本年(2025年)6月18日、衆議院に「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)が提出され、その後、衆議院法務委員会に付託されて、閉会中審査となっている。

 本法案は、「再審制度によって冤(えん)罪の被害者を適正かつ迅速に救済し、その基本的人権の保障を全うする」という観点から、①再審請求審における検察官保管証拠等の開示命令、②再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止、③再審請求審等における裁判官の除斥及び忌避、④再審請求審における手続規定を定めるものである。これは、当会が、2023年3月23日の臨時総会において行った「再審に関する法改正を求める決議」や、これまで会長声明を発出して求めてきた再審法改正の内容と軌を一にするものであって、高く評価されるべきものである。

 「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」(再審法改正議連)は、昨年3月に発足して以来、全国会議員の半数を超える議員の参加を得て、えん罪被害者、最高裁判所、法務省、日本弁護士連合会等からのヒアリングを実施し、それを踏まえて改正項目や条文案を検討するなど、精力的な活動を重ねてきたものであり、今般、それが本法案として結実したものである。当会は、再審法改正議連をはじめとする関係各位のこの間の尽力に深い敬意を表する。

 一方で、再審法改正に関しては、本年4月21日以降、法制審議会刑事法(再審関係)部会(以下「法制審部会」という。)において審議が行われ、本法案の定める4項目も審議対象となっている。

 しかし、上記4項目の改正について、検察官と密接な関係を有する法務省が事務局を務める法制審議会が主導的な役割を担うことについて、まず、強い懸念を表明せざるを得ない。実際、この間の法制審部会での審議では、静岡4人強盗殺人・放火事件(いわゆる「袴田事件」)や福井女子中学生殺人事件などの著名えん罪事件を通じて明らかになった再審法の不備を指摘して法改正を求める意見がある一方で、再審手続における証拠開示の範囲を新証拠及びそれに基づく主張に関連する限度にとどめようとする意見や、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止することに消極的な意見も見受けられる。これを受けて、事務局を務める法務省が原案を取りまとめる形で進められており、上記4項目の内容による答申がなされるのか、不透明と言わざるを得ない。また、法制審部会では、上記4項目に関する是非を含む全14項目に及ぶ論点が提示されており、早期の取りまとめを目指すとしても、その法案化までには相当な期間を要することは明らかで、改正が速やかに進む目処は立っていないと言わざるを得ない。

 このような状況に照らせば、まずは「国の唯一の立法機関」である国会において、速やかにあるべき再審法改正の方向性を示すことが重要である。再審法改正は、何よりもえん罪被害者の速やかな救済に資するものでなければならず、上記4項目は、数多くある論点の中でも、えん罪被害者の速やかな救済を実現する上で根幹をなすものであるから、本法案の内容で、早急に法改正がなされるべきである。そして、法制審部会は、その方向性に沿って、残された論点も含めて審議を尽くす役割を担うべきである。

 よって、当会は、国会に対し、速やかに本法案の審議を進め、今秋の臨時国会において、本法案を可決・成立させることを求めるものである。

 2025年(令和7年)10月9日

                      愛知県弁護士会

                       会長 川 合 伸 子