警備員として交通誘導警備業務に従事していた軽度知的障害のある男性が、成年後見制度の利用により被保佐人となったことで警備業法の欠格事由に該当するとして約3年勤務した警備会社からの退職を余儀なくされたことから、被保佐人であることを欠格事由とする改正前警備業法14条、3条1号(以下、「本件規定」という)の違憲性等を争った事案において、令和4年11月15日、名古屋高等裁判所民事第2部は、原判決(岐阜地方裁判所令和3年10月1日)と同様、本件規定は制定当時(昭和57年)から、憲法22条1項(職業選択の自由)及び憲法14条(法の下の平等)に反していたとの判断を示した。また、制定後も平成26年に障害者権利条約を批准する等、本件規定を改廃する契機があったにもかかわらず、これを放置し続けた国会の立法不作為による違法性は大きいとし、国に対し慰謝料50万円の支払いを命じた(原審の認容額10万円から増額)。

 被保佐人であることを欠格事由とする欠格条項の違憲性を明確に判示し国の不法行為責任を認定した本判決は高く評価できるものである。

 本件の原審係属中の令和元年6月7日、成年被後見人等の権利の制限にかかる措置の適正化を図るための関係法律の整備に関する法律(いわゆる一括整備法)により、警備業法等多くの業法から成年被後見人及び被保佐人であることを欠格事由とする規定が削除されたところではあるが、このことにより、これまでに成年被後見人・被保佐人がこれら欠格条項により職業を選択する自由が制限されてきた事実が消えるものではなく、今回、名古屋高裁判決が、障害者を保護するための成年後見制度を欠格事由に安易に転用することは許されないこと、このような欠格条項が設けられること自体が制限行為能力者に対する国民の理解や受容の妨げになることを改めて明確に示したことの意義は極めて大きい。

 特に、国会の立法不作為を論じる中で、障害者権利条約について丁寧に触れた上で、条約批准国として我が国に「求められている措置が国政において実施されなければ、国際的に条約に加わったという形だけのものになってしまう」と国の姿勢を批判して立法不作為の違法性が重大であることを指摘した点は、国に対して障害者権利条約を実効性ある規範として反映させた適切な措置を講じることを求めるものであり、今回の名古屋高裁判決は、欠格条項の問題を超えて、今後の我が国の障害者施策や権利擁護の在り方にも大きな影響を与えるものと考える。

 さらに、損害論においては、失職したことによる経済的損害のみならず、男性が自己実現をすることのできる重要な機会を強制的に奪われたことを慰謝料増額の理由の一つとする等、社会的に弱い立場にある者の声に耳を傾け、その状況を理解し、必要な救済を図るという司法の核心的役割を果たした判決としても高く評価できる。

 当会は、国に対し、名古屋高等裁判所の判断を重く受け止め本判決の速やかな確定のため上告を控えること、および欠格事由に関する新たな課題として、一括整備法成立後も残置されているいわゆる個別審査規定が障害を理由とする新たな差別として働くことのないよう、障害者権利条約の批准国として必要な措置を講じることを求める。

 また、当会としても、昭和57年から違憲状態にあった本件規定の廃止にこれほどの時間を要した事実を司法の一翼を担う立場から真摯に正対した上で、今後も我が国が「あらゆる活動分野における障害者に関する定型化された観念、偏見及び有害な慣行と戦う」(障害者権利条約8条1項())ための取組みを進めていくことを改めて決意するものである。

2022年(令和4年)11月24日

愛知県弁護士会 会長 蜂須賀太郎