1 2024年(令和6年)11月15日、名古屋高等裁判所において、優生手術被害者と配偶者が提訴した事件の和解が成立した。この事件の原審である名古屋地方裁判所は、同年3月12日、国に被害者と配偶者に対し損害を賠償するよう命じる判決を言い渡していたが、国が控訴した。ただ、その後、同年7月3日の最高裁判所大法廷判決によって、旧優生保護法が違憲であり、国会議員の立法行為が違法と判断され、国の除斥期間の主張が信義則違反または権利濫用として許されないとされたことを受け、国がようやく除斥期間の主張を撤回し、同年9月13日に全国原告団・弁護団と国との間で「係属訴訟の和解等のための合意」がなされた。これにより、全国で訴訟係属していた事件で和解が成立し、名古屋高等裁判所の事件も、前記のとおり和解が成立したものである。

 

2 1948年(昭和23年)に制定された旧優生保護法は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止することを目的として、優生手術(不妊手術)及び人工妊娠中絶手術(以下、両手術を併せて「優生手術等」という。)について規定をし、遺伝性疾患、ハンセン病、精神障がいがある人等に対し、本人の同意がなくとも、審査によって強制的に優生手術等を実施することができるなどと規定していた。

 このため、旧優生保護法が1996年(平成8年)に母体保護法へと改正されるまでの48年の間に、同法のもとで、障がいがあることを理由として不妊手術約2万5000件、人工妊娠中絶約5万9000件、合計約8万4000件の手術が強制され、障がいのある多くの者が子を産み育てるか否かを決定する自由が奪われ、人としての尊厳が傷つけられた。

 

3 名古屋高等裁判所の和解によって、2018年(平成30年)1月30日、仙台地方裁判所への提訴から始まった旧優生保護法国家賠償請求訴訟のすべてが終結したことになる。ただ、今後、全国に広がる被害者の救済のために取り組むべき課題は多い。

 まず、国は、2024年(令和6年)10月8日に成立した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律」(以下、「補償法」という。)に基づき、早急にすべての被害者に対して補償を実現しなければならない。そのためには、被害者が都道府県の窓口に相談できるように、国の指示を待つのではなく、都道府県が主体的に被害の実態の調査を進め、個別通知を行うことを含め、補償法を広く社会に周知・広報し、申立の支援体制を整える必要がある。

 また、補償法に基づく補償金等の請求者に対しては、弁護士会で作成したサポート弁護士の名簿に登録されたなかから、都道府県が選任した弁護士が、請求書、陳述書その他の資料の作成等を支援することが予定されている。愛知県弁護士会においても、研修を実施した上でサポート弁護士の登録を進めていくことが必要である。

 さらには、愛知県弁護士会は、2018年(平成30年)から計8回の旧優生保護法の被害に関する相談会を実施してきており、今後も相談会を実施する予定である。

 このように、愛知県弁護士会においては、相談会の実施とともに、前記サポート弁護士の名簿登載などを行うことにより、引き続き優生手術等を受けた者の被害回復を行うとともに、障がい者差別の解消のために努力を重ねていくことを表明する。

                        2024年(令和6年)11月26日

                           愛知県弁護士会

                              会長  伊 藤 倫 文