法務大臣の私的懇談会である「第7次出入国管理政策懇談会」の設置した「収容・送還に関する専門部会」が取りまとめた「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」を踏まえて、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)の改正案が現在検討されており、次の国会にも提出される見込みと報道されている。

しかし、当会としては、以下に述べるとおり、①旅券取得に応じない行為及び本邦から退去しない行為に対する罰則の創設、②難民申請者の送還停止効に対する一定の例外の創設、③収容に代わる監理措置の新設及び逃亡罪の創設のいずれにも反対するとともに、④全件収容主義の撤廃、収容期間の上限の創設及び司法審査の導入を求める。

1 退去命令・旅券発給命令及び同命令違反に対する罰則の創設について

入管法の改正では、本邦からの退去対象者に対し、旅券等の発給の申請等の行為を行うことや、一定の期日までに退去することを命じ、この違反に対し罰則を定めることが検討されている。

しかし、退去強制令書の発付を受けてもなお在留を希望する外国人には、未成年者も多数含まれ、日本での出生・生育や教育、家族との同居、帰国後の生命身体への危険などを理由に帰国できないのであるから、罰則の導入での解決を図るのではなく、在留希望の理由を再検討し、在留や再入国等を認める抜本的な解決を図るべきである。また、罰則の導入は、当該外国人の日本での滞在を支援する家族、弁護士、行政書士その他の支援者が共犯とされる可能性を否定できず、人道的な支援や人権擁護活動を萎縮させる。以上の理由から、当会は、上記罰則の創設に反対する。

 

2 送還停止効の例外の創設について

入管法の改正では、難民申請者の「送還停止効」(入管法61条の2の6第3項)について、一定の例外を設け、例えば複数回申請者や犯罪歴のある者等に対し、送還停止効を無くし、速やかな送還を可能とする方策が検討されている。

しかし、日本における難民認定の質を向上させることなく上記例外の創設が行われれば、当該難民申請者の生命身体に危険を生じさせる。日本の難民認定率は、海外における認定率とは大きな乖離がある。トルコ、ミャンマー出身者などを見ても、難民条約の基準を使用し、各国の出身国情報に基づいているにもかかわらず、日本ではほとんど難民認定されていない。認定すべき難民を認定するという本質的な点について見直すことなく送還停止効の例外を創設することは、保護すべき者を生命身体の危険に晒す可能性が高い。以上の理由から、当会は、送還停止効の例外の創設に反対する。

3 収容に代わる監理措置の新設及び逃亡罪の創設について

入管法の改正では、現在の仮放免の適用場面を限定し、新たに民間の人・団体に任せて社会内での生活を認める収容代替措置を創設すること、及び、逃亡し、又は正当な理由なく出頭しない行為に対する罰則を定めることが検討されている。

逃亡する仮放免者の増加は、仮放免許可の減少、生活や医療の手当てのないままでの仮放免などの厳格に過ぎる仮放免者に対する近年の運用の副作用である可能性が高い。違反行為がない場合にも再収容する運用は、逃走を誘発している側面もある。求められているのは、身柄の拘束を最後の手段とする人権への配慮である。罰則の創設は、支援者に処罰のおそれが生じ、現行の仮放免の保証人もボランティアの民間の人・団体であることも少なくなく、これ以上の負担増は同人らの委縮や活動の断念につながり入管行政における人権保護機能の低下につながることが憂慮される。以上の理由から、当会は、上記罰則の創設及び民間の人・団体に依存した収容代替措置に反対する。

4 全件収容主義の廃止、収容期間の上限及び司法審査の導入について

日弁連は、事実上の無期限収容の現状に反対し、収容の要件を「その者が逃亡し、又は逃亡すると疑うに足りる相当の理由があるとき」に限り収容できると定めた上、その判断は司法によるとともに、収容期間は法律で最長でも6か月以内とすべきであると述べてきた(例えば、2020年3月18日付け「収容・送還の在り方に関する意見書」)。また、国連恣意的拘禁作業部会は、本年9月、東日本入国管理センターで長期収容された外国籍の男性2名の個人通報に対し、2名の収容が恣意的拘禁に該当し、自由権規約9条等に違反するという意見(A/HRC/WGAD/2020/58)を採択し、必要性と相当性を外部機関が判断していない全件収容の問題点を指摘するとともに、出入国管理に伴う無期限収容の自由権規約9条(1)違反及び司法審査機会欠缺による自由権規約9条(4)違反を指摘した。

そこで、当会としても、全件収容主義の廃止とともに、収容期間の上限を設け、収容の必要性及び相当性を判断する司法審査を導入するように求める。

愛知県は、東京都に次いで多くの在留外国人が住む都道府県であり、多くの会員が外国人の権利擁護に努めており、非正規滞在となった外国人が収容中や仮放免中に厳しい生活を強いられてもなお日本に留まらざるを得ない事情を汲み取り、入管当局や裁判所の理解を得るために腐心してきた。外国人がそれぞれに抱えるこれらの事情に対する深い理解なしには、収容や送還の問題の本質的解決にたどり着くことはできないであろう。刑事罰の創設や迫害の恐れのあると本人が考える土地への送還を可能にすること、また上限も司法審査もない収容と全件収容主義の維持は、極めて重大な人権の制約であり、最終手段として位置付けられるべきである。したがって、このような重大な不利益を課す手段を導入する前に、まずは在留特別許可や上陸特別許可の基準の明確化、全件収容の見直し、収容の基準の徹底した透明化、難民認定手続の質の向上を最優先とすべきである。

2020年(令和2年)12月1日 

愛知県弁護士会       

会 長  山 下 勇 樹