2024年(令和6年)2月15日、法制審議会は、総会において離婚後の父母双方に親権を認める「家族法制の見直しに関する要綱案」を採択し、同年3月8日、民法等の一部を改正する法律案(以下「民法改正案」という。)が閣議決定され、同日、国会に提出された。

1 民法改正案819条2項は、「裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める」と規定する。

  裁判上の離婚の場合、親権者を定めることは現行法(民法819条2項)と同様であるが、改正案においては、いずれの親を親権者とするかどうかだけでなく、共同親権にするか単独親権とするかどうかの判断も必要となる。

  この点については、確かに、裁判所が親権者を定めるにあたり、「父又は母が子に害悪を及ぼすと認められるとき」(同条7項1号)、「父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無」、「...協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき」(同項2号)は父母の一方を定めなければならないと規定し、DV・虐待がなされている場合には共同親権にしないことが明確にされている。

  しかしながら、密室で行われるDV・虐待の性質上、証拠が存在しないことが少なくなく、前提事実の把握には慎重さが求められる。仮にも、誤った判断が下されれば、例えば、子に関する事項の協議等を通じて離婚後も加害者と関わりを持ち続けることを余儀なくされ、疲弊する親による監護への悪影響は避けられない。子に関する事項の決定に加害者が介入することで子の利益を優先した決定を妨げられる危険もある。

  このように、家庭裁判所は、共同親権とするかどうかをも判断する立場にたつことにより、これまで以上に大きな役割を果たすことが期待される。ところが、家庭裁判所の事件処理において重要な役割を担う家庭裁判所調査官の予算定員は2009年(平成21年)から2023年(令和5年)にかけて2名しか増えていない。また、裁判官の予算定員は2021年(令和3年)から減少に転じており、裁判官の不足も深刻である。

  そのため、検討されている民法改正案が成立し、施行するにあたっては、家庭裁判所の体制、すなわち本庁・支部・出張所を問わず、裁判官、家庭裁判所調査官、書記官、調停委員等の人的体制を強化することが必須である。

2  民法改正案824条の2第1項は、「親権は、父母が共同して行う」としたうえで、共同行使の例外として、「他の一方が親権を行うことができないとき」とともに、「子の利益のため急迫の事情があるとき」を規定する。

  親権の共同行使の例外として、現行法(民法818条3項ただし書)では、前者のみ規定していたのに対し、改正案では後者も規定したものであって、親権の共同行使が適切でない場合を追加したことは評価することができる。

  ただし、「子の利益のため急迫の事情があるとき」について、法制審議会の部会での議論では、「父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては適時の親権行使をすることができず結果として子の利益を害するおそれがある場合」つまり、DVや虐待が生じた後、一定の準備期間を経て子連れ別居を開始する場合も急迫性が続くとの考えが示されている。しかし、これは「急迫の事情」との文言に合致するとは言い難い。その結果、上記状況で子連れ別居をする、いわゆる子連れ避難をした場合に「急迫の事情」に該当しないとの判断がなされたり、子連れ避難を考える被害者や支援者に、「急迫の事情にあたらないのではないか」との不安を生じさせ、子連れ避難やこれを支援することへの抑止や委縮をもたらしたりする危険性もないとはいえない。

  むしろ、DVや虐待が生じた後に、一定の準備期間を経て子連れ別居を開始する場合も、親権の共同行使を認めないとの考えによるのであれば、裁判所において誤った判断がなされたり、避難しようとする者に誤解を与えたりしないような文言による規定にすべく議論がなされるべきである。

3 以上の通り、共同親権に関する家族法制における改正案を規定するにあたっては、家庭裁判所の体制の充実が図られるべきであることを十分踏まえる必要があるとともに、共同親権の例外の規定のあり方については、裁判所において誤った判断がなされたり、子連れ避難を考える被害者などに誤解を与えたりすることのない規定を定めるために、十分議論がなされるべきである。

                        2024年(令和6年)4月15日

                         愛知県弁護士会

                             会長  伊 藤 倫 文