2022年3月11日、東京高等裁判所は、国に対し、1996年改正前の優生保護法(以下「旧優生保護法」という)の下で強制不妊手術(優生手術)を受けた被害者に対する賠償を命じる判決を言い渡した。2022年2月22日の大阪高等裁判所判決に続いて、旧優生保護法の被害について国に賠償を命じる判決が下されたことになる。  

 旧優生保護法では、命に優劣をつけ遺伝的に「優秀な」者の遺伝子を保護し、遺伝的に「劣った」者の遺伝子を排除して「優秀な人類」を後生に残すとする優生思想に基づき、遺伝性の病気等がある方、さらにはあるとされた方に対して生殖を不能にする手術を行うことが認められ、推奨されていた。今回の東京高等裁判所の判決は、こうした旧優生保護法それ自体の違憲性を認めるだけでなく、同種訴訟の地裁判決で請求を棄却する理由とされてきた除斥期間(時間の経過による損害賠償請求権の消滅)の適用を制限し、国の賠償責任を認めた画期的なものであった。そして、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」が施行された平成31年4月24日から5年間は請求権が消滅しないとしており、被害者救済の道が大きく開かれた。  

 国はすでに東京高等裁判所の判決に対しても大阪高等裁判所に対する判決に対しても上告受理申立てをしているが、直ちに申立てを取り下げるとともに、訴えを提起している被害者に限らずすべての被害者に対する全面的被害回復を図るべきである。さらに、大阪高等裁判所判決が指摘したように、国の施策が障害者差別を固定化し、さらに助長してきた以上、国は優生手術の実態を調査し、優生手術被害者を救助することはもちろん、積極的に障害者差別についての是正措置を取るべきである。  

 当会は、2018年から2021年にかけて計6回の旧優生保護法の被害に関する電話相談を実施してきたが、今後も引き続き優生手術の被害回復や優生思想の根絶、障害者差別の解消のために努力を重ねていくことを表明する。

                     2022年(令和4年)4月18日

                     愛知県弁護士会 会長 蜂須賀太郎