2024年(令和6年)3月15日、出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律案(以下、「本改正案」といい、出入国管理及び難民認定法を「入管法」という。)が国会に提出され、5月21日に衆議院本会議で可決された。

 本改正案では、現行の技能実習制度に替わり新たに育成就労制度が創設されることにより「永住に繋がる特定技能制度による外国人の受入れ数が増加することが予想されることから、永住許可制度の適正化を行う」との方針に基づき(令和6年2月9日に閣議決定がなされた「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議最終報告書を踏まえた政府の対応について」参照)、永住者の在留資格が取り消される事由を追加している。すなわち、永住者が、①出入国管理及び難民認定法の義務に違反した場合、②故意に公租公課の支払をしない場合、③住居侵入、傷害、窃盗等の一定の罪により拘禁刑に処せられた場合について、永住者の在留資格の取消しにかかる法務大臣の権限を拡張するものである(入管法改正案第22条の4第1項第8号、第9号)。

 永住者の在留資格を得るためには、原則として10年以上の日本での生活、安定した収入があること、税金および社会保険料の滞納がないことなどの要件を満たす必要があり、厳格な審査の上で許可されている。日本には約89万人(2023年(令和5年)12月末時点)の永住者が在留しているが、永住者は日本に生活基盤を有し、その家族の生活基盤もまた、日本にあることがほとんどである。永住者の地位を奪うということは、その人とその家族の生活基盤をも危うくすることを意味するから、その地位を奪うには慎重でなければならない。

 しかしながら、上記①によれば、例えば「在留カードの常時携帯」といった義務に違反した場合にも取消しの対象とされてしまう。また、永住者は、現在でも1年を超える懲役や禁固に処された場合(ただし、刑の執行猶予の場合などは除く)には退去強制となりうるが、上記③の規制が加わることにより、1年以下の拘禁刑(執行猶予付きを含む。)でも在留資格を失う可能性が生じてしまう。1年以下の拘禁刑に該当する刑罰法令違反には、計画性がない暴行や建造物侵入などの事案も含まれる。このような場合にまで在留資格を奪い、その生活基盤をも失わせる結果を生じさせうることは、規制として過剰と言わざるを得ない。

 また、上記②については、公租公課の不払いは、病気、事故、失業等の事情から生じることも多く、このような場合にまで永住者の在留資格を奪うのは、やはり規制として過剰である。公租公課の不払いについては、日本人に対してと同様に、各種税法上の刑事処罰や強制徴収(滞納処分)による対応がなされれば十分である。

 上記①ないし③は、最も安定的な在留資格であるはずの永住者の地位を不当に脆弱かつ不安定にするものであり、著しく公平性・妥当性を欠く。本改正案は、永住資格の取消しに際し、入管当局が職権で他の在留資格へ変更することにより在留継続を可能とする途を認めてはいるが、当該外国人が「引き続き本邦に在留することが適当でないと認める場合を除く」(入管法改正案第22条の6第1項)としており、在留継続を保障しているわけではない。衆議院では、永住者の在留資格をもって在留する外国人の適正な在留を確保する観点から、当該外国人の従前の公租公課の支払状況及び現在の生活状況その他の置かれている状況に十分配慮する旨の配慮規定を追加する修正がされているが、結局は法務大臣の広範な裁量に委ねるものと言わざるを得ない。

 当会は、東京都に次いで全国で2番目に多い約31万人の外国人が暮らす愛知県の弁護士会として、本改正案の内容に強く反対するとともに、政府に対し、日本に生活基盤を有する外国人の人権に十分に配慮した施策の推進を求める。

                        2024年(令和6年)5月29日

                         愛知県弁護士会

                            会長   伊 藤 倫 文