少年の氏名、年齢、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載すること((以下、「推知報道」という。)の禁止が、18歳以上の少年(以下、「特定少年」という。)について一部解除された「少年法等の一部を改正する法律」(以下、「本改正法」という。)が本年4月1日施行された。

 そして、本年9月2日、愛知県においてはじめて、特定少年が起こしたとされる事件について、名古屋家庭裁判所において検察官送致決定がなされており、今後名古屋地方裁判所に公判請求される可能性が高く、その場合、本改正法に基づき、特定少年の推知報道が可能となる。

 当会は、2015年8月5日付け「少年法の適用年齢引き下げに反対する会長声明」、2019年3月29日付け「少年法の適用年齢引き下げに反対し、少年法制の充実を求める意見書」、2020年11月18日付け「法制審議会の少年法改正案答申に関する会長声明」、2021年3月31日付け「少年法改正法案に反対する会長声明」を発出し、一貫して、推知報道解禁を含む少年法改正に反対の立場を表明してきた。

 また、本改正法については、参議院の法務委員会において、「特定少年のとき犯した罪についての事件広報に当たっては、事案の内容や報道の公共性の程度には様々なものがあることや、インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることをも踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならない」との附帯決議がなされており、衆議院の法務委員会でも同様の附帯決議がなされている。

  少年法は、少年が成長発達途中にある未成熟な存在であることから、その健全な育成を図ることを目的としており(第1条)、少年の成長発達の権利を保障していると解される。

 改正前の少年法は、少年事件の報道等による少年のプライバシーの侵害が、少年の成長発達を妨げ、その更生や社会復帰、社会への適応を阻害するおそれが大きいことから、推知報道を一律禁止しており(61条)、それは、国連子どもの権利条約、北京ルールズ等少年のプライバシーの保護を規定する国際的規範にも適合するものであり、また、報道倫理の人権尊重、プライバシー尊重、公平性にも適合すると解されていた。

 しかし、本改正法は18歳または19歳の少年を「特定少年」と定義したうえで、特定少年のときに犯した事件について公判請求された場合に、推知報道の禁止が解除された(68条)。

 推知報道は、際限なく少年のプライバシーを侵害し、少年法の保護主義に基づく社会的援助から少年を分断するものと言わざるを得ず、いかに重大な罪を犯した少年であってもその後の長い人生にわたって、社会復帰、社会参加のために重大な致命的不利益を、合理的な理由もなく少年やその家族に与えるものと言わざるを得ない。それは少年の適切な社会適応を妨げることにより、ひいては再非行への社会的不安を増大させる悪循環に陥るおそれがあり、社会公共の利益にも反する。

 この点、改正少年法が施行された本年4月1日以降、新潟地方検察庁は自動車運転致死傷行為処罰法違反(危険運転致死罪)で起訴した特定少年について、また、千葉地方検察庁は強盗罪等で起訴した特定少年について、実名を公表しなかった。これらの事例は、検察庁において、少年法の目的に十分配慮した結果として評価できるところであり、愛知県においても、同様に少年法の目的に十分配慮すべきである。

 よって、当会は、上記事案も含め、本改正法68条が削除されるまでの間、関係機関に対し、次のとおり強く要請する。

第1 検察庁に対し

   推知報道禁止の一部解除は当該特定少年の更生可能性を著しく妨げ、ひいては再犯可能性を高めることになりかねないことから、検察庁は、本改正法の下での実名公表について、控えるように求める。

第2 報道機関に対し

   報道機関は、推知報道が少年の改善更生や社会復帰を阻害する危険性を有することに鑑み、検察庁が公判請求後に特定少年の実名を公表するか否かに関わらず、特定少年について推知報道を控えるように求める。

                  

2022年(令和4年)9月7日 

愛知県弁護士会     

会 長  蜂須賀 太 郎