1 昨年8月4日、出入国在留管理庁は「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に係る対応方針」(以下「本対応方針」という。)を発表した。

 本対応方針は、過去に退去強制令書を発付された者のうち、改定入管法の施行時までに、日本で生まれて小学校、中学校又は高校で教育を受けており、引き続き日本で生活をしていくことを真に希望している子どもとその家族を対象に、家族一体として在留特別許可をするとしている。

 これまで、退去強制令書が発付された後の在留特別許可(いわゆる再審情願による在留特別許可)のハードルは高く、子どもにのみ在留特別許可を認め親は送還するという事例も存在したこと等から、家族一体として在留特別許可をするとした点について歓迎する。

2 他方、本対応方針には、子どもの最善の利益(子どもの権利条約3条1項)に鑑みて問題もあることから、以下のとおり在留特別許可の対象範囲を拡大すべきである。

(1)まず、本対応方針は、子どもが「本邦で出生」したことを要件としているが、日本で出生したかどうかだけで線引きをする合理性はない。日本で出生したことだけでなく、日本で子どもが成長してきた環境や結びつき、人格を形成してきた過程に着目し、子どもの最善の利益を保護すべく、対応方針の要件を改めるべきである。

 この点について、法務大臣は、昨年8月4日の記者会見において「我が国で出生していないこどもについても、個別の事案ごとにその点を含めて、諸般の事情を総合的に勘案して在留特別許可の許否を判断していく」としたが、本来は本対応方針の要件を限定せずに救済すべきであり、仮に本対応方針の要件を改めないとしても、出入国在留管理庁の裁量的な個別判断でなく確実に救済できる方策を実現すべきである。

(2)次に、本対応方針の対象は、日本で出生した「子ども」、すなわち改正法施行時点で18歳未満であることを要件としているため、仮に日本で出生していたとしても(あるいは幼少期から日本で成長したとしても)18歳を超えてしまった者は対応方針の対象外となる。しかし、日本で成長し暮らしてきた環境や結びつき、人格形成過程を保護するとの観点からすれば、「自国」として日本に在留する権利が認められてしかるべきである。

 したがって、18歳を超えている者であっても、日本で出生した者や日本で成長した者は対応方針の対象とすべきである。

(3)また、本対応方針の適用にあたり、通学していることを厳格に求めるべきではない。入学・編入学を準備している場合や、事情があり子どもの心身を休ませる必要がある場合、または不当に入学・編入学を拒否された場合等があり得るところ、これらの子どもたちを在留特別許可の対象から除外すべきではない。

(4)最後に、仮に子どもが日本で出生したこと、18歳未満であること、その他の要件を満たすとしても、「親に看過し難い消極事情がある場合」は対応方針の対象外とされていることは重大な問題である。「親に看過し難い消極事情がある場合」とは、親が①入国・上陸の際に不法入国・不法上陸であったこと、②偽造在留カード行使や偽装結婚等の出入国在留管理行政の根幹に関わる違反をしたことがあること、③薬物使用や売春等の反社会性の高い違反をしたことがあること、④懲役1年超の実刑の前科を有していること、⑤複数回の前科を有していることなどとされている。本対応方針に従えば、親にこのような消極事情がある場合には、家族一体として在留資格が与えられないこととなる。

 しかし、子と親は別人格であることから親の消極事情を考慮すべきではなく、子自身の在留資格については、その最善の利益を検討して在留資格を与えるべきである。その上で、親だけを送還するか否かについては、親の消極事情が親だけの送還による家族分離を正当化させるほどのものであるかについて、家族結合権(自由権規約17条、23条)の保障等の観点から慎重に判断すべきである。

3 よって、当会は、国に対し、日本で育った子どもとその家族に関して、基本的人権にかなった在留特別許可が認められるよう求め、本対応方針について、在留特別許可の対象範囲を拡大し、安定した在留資格を付与するよう強く求める。

2024年(令和6年)2月16日

                 愛知県弁護士会        

                  会 長  小  川    淳