1 2025年(令和7年)3月7日、名古屋高等裁判所は、民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)において、同性カップルが法律婚制度を利用することができないとの区別をしていることは、憲法14条1項に違反するとともに、憲法24条2項に違反するとの判決を言い渡した。
本判決は、全国5か所で提訴された同種事件6件のうち、控訴審では現在係属中の2件を除き、4例目の判決であるが、4例全てが違憲判決である。
2 本判決は、性的指向は自らの意思で選択や変更はできないことを認めた上で、両当事者が人的結合関係を形成することは、法律婚制度ができる以前から行われてきた人間の本質的営みであり、その人的結合関係が正当な関係として社会的に承認されること自体、個人の人格的存在と結びついた重要な法的利益であると指摘した。
そして、本件諸規定が、異性間の人的結合関係についてのみ法律婚制度を定め、同性カップルが法律婚制度を利用する規定を全く設けていないことは、婚姻制度の制定が国会の裁量であることを踏まえても、なお、合理的な根拠を欠く差別的取扱いであって、立法裁量の範囲を超えており違憲であるとした。
3 本判決は、違憲の根拠を丁寧に論じたが、以下の点が特筆できる。
まず、法律婚制度を利用できない同性カップルは、様々な法的利益や社会的利益を享受することができないという不利益に加え、法律婚制度の本質的価値を享受することができないことにより個人の尊厳が損なわれているという不利益を受けていること等を挙げた。特に、同性カップルにおいて共同して子を養育する場合が一定数存在するとしたうえで、同性カップルが法律婚制度を利用できないことにより、パートナーだけでなく、そのカップルが養育する子に対し、その生命・身体・福祉に深刻な問題が生じうると指摘したことは注目に値する。
次に、パートナーシップ制度等の法律婚制度以外の制度では解消しきれない不利益が存在することを極めて具体的に認定し、婚姻制度とは異なる制度を利用すること自体が、性的指向を自らの意思に反して開示することを求められるといったプライバシー侵害につながる危険性があることも指摘した。
他方で、現行の法律婚制度を同性カップルに適用することに関して、同性婚の法制化により身分関係に混乱が生じることはないとした。特に、戸籍制度に重大な変更をもたらすものではなく、法律婚とは別制度を設ける場合とは異なり、法改正にあたり、膨大な立法作業が必要になるとは言えないとした。すなわち、国会が直ちに法改正を行うことが可能であることを司法の立場から厳しく指摘したものと言える。
上述のとおり、本判決は、本件諸規定が、同性カップルにおいて法律婚制度を利用することができないという区別を違憲としただけでなく、現在ある法律婚制度を同性カップルにも等しく適用するという方法が最も合理的であることを指摘する点で、立法解決に向けた重要な司法判断として高く評価できる。
4 当会は、2021年(令和3年)6月22日、「民法等の関連法令を改正して同性婚を可能とする立法を求める会長声明」を、2023年(令和5年)6月6日には、「『結婚の自由をすべての人に』愛知訴訟 名古屋地裁違憲判決を受けて、早期の立法声明を求める会長声明」を発出し、同性間の婚姻を可能とする立法(法改正)に直ちに着手することを強く求めた。他の弁護士会からも、同趣旨の声明が重ねて発出されてきた。しかし、国会では未だに具体的な議論の開始にも至っていない。この間にも、同性カップルは、法律婚制度を利用することができず、重大な不利益を被り続けている。
よって、当会は、国に対し、本判決の内容を真摯に受け止め、特に、本判決の同種事件6件のうち、地裁での違憲判決が5件、高裁では、係属中の2件を除き判決がなされた4件すべてが違憲判決であるという事態も踏まえ、重大な人権侵害を生んでいる違憲の状態を速やかに解消すべく、法律上同性の者どうしの婚姻を認める立法に直ちに着手し、婚姻の平等を実現することを強く求める。
2025年(令和7年)3月21日
愛知県弁護士会
会長 伊 藤 倫 文