1 2024年(令和6年)1月1日の能登半島地震(以下、「能登半島地震」という。)の発災から約10か月が経過した。同地震では、奥能登地域を中心に各地で甚大な被害をもたらした。そして、同年10月1日時点での被害状況は、死者・行方不明者が404名(うち災害関連死が174名)、負傷者が1336名であり、半壊以上の住家被害が2万9244件となっており、石川県内では、依然として348名の被災者が避難所での避難生活を余儀なくされている。

 被災地では、復旧に向けた懸命な活動が続いており、徐々に復旧が進みつつあるが、被災地へのアクセスの困難さや自治体、関係事業者のリソース不足もあり、水道、道路などライフライン、インフラの復旧や公費解体の遅れ等の問題も生じている。

 

2 能登半島地震は、2024年(令和6年)1月11日に、令和6年政令第6号により、総合法律支援法第30条第1項第4号に規定する非常災害に指定されており、日本司法支援センター(以下、「法テラス」という。)における「大規模災害の被害者に対する法律相談援助制度」(以下、「被災者法律相談援助制度」という。)の適用対象となっている。

 この制度は、政令で非常災害と指定された災害について、発災の日から起算して「一年を超えない範囲内において」、被災地域に住所、居所、営業所又は事業所(以下、「住所等」という。)を有する者に対し、資力を問わずに法テラスにおける無料相談を実施する制度であり、過去にも、2016年(平成28年)の熊本地震などで適用されている。

 能登半島地震の被災地では、法テラスの事務所における相談に加えて、事務所へのアクセスが困難な地域には移動相談車両(法テラス号)を派遣するなどの対応がとられており、被災者法律相談援助制度は、能登半島地震の被災者の法律ニーズに応えるうえで重要な役割を果たしている。

 

3 ただ、上記2のとおり、被災者法律相談援助制度は、発災後最長1年間という期間が定められており、能登半島地震についても、政令において、2024年(令和6年)12月31日までの期間が定められている。

 その一方で、前記のとおり、発災後約10か月が経過した現時点においても、依然として多くの被災者が避難を余儀なくされているほか、被災者支援制度の基礎となる罹災証明書についても、様々な問題があり、被災者からの相談も継続すると考えられる。また、被災地では、災害関連死の認定数も増加しており、災害関連死の申請に関する相談や対応も継続する可能性が高い。これらに加えて、各種支援金の申請、相隣関係など地震に起因する紛争の解決、自然災害債務整理ガイドラインに基づく債務整理を含む債務の処理など、なお多数の相談ニーズや紛争処理のニーズが生じることが容易に予想される。

 さらに、2024年(令和6年)9月21日に奥能登地域に豪雨が襲い、能登半島地震の被災者が復興途上で再び被災するという事態も生じ、これらの被害について新たな法的な課題が生ずることも懸念されており、被災者に対する法的支援を継続する必要性はより一層高まっている。

 このような状況であるにもかかわらず、被災者法律相談援助制度が1年間で終了するとすれば、被災者に対する法的支援としては十分とは言えない。 また、そもそも、災害の種類や程度、災害により各被災者が置かれる状況は千差万別であり、このような災害、被災者に対応する援助について、一律に最長1年間という期間制限が設けられていることにも疑問をもたざるをえない。

 そこで、当会としては、2025年(令和7年)1月1日以降も法テラスにおける能登半島地震の被災者に対する資力を問わない無料法律相談の実施を可能とするためにも、また、今後発生するかもしれない大規模な自然災害に備えるためにも、現在1年以内とされている総合法律支援法第30条第1項第4号における政令による指定期間を柔軟に延長することが可能な法改正が必要と考える。

 

4 また、2011年(平成23年)に発生した東日本大震災の際には、上記の総合法律支援法に基づく非常災害の指定の制度はまだ存在しなかったが、発災から約1年後の2012年(平成24年)3月23日に、「東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律」が制定され、同年4月1日から施行され、当初は3年間の時限立法であったが、2021年(令和3年)3月31日まで期間延長された。

 この特例法による制度は、被災地に住所等があった者であれば、資力を問わず法テラスにおける法律相談援助、震災に起因する法的紛争に係る代理援助等を受けられること、裁判所の手続のほかにADRなどが代理援助・書類作成援助の対象となること、事件の進行中は立替金の返済が猶予されることなどが認められていたものである。

 それゆえ、当会においては、能登半島地震について、東日本大震災における対応と同様の内容で、被災地に住所等を有していた者が法的支援を受けることができる法テラスの業務に関する特例法の制定も必要と考える。

 

5 よって、当会は、国に対し、現在1年以内とされている総合法律支援法第30条第1項第4号における政令による指定期間を柔軟に延長することが可能な法改正を求めるとともに、能登半島地震について、東日本大震災における対応と同様、資力にかかわらず、被災地に住所等を有していた者が法的支援を受けられる、法テラスの業務に関する特例法の制定を求める。

                        2024年(令和6年)10月31日

                          愛知県弁護士会

                             会長  伊 藤 倫 文