1 2023年(令和5年)5月30日、名古屋地方裁判所は、同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定が、同性カップルに対して、その関係を国の制度として公証することなく、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組みすら与えていないことについて、憲法24条2項に違反すると同時に憲法14条1項にも違反するという判決を言い渡した。

  本判決は、全国5か所で提訴された同種事件について、憲法14条1項違反を認めた札幌地裁判決(平成31年(ワ)第267 号)、憲法24条2項に違反する状態にあるとした東京地裁判決(平成31年(ワ)第3465号)に続いて、3例目の違憲判決である。

2 本判決は、社会情勢が変化していることを考慮したとしても憲法が一義的に同性間に対して現行の法律婚制度を及ぼすことを要請するに至ったとは解し難いといわざるを得ず憲法24条1項に違反するとはいえないとしつつ、憲法24条2項の憲法適合性判断において、「同性カップルは、自然生殖の可能性が存しないという点を除けば、親密な関係に基づき永続性をもった生活共同体を構成しうるという実態において、異性カップルと何ら異なるところはない」とし、同性カップルは、法律婚制度の下で、法律上及び事実上の多彩な効果を一体のものとして享受することができない状態に陥っているとして、同性カップルと異性カップルとの間に著しい乖離が生じていると正しく認定した。

  そして、両当事者において永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むという、人の尊厳に由来する重要な人格的利益を実現する上では、両当事者が正当な関係であると公証され、その関係を保護するのにふさわしい効果の付与を受けるための枠組みが与えられる利益が極めて重要な意義を有すると解し、単に共同生活を営むのを妨げられなければ事足りるとされるものではないという判断を示した。

  その上で、累計的には膨大な数になる同性カップルが現在に至るまで長期間にわたってこうした重大な人格的利益の享受を妨げられているにもかかわらず、このような状態を正当化するだけの具体的な反対利益が十分に観念し難いことからすると、現状を継続し放置することについては、もはや個人の尊厳の要請に照らして合理性を欠くに至っており、立法裁量の範囲を超えるものとし、同性カップルに対し、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組みすら与えていないという限度で、憲法24条2項に違反するものであるとした。

  さらに、憲法14条1項の憲法適合性判断において、同性愛者にとって、制度上は、異性との婚姻をすることはできるとはいえ、性的指向が向き合う者同士の婚姻をもって初めて本質を伴った婚姻といえるのであるから、同性との婚姻が認められないということは、婚姻が認められないのと同義であって、性的指向という、ほとんどの場合、生来的なもので、本人にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由とする婚姻に対する直接的な制約であることを明言した上で、憲法24条2項、憲法14条1項に違反するという結論を導いたものである。

3 本判決は、現行の法律婚制度の趣旨は、歴史的な伝統的家族観に根差すものであることや、これを重視する国民が一定の割合を占めていることを認めつつも、同性カップルが国の制度によって公証されたとしても、国民が被る具体的な不利益は想定し難く、現に、地方自治体の登録パートナーシップ制度が増加の一途を辿っていることについて弊害が生じたということはなく、伝統的な家族観を重視する国民との間でも、共存する道を探ることはできるはずであるとも指摘している。これは、社会への影響等を理由として、法律上同性の者どうしに法律婚を認める立法について消極的な姿勢を取り続けている国会に対する重要な指摘であるともいえる。

  そして、本判決でも挙げられているとおり、近年,家族の多様化が指摘されていること、同性愛を精神的病理であるとする知見は否定されるに至っていること、各種国際機関が性的少数者の権利保護に向けた活動を行ってきていること、諸外国において同性婚制度の導入が進んでいること、我が国でも多数の地方自治体が登録パートナーシップ制度の導入に至っていることなど、社会の変化が確実に生じている。

  2022(令和4)年11月3日には、自由権規約委員会で採択された日本に対する総括所見において、同性婚の法制化について勧告されており、国内に目を向ければ、2023年(令和5年)4月1日現在、全国278の地方公共団体でパートナーシップ制度(又はファミリーシップ制度)が採用されており、実施自治体の人口割合は既に3分の2を超えており、国レベルでの法制化の声が高まっている。

  このような中で、当事者の人権侵害ともいえる状態を放置し、同性間の婚姻を認めない現状の法律婚制度を改廃しないことは、憲法の複数の規定に反しもはや許されるものでない。

4 日本弁護士連合会は、2019年(令和元年)7月、「同性の当事者による婚姻に関する意見書」を発出し、同性間の婚姻を認めない現行法制は、同性間の婚姻の自由を侵害し、法の下の平等に違反するものであり、憲法13条、14条に照らし重大な人権侵害であるとし、国に対して法令の改正を速やかに行うことを求めた。

  当会は、2021年(令和3年)6月22日、「民法等の関連法令を改正して同性婚を可能とする立法を求める会長声明」を発出し、国に対して、本判決及び違憲判決が続いている状況を真摯に受け止め、重大な人権侵害を生んでいる現在の違憲状態を速やかに解消すべく、同性間の婚姻を可能とする立法(法改正)に直ちに着手することを強く求めた。

  同声明の発出から2年が経過したが、未だに法律上同性の者どうしの婚姻を可能とする立法について、国会では具体的な議論にも至っていない。その間も、個々の同性カップルは、現行の法律婚制度を利用することができないことによる重大な不利益を被り続けている。

  当会は、国に対し、本判決の同種事件4件のうち、本判決を含む3件が違憲判決という事態を真摯に受け止め、重大な人権侵害を生んでいる現在の違憲状態を速やかに解消すべく、法律上同性の者どうしの婚姻を認める立法(法改正)に直ちに着手することを強く求める。

2023年(令和5年)6月6日 

    愛知県弁護士会     

会長 小川 淳