「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」案(以下「本法案」という。)が、衆議院を4月9日に通過し、現在参議院で審議中である。

 本法案は、行政機関の所掌事務に係る重要経済基盤保護情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるものを「重要経済安保情報」に指定するものである(特別防衛秘密(日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法に規定する特別防衛秘密)及び特定秘密(特定秘密の保護に関する法律に規定する特定秘密)に該当する情報を除く。)。

 すなわち、本法案は、「特別防衛秘密」や「特定秘密」に該当しない「経済安全保障上重要な情報」の漏えい等を新たに処罰対象とするものである。しかも「特定秘密の保護に関する法律」(以下「特定秘密保護法」という。)のように防衛・外交・スパイ防止・テロ防止の四分野に限定されている訳でもなく、経済安全保障分野に、秘密保護法制を拡大するものである。

 本法案の問題点の第1は、第2条第4項に規定する「重要経済基盤保護情報」の内容が抽象的かつ極めて広範であるので、この中から指定される「重要経済安保情報」は恣意的なものとなる危険が高い。

 にもかかわらず、本法案の処罰規定は、特定秘密保護法と同様に、「重要経済安保情報」の漏えい又は取得行為について共謀・教唆・煽動した者も処罰対象としているので、ジャーナリストや市民が情報を取得しようとする場合に萎縮効果が生じ、国民の知る権利が著しく害される。この点に関して、第21条に、法律の適用について国民の基本的人権を不当に侵害しないこと、報道又は取材の自由に十分に配慮すること、出版又は報道業務の従事者による取材行為を保護するよう法律を解釈適用するように規定するが、このような規定がおかれることはその危険性が想定されるからであり、運用によっては、十分な保護が図られないおそれは残る。

 第2に、本法案にも適性評価(セキュリティ・クリアランス)制度が規定されるところ、特定秘密保護法の適性評価の対象者は、主に公務員であるが、本法案の適性評価の対象者は、適合事業所の取扱者である民間の技術者・研究者にも広がる。

 しかも、適性評価のための調査は行政機関の長が内閣総理大臣にその調査を求めるものとされており、対象者の犯罪歴、情報管理、薬物使用、精神疾患、飲酒節度、信用状態などのセンシティブな情報や、対象者の家族・同居人の情報までもが、内閣総理大臣の下に集積されることになる。調査には対象者本人の同意が要件とされてはいるが、行政機関又は適合事業所の業務のためには本人は事実上同意せざるを得ないであろうことが容易に想像され、第16条で(適性評価に関する個人情報の利用及び提供の制限)につき規定するものの、プライバシー保護の観点から大いに問題がある。

 以上のとおり、本法案は、市民の知る権利やプライバシー権の保護などの面から、特定秘密保護法に勝るとも劣らない問題がある。衆議院の通過にあたり、「重要経済安保情報」の指定や解除、適性評価の状況等を毎年、国会に報告することなどの修正がなされたものの、本法案の問題は残ったままである。

 よって、当会は、本法案について、その問題点につき十分な対応がないまま、成立することに反対する。

                         2024(令和6)年4月19日

                          愛知県弁護士会

                            会長  伊 藤 倫 文