司法は、法の支配を実現し、国民の権利を守るための社会インフラです。そのため、国による整備が求められます。
そして、司法を担う裁判官、検察官及び弁護士(以下、三者を総称して「法曹」といいます。)になるためには、司法試験に合格するだけでなく、原則として、約1年にわたって法律により義務付けられた「司法修習」を経る必要があります。
司法修習では、裁判所、検察庁及び法律事務所において、実務法曹としてのいわゆるOJTを行うとともに、埼玉県和光市にある司法研修所における集中的なトレーニングを経て、法曹としての知識と実践力を養います。この司法修習を行う者を「司法修習生」といい、最高裁判所によって採用され、司法修習中に上記法曹としての素養をしっかりと身に着けるべく「修習専念義務」を課されています。
そのため、司法修習生には、終戦直後の昭和22年から60年以上にわたり、公務員に準じた給与が支払われていました。
しかしながら、平成23年、それまで司法修習生に支払われていた給与が廃止され(「給費制」の廃止)、同年に司法修習を開始した新第65期より司法修習は無給となり、最高裁判所が司法修習生に対し、その申請により司法修習期間中の生活費を貸し付ける「貸与制」が導入されました。
その後、平成29年4月19日に裁判所法が改正されて修習給付金制度が創設され、第71期以降、司法修習生に対して修習給付金が支給されていますが、制度変更の谷間に陥った新第65期から第70期までの司法修習修了者(以下「谷間世代」といいます。)には遡及適用されず、現在まで是正措置は設けられていません。
谷間世代の当事者からは、貸与金返済の負担が大きく、公益的活動をする経済的余裕がないとか、他の世代とは異なる不公平・不平等な取扱を受けたという思いを抱えているとの声があがっています。
谷間世代は、全法曹(裁判官・検察官・弁護士)の約5分の1にあたる約1万1000人存在し、概ね法曹となってから8~13年目の人材であって、法曹として十分な経験を積んで、これからの司法を支えるべき重要な立場にあります。谷間世代が抱いている経済的負担や不公平感を軽減することにより、谷間世代が法の支配の実現のためにより力を発揮することは、すべての人の利益につながります。
令和元年5月30日には、給費制廃止違憲訴訟(新第65期・名古屋)の名古屋高等裁判所控訴審判決において、「例えば谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分考慮に値するのではないかと感じられる」との付言がなされ、司法も立法府による解決に期待しています。
そこで、当会では、誰もが輝く力強い司法を実現し、国民への司法サービスが充実・拡大されるよう、国に対して、谷間世代に対する是正措置を求めてきました。
具体的には、国に対して給費制の復活を求め、署名集めや市民集会の開催、国会議員や地方議会議員等への陳情、日本弁護士連合会(以下「日弁連」といいます。)主催の議員会館での集会への参画等を中心に、様々な活動に取り組んで来ました。近年では、谷間世代に対し修習給付金と同額の一律給付による解決又は実質的に谷間世代への一律給付と異ならないような基金制度の創設を目指して活動してきました。
その結果、これまで谷間世代問題の解決に向けて寄せられた国会議員の応援メッセージは、令和7年5月23日時点で過半数を上回る391通に達しました(その後の選挙により、同年8月19日時点では361通ですが、なお過半数を上回っています。)。
そうしたところ、令和7年6月13日に閣議決定された、政府の「経済財政運営と改革の基本方針2025」(いわゆる骨太の方針2025)34頁において、「法曹人材の確保等の人的・物的基盤の整備を進める」と記載され、その注記172において「公益的活動を担う若手・中堅法曹の活動領域の拡大に向けた必要な支援の検討を含む。」と明記されました。これは、日弁連や当会ほか全国の弁護士会、弁護士会連合会等が、上記基金制度の実現などを目指して活動を続けてきたことが反映されたものです。
当会は、これまでと同じく、日弁連や全国の弁護士会と一体となって、谷間世代に対する不公平・不平等な取扱を解消するべく精力的な活動を継続していくことを改めて表明するとともに、国及び関係機関に対し、骨太の方針2025の上記記載内容を踏まえて、谷間世代問題を是正する手段として、修習給付金と同額の一律給付による解決又は実質的に谷間世代への一律給付と異ならないような基金制度の創設という具体的措置が速やかに実現されることを強く求めます。
令和7年9月10日
愛知県弁護士会 会長 川合伸子