消費者庁は、2021年9月に消費者契約に関する検討会の報告書(以下「検討会報告書」という。)が取りまとめられたことを受けて、2022年2月1日、消費者契約法の改正骨子案を発表し、2022年3月1日、消費者裁判手続特例法の改正案等と共に、消費者契約法改正案を公表した。  

 この改正は、次のような経緯をたどっている。すなわち、消費者契約法2018年改正の際の衆参両院附帯決議において指摘された、3つの喫緊の課題の検討のため、学識経験者、事業者及び消費者の代表者ら16名の委員で構成された消費者契約に関する検討会が設置され、約1年9か月23回にわたって議論を重ね、検討会報告書が取りまとめられた。この検討会報告書を踏まえ、消費者契約法が改正される予定であった。  

 検討会報告書が指摘した新たな提案は、①法第4条第3項各号の困惑類型の脱法防止規定の創設、②消費者の慎重な検討の機会を奪うような勧誘があった場合の消費者の心理状態に着目した取消権の創設、③判断力の著しく低下した消費者が生活に著しい支障が及ぶような内容の契約をした場合の消費者の判断力に着目した取消権の創設であった。これらは、上記喫緊の課題として挙げられた、高齢者、若年成人等の知識・経験・判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を事業者が不当に利用した場合の取消権(いわゆるつけ込み型不当勧誘取消権)の創設が求められたことに応えるものである。このつけ込み型不当勧誘取消権の創設は、成年年齢引き下げの民法改正の際に、参議院附帯決議においても指摘されていた。  

 当会においても、2017年11月7日付「民法の成年年齢引下げに反対する意見書」及び2021年10月28日付「成年年齢引き下げに伴う消費者被害の拡大防止と被害救済のための措置を求める会長声明」において、つけ込み型不当勧誘についての取消権の創設を求める旨の意見を表明してきた。また、日本弁護士連合会や他の弁護士会においても、同様の趣旨の意見書又は会長声明が多数発出されているところである。  

 しかしながら、今般、消費者庁が公表した消費者契約法改正案は、上記①~③に対応する条文案はなく、衆参両議院の附帯決議、検討会報告書、並びに日本弁護士連合会及び当会を含む単位会弁護士会が発出した意見書及び会長声明の内容を無視するかのようなものであった。このような改正では、多発する消費者被害の発生を防止・救済する実効性に乏しく、特に、この4月1日から施行された成年年齢引き下げに伴う若年成人の消費者被害の実効的な救済につながらないことが強く懸念される。  

 また、衆参両議院での附帯決議を受けて、消費者契約に関する検討会を設置し、同検討会で1年9か月にわたり議論を重ねて検討会報告書を取りまとめるという経緯があったにもかかわらず、消費者庁が検討会報告書を実質的に無視するかのような消費者契約法改正案を提出したことは、これらの民主的過程を無視するものであり、極めて遺憾である。  本消費者契約法改正案は抜本的に見直されるべきであり、少なくとも、検討会報告書が提案した①~③の取消権を創設するよう、強く求める。

2022(令和4)年4月13日  

愛知県弁護士会       

会 長 蜂須賀 太郎