特定秘密の保護に関する法律(以下「特定秘密保護法」という。)は2013年12月6日に成立し、翌年12月10日に施行された。当会は、立法準備の段階から、特定秘密保護法が国民の知る権利を侵害し、国民主権原理を形骸化させるとして制定に反対し、成立後も、特定秘密が不当に拡大指定される危険や、処罰される行為の不明確性が、知る権利を保障した憲法21条に違反する、としてその廃止を訴えてきた。
特定秘密保護法の知る権利に対する最大の脅威は、どの情報が特定秘密に該当するか、という事実を、市民や報道機関が事前に知ることが、極めて困難な点である。政府は内閣官房のウェブサイトで「各行政機関における特定秘密の指定状況一覧表」を公表しているが、ここでは対象行政機関が特定秘密保護法別表記載のどの事項に該当するものを何件、秘密として指定したかを示すに過ぎず、市民やメディアは、アクセスしようとする情報が秘密指定されたものかどうかを「各行政機関における特定秘密の指定状況一覧表」から知ることはできない。これにより、市民やメディアは、常に特定秘密の不正取得罪(第24条)や漏えい罪の教唆等(第25条)に問われる覚悟を強いられ続けている。
その一方で、「森友学園」「加計学園」や「桜を見る会」の追及の中で、行政文書の違法な廃棄だけでなく、公文書が改ざんされたことまで、明らかになった。新型コロナウイルス対策の専門家会議の議事録を作成していないことが問題になったのも、記憶に新しい。こうした一連の事実は、政府が、特定秘密保護法を背景に、国民に情報を知らせないことへの傾斜をますます強めてきたことを示すものといえる。
国民主権を実効あらしめるには、私たち国民が、新型コロナウイルス感染症対策など内政課題、外交問題、安全保障問題など政府の政策を厳しくチェックする調査報道によって知った情報に基づき、主権者として意見を政府に表明することが求められるが、特定秘密保護法によって、その調査報道が抑制、抑圧されてしまうことを私たちは改めて認識しなければならない。施行後の6年間に、特定秘密保護法違反による逮捕者の報道がないことに、安堵すべきではない。これを、この6年の間に国民の知る権利、表現の自由に対する抑止効果が強まった結果とみることもできる。
特定秘密保護法が、日本国憲法が保障する国民の知る権利を侵害することを強く意識し、廃止されるべきことを、施行後6年を経過した今、改めて求めるものである。
2021 年(令和3年)3月25日
愛知県弁護士会
会長 山下勇樹