本件不正行為は130件に上り、うち、実際は鑑定していないのにしたように装い、DNA型が検出されなかったことを示す書類を作った事例が9件、ガーゼ片などの鑑定資料の余りを鑑定後に紛失し、代わりの物を警察署に返すなどした事案が4件あったようである。

 本件不正行為について、佐賀県警は、捜査・公判への影響はなかったと説明しているが、虚偽証拠の作出は、憲法が保障する適正手続をないがしろにし、刑事訴訟の目的である事案の真相を明らかにすることを妨げる行為であって、当該証拠の捜査・公判への影響の有無を問わず許容されることではない。

 殊に、DNA型鑑定は、個人を高い精度で識別する鑑定法であると考えられており、血痕等の現場資料からの被疑者の特定、被疑者でない者の捜査対象からの除外等の個人識別に活用されている。そして、DNA型鑑定の結果は、刑事司法の現場においても高度に信用性のある証拠として扱われ、DNA型鑑定の結果が捜査や公判の帰趨を左右することも少なくない。従って、今回のようなDNA型鑑定をめぐる不正行為の発覚は、刑事司法に対する信頼を著しく損なうものである。

 加えて、鑑定資料を紛失し、「代わりの物」を返却したということであれば、資料の紛失は将来の再審請求事件において再度の鑑定を不可能とする行為であって、えん罪の救済を不可能とする行為であるし、代替物の返却は新たなえん罪を招来する危険な行為でもある。

 この問題を受け、警察庁は10月8日、首席監察官ら約10人を現地に派遣して特別監察を始め、不正の原因の分析や再発防止策を点検すると報じられているが、特別監察は、重大な不祥事などを受けて規律保持のために警察庁長官の指示で行われる警察組織による監察であり、刑事司法に対する信頼を回復するために十分なものとはいえない。

 今回のような深刻な不祥事に対しては、再発防止の観点から徹底的な原因究明が行われるべきであり、そのためには、警察組織による調査にとどまらず、第三者機関を設置した上で、本件不正行為が捜査や刑事公判に与えた影響を検証するとともに、本件不正行為が発生した原因、長期間にわたり本件不正行為が発覚しなかった原因等について十分な検証を行い、DNA型鑑定に携わる者による不正行為を、完全に排除する体制を構築するよう求める。

2025年(令和7年)11月12日

                     愛知県弁護士会

                      会 長 川 合 伸 子