民法の成年年齢を18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律」(平成30年法律第59号。以下「本法律」という。)の施行日(令和4年4月1日)が、残りわずかに迫っている。
成年年齢が引き下げられると、これまで未成年者取消権(民法5条2項)により保護されてきた18歳、19歳の若年者の知識、経験、判断力の不足につけ込んだ悪質なマルチ商法、キャッチセールスなど消費者被害が拡大するおそれが懸念されることから、引き下げの是非をめぐる議論や国会審議の場においても、繰り返し、被害防止のための消費者教育の充実と実効的な被害救済を図るための消費者契約法改正をはじめとする法制度の整備が求められてきた。
本法律の成立に際しても、参議院法務委員会は全会一致で附帯決議を採択し、①知識、経験、判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して勧誘し契約を締結させた場合における消費者の取消権(いわゆるつけ込み型不当勧誘取消権)を創設すること(法成立後2年以内)、②若年者の消費者被害を防止し救済を図るために必要な法整備を行うこと(法成立後2年以内)、③マルチ商法等への対策について検討し、必要な措置を講ずること、④消費者教育の充実を図ること、⑤18歳、19歳の若年者への周知徹底や社会的周知のための国民キャンペーン実施を検討することなどが政府に求められた。
しかし、成立から3年以上が経過し、施行までわずかに迫った現時点においても、いずれの施策もいまだに十分とは到底いえない状況にある。
例えば、若年者の消費者被害拡大に対応するために必要不可欠な施策であるつけ込み型不当勧誘取消権の創設は、今般、消費者庁「消費者契約に関する検討会」が取りまとめた報告書をみても、現に発生している若年者の消費者被害を広く救済できるとはいえない提言に止まっており、施行日までに実現できる目途は全く立っていない。
また、消費者教育についても、「若年者への消費者教育の推進に関するアクションプログラム」等は実施されているものの、消費者被害の予防につながる実践的な消費者教育が全国的に十分に行われているとはいえない状況である。さらに、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、特に学校現場における消費者教育に十分な時間が取れない状況が続いている。
当会は、本法律成立前の平成29年11月7日、そもそも成年年齢を引き下げるべき立法事実はなく、また、消費者問題拡大に対する必要な手当てが十分なされていない状況での引き下げに反対であるとの会長声明を発したが、このまま施行日を迎えた場合、まさに引き下げに伴う若年者の消費者被害の拡大の現実化は不可避である。
よって、附帯決議の内容とされた若年者の消費者被害の拡大防止と被害救済のための各課題に対する措置の速やかな実現を求める。
2021年(令和3年)10月26日
愛知県弁護士会
会 長 井 口 浩 治