2022年7月26日、東京拘置所において、死刑確定者1名に対して死刑が執行された。今回の死刑執行は、昨年12月21日の3名の執行以来のものであり、岸田内閣となって4人目の執行である。

 当会を含めた多数の弁護士会及び日本弁護士連合会は、昨年の死刑執行の際にも、これに対する抗議声明を発表し、死刑執行を停止するよう求めた。それにもかかわらず、岸田内閣の古川禎久法務大臣が死刑執行を命じたことは極めて遺憾であり、当会は、今回の死刑執行に対し、強く政府に抗議するものである。

 本件死刑囚は、7人を殺害し、かつ10人に重軽傷を負わせたもので、このような犯罪は決して許されるものではなく、犯罪により身内の方を亡くされたご遺族の方が厳罰を望まれる心情は十分に理解でき、悲惨な体験をされた犯罪被害者・遺族の方々に十分な支援を行うことは社会全体の責務である。

 しかしながら、そうした犯罪者に死刑を執行することは、これまたかけがえのない生命を奪うもので、非人道的な刑罰であり許されないものであると考える。

 また、犯人を死刑にすることによる死刑の抑止力によって、日本社会において凶悪犯罪を抑止するという考えが存するが、死刑に特別な抑止力があることを示す根拠は薄弱であり、このような悲惨な事件の再発を防止するためには、犯人のような境遇に置かれた人物について、社会からの孤立を防ぐ粘り強い努力こそが必要であると考える。

 翻って、私どもは、死刑制度が持つ問題点から目を逸らしてはならない。判決には常に誤判の恐れがつきまとうところであり、日本においては、これまでにも4件の死刑確定事件についての再審無罪が確定している。その後も、2005年4月に名古屋高等裁判所で、いわゆる名張毒ぶどう酒事件の再審開始決定がなされており、2014年3月には静岡地方裁判所で、いわゆる袴田事件の再審開始決定がなされている。いずれの決定も、その後に取り消されているものの、現在なお審理中であり、再度再審開始決定がなされると推測している。いずれにしても、再審決定がなされたという事実は、同じような証拠関係においても、裁判所が異なることによって死刑と無罪の結論が分かれることを実証するものであり、誤判・えん罪の恐ろしさは、死刑事件において際立ったものとなっている。また、死刑えん罪には、死刑か無期懲役かという量刑判断の誤判のおそれもあり、再審中の死刑確定者については、その防御権が尽くされたといえるのかとの疑問も残る。そうした事件において、誤って死刑が執行されれば、それは二度と取り返しのつかないことであり、絶対に回避されなければならない。

 更にまた、死刑の廃止は国際的な趨勢である。2021年12月末現在、法律上・事実上の死刑廃止国は144か国に及び、世界の中で3分の2以上を占めている。そして、OECD(経済協力開発機構)加盟国35か国のうちでも、死刑を残置しているのは、日本、米国、韓国の3か国だけであるが、韓国は事実上の死刑廃止国であり、米国も多くの州で死刑廃止ないし死刑の執行停止が宣言されており、国家として統一的に死刑を執行しているのは、日本だけである。   

 2016年12月に国連総会は死刑存置国に対する死刑執行停止を求める決議を加盟国193か国のうち117か国の賛成により採択した。従前より、日本政府は、国連自由権規約委員会や拷問禁止委員会などから、死刑執行を停止し、死刑廃止を前向きに検討するべきであるなどの勧告を繰り返し受け続けている。

 こうした死刑制度の重大な問題性や国際的な死刑廃止への潮流に鑑み、日本弁護士連合会においても、2016年10月7日に福井で開催された人権擁護大会において、死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言(いわゆる福井宣言)を採択し、その中で2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきであると宣言した。そして、当会も、2020年12月15日、死刑制度の廃止を求める決議を採択し、国に対し、死刑確定者に対する死刑の執行を直ちに停止し、速やかに死刑制度を廃止することを求めた。

 当会としては、改めて、直ちに死刑執行が停止されるとともに、速やかに死刑制度自体が廃止されなければならないことを強く訴え、死刑廃止の実現に向けて粘り強く運動を進めていく決意である。                 

2022年(令和4年)7月28日 

愛知県弁護士会     

会 長  蜂須賀 太 郎