政府は、2024年12月2日をもって、現行の健康保険証の新規発行をやめ、マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」へ移行することを閣議決定した。

 このマイナ保険証への原則一本化方針については、次のとおり、国民のプライバシーを侵害し、また、特に高齢者や障害者らについて現行制度よりも保険医療を受ける機会を奪ってしまう懸念がある。

1 マイナンバーカードの取得は、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(平成25年法律第27号。いわゆる、マイナンバー法)第17条第1項において申請主義をとっている(任意取得の原則)。これにより、国民ひとりひとりが、カード取得による利便性とプライバシー等に対する危険性とを利益衡量して取得するか否かを決める自由を有している。

  しかし、マイナ保険証への一本化は、わが国の「国民皆保険」制度の下、国民にマイナンバーカードの取得を事実上強制するものであり、この任意取得原則の趣旨に反する。

  マイナ保険証には、健康保険証機能のみならず、2023年4月から保険医療機関・薬局に義務化されたオンライン資格確認等システムの整備に伴い、当該被保険者(国民)の診療・薬剤情報、特定健診情報等も結合されることになっている。

  それのみならず、国は、利便性を謳って、マイナンバーカードの多目的利用を押し進めようとしている。マイナンバーカードに紐づけられる情報が増大し、マイナポータルで閲覧できる情報も増加するということは、マイナンバーカードとパスワードを第三者が手にすれば、なりすましによりマイナポータルにアクセスされ、医療情報に限られない極めて広範な個人情報が不正に閲覧されて、悪用される危険にさらされる。

  マイナ保険証への一本化は、これらのプライバシー等に対する危険性を踏まえてカード取得を見送る自由が制限され、事実上マイナンバーカードの取得を強制する結果となる。

  この点、健康保険証が廃止された後、マイナンバーカードを取得していない者に対して資格確認書が発行されるとの是正措置が採られることになった。しかし、令和6年12月2日施行予定の健康保険法(大正11年法律第70号)第51条の3では、資格確認書の発行の要件について、「被保険者又はその被扶養者が電子資格確認を受けることができない状況にあるときは」と規定した上で、誰にでも資格確認書を発行することは、「当分の間」の「経過措置」とされているに過ぎない。これでは、経過措置をとりやめることで、政府はいつでも容易に資格確認書の発行を例外的な措置と位置づけることができ、結局、マイナンバーカードの取得を事実上強制することになる。

2 現行の健康保険証は、特段の申請行為なしに、被保険者(国民)のもとに送付される。これに対して、マイナ保険証は、被保険者(国民)が市役所等に出向いてマイナンバーカードの交付を申請し、パスワード等の登録を行わなければ交付されず、保険証として利用できない。そのうえ、マイナ保険証に利用する電子証明書を更新するために、最低5年に一度は更新申請手続が必要になる。この点で、マイナ保険証は、かえって国民に負担をかけ不便を強いることにもなる。

  また、マイナ保険証は、申請行為やパスワード管理が必要となるため、高齢者、障害者らの中には、マイナ保険証の取得や管理、更新が困難となり、その結果、保険医療が受けられなくなったり、また、パスワードやカードそのものの管理が不十分で、個人情報や財産に対する危険にさらされたりする者が現れる危険性がある。

  これらの問題点に対し、政府は、マイナ保険証を取得していない者全員に申請なしに「資格確認書」を交付するとか、パスワードなしのマイナ保険証を発行するといった対策をとるというが、上述の通り、資格確認書は、あくまで政府がいつでも発行をやめることができる経過措置であるうえに、保険者や医療機関にさらなる対応を求め、負担をかけるものと言わざるを得ない。

 以上から、当会は、政府に対し、マイナ保険証への原則一本化方針を撤回し、現行の健康保険証の発行を存続させることを求める。

                         2024(令和6)年5月1日

                          愛知県弁護士会

                             会長 伊 藤 倫 文