1 2024年(令和6年)3月26日、最高裁判所第三小法廷は、20年以上もの間生活を共にしてきた同性パートナーを殺害された上告人が、犯罪被害者等給付制度に基づき遺族給付金の支給を求めた訴訟(以下「本訴訟」という。)の上告審において、請求棄却を維持した控訴審判決(名古屋高等裁判所)を破棄し、法律上同性のパートナーも犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(以下、「犯救法」という。)の5条1項1号括弧書きにいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」に該当し得るかとの争点に対し、これを肯定する判断を示した(以下「本判決」という。)。

  本判決は、法律上同性のパートナーが犯給法5条1項1号の定める「配偶者」である「事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」に該当することを初めて示した判決であるとともに、各種の立法において、「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」等を法律上の配偶者と同様の扱いをする定めが置かれている中で、同性カップルがこれにあたり得るとの判断をした初めての最高裁判決でもある。

2 本判決は、「犯罪被害者等給付金の支給制度は、犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族等の精神的、経済的打撃を早期に軽減するなどし、もって犯罪被害等を受けた者の権利利益の保護が図られる社会の実現に寄与することを目的とするものであり、同制度を充実させることが犯罪被害者等基本法による基本的施策の一つとされていること等にも照らせば、犯給法5条1項1号の解釈に当たっては、同制度の上記目的を十分に踏まえる必要があるものというべきである」とし、 そのうえで、「同項1号が、括弧書きにおいて、『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者』を掲げているのも、婚姻の届出をしていないため民法上の配偶者に該当しない者であっても、犯罪被害者との関係や共同生活の実態等に鑑み、事実上婚姻関係と同様の事情にあったといえる場合には、犯罪被害者の死亡により、民法上の配偶者と同様に精神的、経済的打撃を受けることが想定され、その早期の軽減等を図る必要性が高いと考えられるからであると解される。しかるところ、そうした打撃を受け、その軽減等を図る必要性が高いと考えられる場合があることは、犯罪被害者と共同生活を営んでいた者が、犯罪被害者と異性であるか同性であるかによって直ちに異なるものとはいえない。」 とした。

   本件の一審判決及び控訴審判決は、同性カップルを異性間の法律婚関係と同視する社会通念ないし社会的意識が醸成されていないこと等を理由に、同性カップルには「事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」に該当する余地がないとしていたが、本判決は、制度の目的から法律を正しく解釈し、控訴審判決までの誤りを明確に正した。このことは、最高裁判所が人権の砦としての役割を果たしたものと評価できる。

3 本判決は、犯罪被害者等給付金の支給制度において、同性カップルも事実婚として保護の対象となり得ることを明確に示したが、上告人と被害者が事実婚関係にあったかどうかの事実認定をするためとして、本件を名古屋高等裁判所に差し戻した。上告人のパートナーが殺害された事件の裁判員裁判で、上告人と被害者は、「夫婦同然の関係」にあったとされていたものであるから、名古屋高等裁判所は速やかに事実婚関係を認定し、請求認容判決を出すべきである。

4 上記のように今日の各種の立法において、「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」等を法律上の配偶者と同様の扱いをする定めが置かれている。

  林道晴裁判官は補足意見で、本判決の多数意見は、「飽くまでも犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族等への支援という特有の目的で支給される遺族給付金の受給権者に係る解釈を示したものである。上記文言と同一又は類似の文言が用いられている法令の規定は相当数存在するが、多数意見はそれらについて判断したものではない。それらの解釈は、当該規定に係る制度全体の趣旨目的や仕組み等を踏まえた上で、当該規定の趣旨に照らして行うべきものであり、規定ごとに検討する必要がある。」と指摘している。しかし、そうだとしても、本判決は法制上、同性カップルを保護の対象とし得ることを示したものであり、性的マイノリティに向けられた差別の克服を進める歴史的判決でもあるという点は揺らぐものではない。

  永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもつて共同生活を営むという婚姻の本質において、同性カップルと異性カップルとの間に何らの差異はない。事実婚関係を保護する他の法令においても、ほとんどの場合、同性カップルにも保護の必要性が認められる一方で、異性カップルと異なり保護の対象から排除することの合理的理由は見出し難いものと考えられる。

  本判決で示されたように、「事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者(ある者)」という文言を含む法令については、制度の趣旨目的に則って正しく解釈すれば、法律上同性の者もこれに含まれるという結論を導くことができるのであり、立法府による法改正を待つ必要もない。

  当会は、国に対し、「事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者(ある者)」という文言を含む法令の適用に当たって、法律上同性同士であることのみを理由に適用対象から排除してはならないという指針を明確に示すことを強く求める(これらの点に関しては、2021年(令和3年)2月18日付日本弁護士連合会「同性の者も事実上婚姻関係と同様の事情にある者として法の平等な適用を受けるべきことに関する意見書」も参照)。

2024年(令和6年)3月27日     

 愛知県弁護士会          

会 長 小 川   淳