2022年12月9日、斎藤法務大臣は、臨時記者会見を開き、「名古屋刑務所において、2021年11月から今年8月にかけて、22人の刑務官が受刑者3人に繰り返し暴行を働いていた疑いがある」旨を発表した(その後の報道では、これ以外にも多くの不適切言動があったとされている。「本件暴行事件」)。名古屋刑務所では、2001年、2002年に刑務官が受刑者を死傷させるという重大事件が発生し(いわゆる「名古屋刑務所事件」)、刑務官が特別公務員暴行陵虐致死傷罪で有罪判決を受けるという前代未聞の事態となった。それから約20年を経て、今回の事件が再発したことについて、現時点では情報が限られているが、その範囲で、以下のとおりの声明を発する。

 まず、本件暴行事件は以下の視点から捉えるべきである。

 第1に、個々の刑務官の問題とされてはならないということである。報道によれば、加害者(刑務官)は、事実関係を認め、「反抗的な態度を示すので、指示に従わせるために行っ た」旨説明しているようである。

 受刑者を人とは思わない、という刑務所における風潮は依然として存在しており、「言うことを聞かないと懲らしめを与える」という構造は前述の名古屋刑務所事件と同根である。ここに問題の本質があり、個人の資質の問題に解消してはならない。

 第2に、刑務所改革のあり方をいま一度問い直す時期に来ているということである。上記名古屋刑務所事件を受けて、行刑改革会議が設置され、2003年12月行刑改革会議提言が発せられ、この提言を実施するために、2005年監獄法改正、現行刑事被収容者処遇法制定という経過をたどった。その後、2011年には刑事被収容者処遇法付則に基づく、「5年後見直し」がなされ、さらに近年では、2016年に再犯防止推進法が制定され、2022年には刑法等一部改正が成立した(従来の懲役刑、禁固刑を廃止して拘禁刑に一本化し、関連して刑事被収容者処遇法が改正された。2025年施行予定)。

 この一連の経過に鑑み、本件暴行事件の検討にあたっては、わが国における刑務所のあり方をいま一度抜本的に検討すべきである。

 第3に、受刑者の人権を基礎に置いた改革が求められていることである。上記行刑改革会議提言の、そして現行刑事被収容者処遇法の根幹には、受刑者を個人として尊重し(憲法13条)、その人権が保障されなければならない、という理念がある。

 第4に、刑務所外部からの監視機能の強化が不可欠である。上記行刑改革提言は、刑務所の閉鎖性を打破し、「国民に開かれ国民に支えられる刑務所」の理念を打ち出した。しかし、本件暴行事件は、この理念が十分に実施されているかについて重大な懸念を提起させる。

 以上を踏まえ、当会では、本件暴行事件に限定することなく名古屋刑務所内の実情を改めて把握し、日本弁護士連合会とも連携をしながら、今後以下の点を重視して取組みを進める。

1 刑事施設視察委員会、弁護士会の人権侵害救済制度を実効性あるものとするため、その抜本的強化を目指す。

2 受刑者の人権の尊重を基礎とするよう、刑務所のあり方の抜本的改革を目指す。

3 上記取組みを行う上で、現行法制度の改正も視野に入れる。

 そして、関係機関に対しては以下の事項を求める。

1 法務大臣に対して、現在設置が検討されている「有識者会議」について、今回の事件に対応する運用上の問題に限定することなく、わが国の刑務所のあり方に関する諸問題を聖域なく課題とすること、構成員についても、日弁連推薦委員を含む真に外部からの意見を反映できる委員構成とすること。

2 法務省及び関係機関に対して、情報開示に努め、当会を含む外部からの情報開示の要請には積極的に応ずること。

 基本的人権の擁護と社会正義の実現、法制度の改善(弁護士法1条)を使命とする当会は、刑事施設における人権の擁護、あるべき刑事施設・刑事処遇の実現に向けた取組みを進めてきたが、本件暴行事件を機に、一層その取組みを強めるものである。

2022年(令和4年)12月22日  

愛知県弁護士会      

会長 蜂須賀太郎