1 刑事手続のIT化の議論が、法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会(以下「本部会」という。)で進められている。本部会では、被疑者・被告人とのオンラインを活用した接見交通についても検討されているところであるが、実現に向けて十分な議論がなされているとは言えない。

2 2022(令和4)年3月22日付「オンラインを活用した接見交通の実現に向けた議論を尽くすよう求める会長声明」でも言及したところであるが、最高裁判所は「弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者と被疑者との逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとっては、弁護人の選任を目的とし、かつ、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留又は拘禁されないとする憲法上の保障の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。」(最判平成12年6月13日民集54巻5号1635頁)としているように、特に弁護人あるいは弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)による速やかな初回接見の重要性は極めて高い。

  初回接見において、一刻も早く弁護人等が、特に被疑者に対し、助言を与えるためには、時間的・場所的制約を排除できるオンラインを活用した接見をも可能とすることが現代においては最善である。

  憲法34条の保障は、現在の科学技術水準に照らして、利用可能な技術をもって保障されてこそ、より全うされることになるものである。そして、接見交通のオンライン化は近時において容易に利用可能な技術であり、オンラインを活用した接見交通は、憲法34条の保障がある以上、被疑者・被告人の権利としても認められるべきものである。

3 本部会における議論の中では、弁護人等の法律事務所の近傍の警察署等でのアクセスポイント方式によるオンラインを活用した接見ですら、警察等の負担が大きいとの意見も出されているところである。

  しかし、令状手続のオンライン化をはじめとした刑事手続のIT化を図るに当たって、新たな設備の整備等に人的・経済的コストが生じるのは必然であり、コストがかかるからといって、利用可能なオンラインによる接見交通のみが実現困難であるとする理由はない。むしろ、被疑者・被告人が弁護人等から援助を受ける権利は憲法34条が保障するものであり、令状手続等の捜査機関側の手続がオンライン化できるのであれば、憲法34条の要請に従い、捜査機関により人権を制約されることとなる被疑者・被告人の人権もより充実した保障を受けられるべきものである。

4 当会は、オンラインを活用した接見交通を被疑者・被告人の権利として明確に刑事訴訟法に定めをおき、被疑者・被告人が弁護人等から援助を受ける権利を現在利用可能な技術をもって十全に実現されるよう求めるものである。

2023(令和5)年6月28日 

愛知県弁護士会         

会 長  小 川   淳