2025(令和7)年8月7日
愛知県弁護士会
会長 川 合 伸 子
第1 意見の趣旨
愛知県在宅重度障害者手当は、愛知県において、障害のある方が在宅で生活するための負担の軽減を図る一助として手当を支給し、福祉の増進を図ることを目的として[i]設立された県独自の制度である。
愛知県在宅重度障害者手当の支給対象は、①身体障害者手帳1級または2級かつIQ35以下(一種重度障害者、月額1万5500円)、②身体障害者手帳1級または2級、IQ35以下、身体障害手帳3級かつIQ50以下のいずれか(二種重度障害者、月額6750円)、となっており、精神障害者はこれら①②に該当しない限り支給対象となっていない(愛知県在宅重度障害者手当支給規則2条)。
しかし、在宅で生活するための負担軽減の必要があることは、精神障害者も他の障害者も同じであり、精神障害者を区別する合理的理由は見出しがたい。
したがって、いかに愛知県在宅重度障害者手当が国の制度の補完的な役割を担うものであるとしても、憲法を含む国内法の趣旨を尊重し、障害者間の公平性を期するとともに、精神障害者の在宅生活の負担軽減を図るためには、少なくとも一定の精神障害者を愛知県在宅重度障害者手当の支給対象に含めるべきである。
そこで、当会は、愛知県に対し、愛知県在宅重度障害者手当支給規則2条について、現在支給対象となっている身体障害者手帳及び療育手帳所持者の障害の程度に相応する精神障害者手帳所持者を支給対象に加えるものに改正することを要望する。
ただし、精神障害者を支給対象に含めることをきっかけに、別の要件で支給対象者を限定したり、各自の支給額を減らすことはすべきでない。
第2 意見の理由
1 愛知県在宅重度障害者手当について
愛知県在宅重度障害者手当は、障害のある方が在宅で生活するための負担の軽減を図る一助として手当を支給し、福祉の増進を図ることを目的としており(愛知県在宅重度障害者手当支給規則1条「在宅の重度障害者の福祉の増進を図るため支給する」)、愛知県独自の制度として1970年度(昭和45年度)に創設された。
愛知県在宅重度障害者手当の支給対象は、①身体障害者手帳1級または2級、かつ、IQ35以下(一種重度障害者、月額1万5500円)、②身体障害者手帳1級または2級、IQ35以下、身体障害手帳3級かつIQ50以下のいずれか(二種重度障害者、月額6750円)、となっており、精神障害者はこれら①②に該当しない限り支給対象となっていない(同規則2条)。
国の制度である「特別障害者手当」「障害児福祉手当」の受給者は愛知県在宅重度障害者手当の受給対象外とされており(同規則3条5号)、愛知県在宅重度障害者手当は、国の制度の補完的な役割を担うものと位置づけられている。
したがって、愛知県在宅重度障害者手当は、その性格上、支給対象をどのように定めるかについて、愛知県に広範な裁量が認められるものであるが、精神障害者を支給対象に含めないことについて、裁量権の逸脱・濫用があるか否かは、問題となる。
なお、愛知県においては、障害者自立支援法(平成18年4月1日施行)の制定にともない、愛知県在宅重度障害者手当の支給対象に精神障害者を含めるかの検討及び議論を行ったものの、精神障害者を対象としていない都道府県が多数であること、対象としている都道府県であっても支給額が愛知県在宅重度障害者手当の支給額よりも大幅に少額であったり、対象者の限定を図っているという他都道府県の状況の調査結果も踏まえ、制度の安定的な継続を重視し、支給対象に精神障害者を含めることは見送ったという経緯がある。
2 関連法令等
愛知県在宅重度障害者手当が創設された1970年(昭和45年)頃とは異なり、現在では、厚生労働省が平成16年9月に「精神保健福祉施策の改革ビジョン」を策定し、以後、「入院医療中心から地域生活中心へ」の基本理念のもと施策を進めており、精神障害者地域移行・地域定着支援事業として精神科病院からの退院促進事業も積極的に実施されているところである。
また、身体、知的、精神という障害種別ごとに縦割りでサービスが提供されており、使いづらい仕組みとなっていることや、精神障害者が支援制度の対象外であるという従前の制度上の問題を解決するために、平成17年に障害者自立支援法が制定されたという経緯がある。
さらに、障害者基本法においても「全て障害者は、可能な限り、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと」(3条第2号)と定められており、身体障害者、知的障害者と同じく精神障害者に対しても地域社会での生活ができるよう援助することが求められている。
3 精神障害者を支給対象者に含めるべきであること
(1) 愛知県在宅重度障害者手当は、在宅の重度障害者の福祉の増進を図ることを目的としているところ、厚生労働省が平成16年9月に「精神保健福祉施策の改革ビジョン」を策定し、以後、「入院医療中心から地域生活中心へ」の基本理念のもと精神障害者に関する施策を進めていること、障害者基本法が身体障害者、知的障害者と同じく精神障害者に対しても地域社会での生活ができるよう援助することを求めていること、障害者自立支援法制定により3障害に係るサービスが一元化されたことからすれば、愛知県在宅重度障害者手当の支給対象に在宅の重度の精神障害者を加えることが望ましいとは考えられる。
もっとも、重度の精神障害者に対する所得保障としての障害者雇用の促進、障害年金や特別障害者手当の拡充等は、一次的には国の責務と言え、愛知県在宅重度障害者手当が国の制度を補完する制度であることからすれば、支給対象の要件をどのように定めるかについての愛知県の裁量の範囲は広いと考えられる。そうだとすると、精神障害者手帳所持者が愛知県重度障害者手当の支給対象になっていないことのみを取り上げ、それが直ちに人権侵害とまで認めうる理由は見いだし難い。他県においても、類似の制度で精神障害者を支給対象としている県はほとんどなく、支給対象としている神奈川県で支給対象とされている精神障害者は、愛知県在宅重度障害者手当の要件でも支給対象となっており、むしろ、愛知県の方が支給対象は広い。また、埼玉県においては、精神障害者手帳1級の所持者を支給対象にしているものの、精神障害者を含む受給者数が愛知県在宅重度障害者手当の受給者数も支給額も少ないこと(埼玉県は月額5000円に対し、愛知県は1万5500円ないし6750円)、また、精神障害者手帳1級所持者の中には、特別障害者手当の受給者も一定数いると考えられることや、精神障害者手帳所持者に対する優遇措置が両県で異なることも視野にいれると、埼玉県における精神障害者に対する福祉施策が進んでいると断言することはできない。
(2) ア.もっとも、既に制度化されている愛知県在宅重度障害者手当が、①身体障害者手帳1級または2級、かつ、IQ35以下、②身体障害者手帳1級または2級、IQ35以下、身体障害手帳3級かつIQ50以下のいずれかを支給対象としながら、精神障害者手帳1級ないし3級を支給対象としないことが、法の下の平等に反するかどうかは別の問題と言える。
イ.精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令6条3項によると、精神障害者手帳1級の精神障害の状態は「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの」とされ、同2級のそれは「日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」とされている。
他方、身体障害者手帳は、身体障害者福祉法施行規則別表第5号「身体障害者障害程度等級表」によると、障害の種類別に等級が定められているものの、例えば肢体不自由の上肢機能の運動機能障害では1級が「日常生活動作がほとんど不可能なもの」とされ、2級が「極度に制限されるもの」とされ、3級が「著しく制限されるもの」とされている。また、心臓、じん臓若しくは呼吸器の機能の障害では、1級が「日常生活活動が極度に制限されるもの」とされ、3級が「著しく制限されるもの」とされている。
この日常生活が「著しく制限される」のを超えて「ほとんど不可能」「極度に制限」される身体障害者手帳1、2級の所持者を二種重度障害者として在宅重度障害者手当の支給対象とするのであれば、「著しい制限を受ける」を超えて「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの」とされる精神障害者手帳1級の所持者を二種重度障害者として支給対象に含めないのに合理的理由は見当たらない。
ウ. この点、愛知県は、前述のように障害者自立支援法の成立にともない、精神障害者を支給対象とするかの検討及び議論を行っているが、精神障害者を対象としていない都道府県が多数であること、対象としている都道府県であっても支給額が愛知県より少額であったり、対象者の限定を図っているとして、対象とすることを見送った。
しかし、愛知県における法の下の平等が問題になるのに、他県がどうなっているかは合理性の有無に影響しない。確かにいまだ精神障害者を対象としていない都道府県が多数であり、愛知県における手当の額は他の都道府県に比べ比較的高額と言えるが、そうであるからといって、精神障害者を除く不平等を合理化する理由にはなり得ないのである。
エ. 精神障害者に対する福祉施策は、3障害のうち、手帳一つとっても最も遅く(平成7年創設)、各種公共交通機関の運賃及び高速道路等の有料道路の料金についての割引制度が精神障害者のみ対象外となっていることも多いなど[ii]、3障害でも遅れているものが多い。
愛知県在宅重度障害者手当の創設時には精神障害者手帳の制度自体が存在しなかったので支給対象とならなかったことはやむを得ないが、精神障害者手帳創設後四半世紀を過ぎた現在では、前述のように厚生労働省が平成16年9月に「精神保健福祉施策の改革ビジョン」を策定して「入院医療中心から地域生活中心へ」の基本理念のもと精神障害者に関する施策を進めていること、障害者基本法が身体障害者、知的障害者と同じく精神障害者に対しても地域社会での生活ができるよう援助することを求めていること、平成18年施行の障害者自立支援法(現障害者総合支援法)により3障害に係るサービスが一元化されたことをも考え合わせると、少なくとも精神障害者手帳1級の所持者を二種重度障害者として本手当支給対象者にすら含めないことに合理的理由はない。いかに国の制度の補充的性格から愛知県の裁量が広いとはいえ、法の下の平等(憲法14条1項)に反する以上、裁量の逸脱・濫用と言わざるを得ない。
よって、意見の趣旨のとおり、支給対象の要件を改正することを要望するものである。
(3) ただし、精神障害者を支給対象に含めることをきっかけに、別の要件で支給対象者を限定したり、各自の支給額を減らしたりする場合には、それ自体が人権侵害となるおそれもあることから、改正にあたって留意されるべきである。
以上
[i] 愛知県在宅重度障害者手当支給規則1条「在宅の重度障害者の福祉の増進を図るため支給する」
[ii] 2022年6月17日 日本弁護士連合会 精神障害者を含む障害者の移動と社会参加への支援としての交通料金等の割引制度に関する意見書参照

