本日、東京拘置所において、死刑確定者1名に対して死刑が執行された。今回の死刑執行は、2022年7月の執行以来約3年ぶりのものであり、石破内閣となって初めてのものである。

 当会を含めた多数の弁護士会及び日本弁護士連合会は、約3年前の死刑執行の際にも、これに対する抗議声明を発表し、死刑執行を直ちに停止するよう求めた。それにもかかわらず、石破内閣の鈴木馨祐法務大臣が死刑執行を命じたことは、極めて遺憾である。

 本件死刑囚は、9人を殺害したとされるもので、このような犯罪が決して許されるものではないことは当然であり、被害者のご遺族のご心情を察するに余りある。被害者のご遺族の方々に十分な支援を行うことは、社会全体の責務である。

 しかしながら、こうした罪を犯した者に死刑を執行することは、これまたかけがえのない生命を奪うもので、非人道的な刑罰であり、許されないものである。そもそも、死刑に特別な犯罪抑止力があることを示す根拠は薄弱であり、このような悲惨な事件の再発を防止するには、誰一人として社会から孤立することのないように、防ぐ粘り強く努力していくことこそが必要であると考える。

 翻って、我々は、死刑制度が持つ問題点から目を逸らしてはならない。判決には常に誤判の恐れがつきまとうところであり、日本においては、これまでに5件の死刑確定事件について、再審無罪が確定している。最近では、2024年9月に、静岡地方裁判所で、いわゆる袴田事件の死刑再審無罪判決がなされている。このことは、裁判は人が行なう以上、誤判の可能性が否定できないことを物語っている。また、死刑には、死刑か無期懲役かという量刑判断の誤判のおそれもある。誤って死刑が執行されれば、それは二度と取り返しのつかないことであり、絶対に回避されなければならない。

 更にまた、死刑制度の廃止は国際的な趨勢である。2024年12月末日現在、法律上・事実上の死刑廃止国は145か国に及び、世界の中で3分の2以上を占めている。OECD(経済協力開発機構)加盟国38か国のうちでも、死刑制度を残置しているのは、日本、米国、韓国の3か国だけである。このうち、韓国は事実上の死刑廃止国であり、米国も多くの州で死刑制度廃止ないし死刑の執行停止が宣言されており、国家として死刑を執行しているのは、日本だけである。 

 こうした死刑制度の重大な問題性や国際的な死刑制度廃止への潮流に鑑み、日本弁護士連合会においても、2016年10月7日に福井で開催された人権擁護大会において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」(いわゆる福井宣言)を採択し、2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきであると宣言した。そして、当会も、2020年12月15日、「死刑制度の廃止を求める決議」を採択し、国に対し、死刑確定者に対する死刑の執行を直ちに停止し、速やかに死刑制度を廃止することを求めた。

 2024年11月には、国会議員、学識経験者、警察・検察出身者、弁護士、経済界、労働界、被害者団体、報道関係者、宗教家及び文化人らにより設置された「日本の死刑制度について考える懇話会」が、委員16名全員一致の意見として、日本の死刑制度とその現在の運用の在り方は、放置することの許されない問題を伴っているため、早急に、国会及び内閣の下に死刑制度に関する根本的な検討を任務とする公的な会議体を設置することを提言した。それにもかかわらず、本日、政府の決定により死刑が執行されたことは、強い非難を免れない。

 以上より、当会は、今回の死刑執行に対し、強く政府に抗議する。そして、当会は、改めて、直ちに死刑執行が停止されるとともに、速やかに死刑制度自体が廃止されなければならないことを強く訴え、死刑制度廃止の実現に向けて粘り強く運動を進めていく決意を表明する。

                   2025年(令和7年)6月27日 

                      愛知県弁護士会       

                       会 長  川 合 伸 子