1 最低賃金法1条には、「この法律は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」と規定されている。

 かかる目的の達成に向け、中央最低賃金審議会は、厚生労働大臣に対し、地域別最低賃金額改定の目安について答申を行っている。そして、同審議会の答申に基づき、全国の地域別最低賃金審議会が地域別最低賃金の改定額を答申し、これを受けて都道府県労働局長が地域別最低賃金の改定額を決定している。

2 愛知県における最低賃金は、令和6年10月1日に、前年度より50円引き上げられ時給1,077円とされた。

 もっとも、1,077円で18時間、140時間、年52週働いたとしても、月収約186000円、年収約224万円にしかならない。今なお続く物価の高騰に賃金の上昇が追いついておらず、実質賃金は減少を続けている。

 すなわち、名古屋市消費者物価指数(2025年4月分)は、総合指数(令和2年(2020年)=100)は111.9となり、前年同月比3.5%の上昇となった。他方、愛知県における2025年3月の賃金指数は、現金給与総額(事業所規模5人以上)にかかる名目賃金指数は前年比2.6%の増加となっているものの、実質賃金指数は前年比1.5%の減少となっている(「あいちの勤労(2025年3月分)」2025年5月30日公表)

 このような物価上昇に伴う実質賃金の減少状況からすれば、愛知県における最低賃金は、労働者が安定した生活を送るために必要な水準を満たしているとは捉え難い。とりわけ低所得者世帯であるほど消費支出に占める食料品の比重が高くなる傾向があり、食料品の値上がりにより、これらの世帯は深刻な影響を受けているのが実情である。

 最低賃金法第1条が目的として掲げる「労働者の生活の安定、労働力の質的向上」を達成するためには、最低賃金を大幅に引き上げ、労働者の実質賃金を引き上げる必要がある。

3 最低賃金引上げのためには、中小企業の健全かつ持続的な経営を可能とする基盤の形成が欠かせない。

 人手不足や物価上昇を背景に、多くの中小企業・小規模事業者(以下「中小企業等」という)が業績の改善を伴わないまま賃上げを余儀なくされるという不可能を強いられてはならない。最低賃金法1条が規定する「事業の公正な競争の確保」という観点を踏まえ、中小企業等とその取引先企業との間で公正な取引が確保され、中小企業等が適正な対価が得られる取引慣行を醸成することが必要である。

 また、社会保険料の事業者負担の軽減・免除をするなどして、中小企業等が賃上げしやすい環境整備に向けた実効的な取組を強化することが欠かせない。

 したがって、国においては、中小企業等の支援策の充実にも、果敢に取り組むべきである。

4 よって、当会は、本年の最低賃金の改定にあたり、中央最低賃金審議会に対しては、物価の上昇に対応するべく大幅な最低賃金額の引上げを内容とする答申を行うことを、愛知地方最低賃金審議会に対しては、中央最低賃金審議会の提示する目安に縛られることなく、愛知県の最低賃金の大幅な引上げを実施することを、国に対しては、中小企業等が無理なく賃上げすることのできるよう、実効的な中小企業等支援策を強化することをそれぞれ求める。

           2025(令和7年)6月9日

             愛知県弁護士会

               会長 川 合 伸 子