1 改正された子ども・子育て支援法(以下「改正支援法」という。)が2019年10月1日から施行され、同日より、幼児教育・保育の無償化制度(以下「幼保無償化制度」という。)が始まった。

 改正支援法は、「子ども・子育て支援給付その他の子ども・子育て支援の内容及び水準は、全ての子どもが健やかに成長するように支援する」(改正支援法2条2項)という基本理念の下に、幼稚園、保育所、認定こども園のみならず、認可外保育施設や一時預かり事業(ベビーシッター、ベビーホテル等も含む)等、様々な形態の施設及び事業を広く対象としている。

 しかしながら、ブラジル人学校、朝鮮学校、インターナショナルスクールなど、各種学校の認可を受けた外国人学校の幼児教育・保育施設(以下「外国人学校幼保施設」という。)は、幼保無償化制度の対象外とされた。

2 外国人学校幼保施設が幼保無償化制度の対象とならない理由について、「幼児教育・高等教育無償化の制度の具体化に向けた方針」(20181228日関係閣僚合意)は、各種学校は「幼児教育を含む個別の教育に関する基準はなく、多種多様な教育を行っており、また、児童福祉法上、認可外保育施設にも該当しない」から、「法律により、幼児教育の質が制度的に担保された施設」といえないことを挙げている。

 しかしながら、多種多様な教育を実施している認可外保育施設も、改正支援法により無償化制度の対象となったことからすると、教育の多種多様性は無償化制度の対象となることを否定する合理的理由とはならない。

 加えて、乳幼児期は、言うまでもなく子どもの成長にとって非常に重要な時期であり、特に外国人にとっては、母語・継承語で幼児教育・保育を受けられる環境は、その子どもの言語的な発達やアイデンティティを育む上でかけがえのないものである。幼児教育施設が母語・継承語による教育を行おうとする場合、学校教育法1条で定められている「学校」としての法的地位を得ることはできないのであり、同法134条が定める「各種学校」として認可を受ける選択肢しか存在しない。

 このような外国人学校幼保施設が日本の法制度上各種学校として運営せざるを得ないことを踏まえれば、教育の多種多様性を理由に一律に外国人学校幼保施設を幼保無償化制度の対象から除外することは、全ての子どもが健やかに成長するように支援するという改正支援法の目的や理念に反し、憲法14条の平等原則、人種、皮膚の色、国民的・民族的・種族的出身による差別的取扱いを禁止した自由権規約2条1項、社会権規約2条2項、人種差別撤廃条約5条、子どもの権利条約2条1項にも反する差別的取り扱いにあたるといわざるをえない。

 そして、国は、多文化共生を推進しており、例えば「多文化共生の推進に関する研究会報告書」(2006年3月 総務省)において、「外国人児童生徒が・・・教育を受ける場として外国人学校を選択することも可能である」とし(第2章3(3)①)、外国人学校や生徒等への財政的支援に言及している(同G参照)ことなどからすれば、外国人学校幼保施設も幼保無償化の対象とすべきである。

 したがって、国は、外国人学校幼保施設を幼保無償化制度の対象とする法改正を行うべきである。

3 ところで国は、幼保無償化制度の対象外となった幼児教育類似施設に対する支援策を検討するため、2020年度に「地域における小学校就学前の子供を対象とした多様な集団活動等への支援の在り方に関する調査事業」(以下「本件調査事業」という。)を実施し、本件調査事業に基づき、2021年度より、幼児教育類似施設に関する「新たな支援策」を実施しようとしている。

 しかしながら、本件調査事業の対象は地方自治体から金銭的支援を受けている施設に限定され、かつ、本件調査事業は地方自治体に対する委託事業として実施されたため、自治体の判断により多くの外国人学校幼保施設が対象外とされるという問題点があった。差別的取り扱いにあたることは「2」で述べたとおりであり、2021年度以降に実施される新たな支援策においては、この問題点は解消されなければならない。

4 よって、当会は、国に対し、外国人学校幼保施設を幼保無償化制度の対象とする法改正を速やかに実施することを求めるとともに、当面の支援策として、すべての外国人学校幼保施設を2021年度から実施される幼児教育類似施設に関する「新たな支援策」の対象として、幼保無償化制度と同等の支援を実施することを求める。

以上 

2021年(令和3年)3月31日  

愛知県弁護士会       

会 長  山 下 勇 樹