2023年6月21日、「名古屋刑務所職員による暴行・不適正処遇事案に係る第三者委員会」は、名古屋刑務所職員による暴行・不適正処遇事案に係る再発防止策を取りまとめて提言書として公表した。

 同委員会は、2021年11月12日から2022年9月1日までの間、名古屋刑務所の合計22名の刑務官が、3名の受刑者に対して、暴行や不適正な処遇を継続して行ってきた事案について、背景事情を含めた全体像を把握し、その原因を分析するとともに、適切な再発防止策を講じることを目的として設置され、2022年12月27日から2023年6月21日まで全11回の会議・関係者ヒアリング等の活動を行い、その結果が上記提言書にまとめられたものである。

 まず、同委員会が、刑務官に対する引き締め等対症療法的な安易な対応を提言するのではなく、本件事案の原因・背景事情について、刑務官の職場環境や職務意識にまで立ち返り、かつ名古屋刑務所に限定した問題とせず、すべての刑事施設に共通する問題として分析した点は評価したい。

 また、再発防止策として、保安を担当する刑務官と教育、心理、社会福祉の専門家がチームを組んで処遇を行うべきとの方向性を示したこと、人権意識が希薄で規律秩序の維持を過度に重視する組織風土そのものを変革していくための方策などを提言しているが、この点は原因や背景事情を踏まえた適切な提言である。

 さらに、名古屋刑務所で2001年ころから2002年ころ発生した受刑者死傷事件について立ち上げられた行刑改革会議が2003年12月22日に取りまとめた、いわゆる「行刑改革会議提言」を今一度取り上げ、その後の制度改革が行刑改革会議の提言を活かしたものになっていなかった点に言及し、行刑改革会議の趣旨に立ち戻った改革が必要であるとしている点については、高く評価したい。

 加えて、約6か月の短期間にもかかわらず、多方面からの分析・検討を加えた提言をとりまとめた点にも、敬意を表したい。

 他方、今回の提言には、やはり活動が短期間であったが故の、不十分と思われる点も見られる。特に、今回の提言が、視察委員会の権限の強化、懲罰制度の改革、不服申立制度の改革などについては、いずれの問題も運用の改善で対応するとしており、法改正を含む既存の制度改革にまでは踏み込んでいないことは、重大な問題と言わざるを得ない。他にも、被収容者の個人情報のデータベース化に伴い必要となる個人の権利の保護措置について示されなかったこと、保安に対する考え方について必ずしも十分な改革の方向性が示されていないこと、保安と医療の分離について言及されなかったこと等、多くの課題が残されている。

 このように不十分な面はあるものの、提言書が示した改善点の意義は大きく、まずはその実現が強く求められる。特に、2022年の刑法改正により懲役刑と禁錮刑を廃止し受刑者の個々の特性に応じた処遇が求められる拘禁刑が導入され、その施行予定時期が2025年と近づいていることも踏まえると、速やかな改善の実現が求められる。

 当会は、刑事施設において、個々の受刑者の人権が尊重され、真の更生につながる処遇がなされるよう、更なる制度と運用の改善に向けて引き続き努力をする所存である。

2023年(令和5年)6月22日

愛知県弁護士会      

会長 小川 淳