内閣は、2020年5月19日、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、世帯収入、アルバイト収入等が激減し、経済的困窮に陥った学生に対し、「『学びの継続』のための学生支援緊急給付金」(以下「本給付金」という。)を創設することを閣議決定した。本給付金は、経済的に困窮し学業継続に困難をきたしている学生を救済し、教育を受ける権利を保障するための措置として是非とも必要なものである。

 しかしながら、以下のとおり、本給付金の制度には、憲法14条、人種差別撤廃条約5条(e)(ⅴ)及び社会権規約2条2項、13条1項・2項(c)に違反する合理的理由のない差別が生じており、是正すべきである。

 

 第1に、外国籍の学生の場合、在留資格によっては本給付金の受給要件を満たすことが困難になる点が問題である。

すなわち、本給付金の要件として、学生・生徒用の手引きによれば、「既存の支援制度を活用していること、又は既存の支援制度への申請を行う予定であること」が課せられており(同8頁参照)、「既存の支援制度」とは、高等教育の修学支援新制度、第一種奨学金又は民間等を含め申請が可能な支援制度とされているところ、このうちの高等教育の修学支援新制度及び第一種奨学金の対象は、日本国籍の学生の他、「特別永住者」、「永住者」、「定住者」等の在留資格を有する学生に限定されている。そのため、「家族滞在」等の在留資格で日本に在留する外国籍の学生については、修学支援新制度及び第一種奨学金を利用できないため、本給付金を受け取ることが困難となることが見込まれる。

しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により経済的困窮に陥った学生に対して「学びの継続」を支援する必要性は在留資格によって異なるところがない以上、在留資格によって本給付金の支給要件を区別する合理的な理由はない。

 第2に、外国人留学生の場合、上記「既存の支援制度を活用していること、又は既存の支援制度への申請を行う予定であること」という要件に代えて、一律に、「学業成績優秀者」の要件が課せられている点が問題である。

 すなわち、上記「既存の支援制度」を利用できる学生については、「入学試験の成績が入学者の上位1/2以上であること」等に該当する学業成績優秀者だけでなく「学修計画書の提出を求め、学修の意欲や目的、将来の人生設計等が確認できること」等に該当する者つまり学業成績が優秀ではない者であっても支援を受けられる仕組みがあるのに対し、上記「既存の支援制度」を利用できない外国人留学生については、「学業成績が優秀な者であること」、具体的には「前年度の成績評価係数が2.30以上であること」(報道によれば成績上位25~30%程度)が要件とされているため、支給要件が加重されている。

 しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により経済的困窮に陥った学生に対して「学びの継続」を支援する必要性は、外国人留学生であっても異なるところはない。加えて、政府は、2008年に「留学生30万人計画」を掲げて以降、外国人留学生を積極的に受け入れる政策をとっており、2019年末に「留学」の在留資格をもつ者は34万人を超えている(令和2年3月27日出入国在留管理庁発表)。このような国家の政策のもと、日本に留学してきた外国人留学生が、新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって生活に困窮しているのであるから、外国人留学生に対して「学びの継続」を支援する必要性は高く、学業成績で支給要件を区別する合理的な理由がないことは明らかであり、留学生に対してのみ支給要件を加重し、学修意欲のある多くの留学生を支援から除外することに合理性は認められない。

 第3に、本給付金の対象学校から朝鮮大学校が除外されている点が問題である。

 すなわち、本給付金は、創設当時、国公私立大学(大学院含む)・短大・高専・日本語教育機関を含む専門学校に在学する学生のみを給付金の対象としたため、各種学校である朝鮮大学校及び外国大学日本校は、大学同様の高等教育機関であるにもかかわらず、対象外とされていた。この点、報道によれば、政府は、市民団体の指摘により、外国大学日本校8校については新たに給付金の対象に含めることとしたが、朝鮮大学校は未だに対象外とされたままである。

 しかし、朝鮮大学校については、1998年に京都大学が朝鮮大学校卒業生の大学院受験を認め合格したことを契機として、1999年8月、文部科学省が学校教育法施行規則を改正して大学院入学資格を拡充し、外国大学日本校とともにその卒業生に大学院入学資格を認めており(学校教育法102条1項・同施行規則155条1項8号・学校教育法施行規則の一部を改正する省令の施行等について(平成11年8月31日文高大第320号)第一の二)、また、2012年には社会福祉士及び介護福祉士法施行規則が改正され、朝鮮大学校卒業生にも受験資格が認められる(社会福祉士及び介護福祉士法7条3号・同施行規則1条の3第3項3号)など、朝鮮大学校を日本の高等教育機関として認める法制度が存在している。朝鮮大学校の学生も他の高等教育機関に在籍する学生と同様に、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により経済的に困窮しているという事情に変わりはないから、支援の対象外とすることに合理的理由はない。

 よって、当会は、文部科学省に対し、本給付金について、以上の差別を直ちに是正し、困窮学生に平等に給付するよう求める。

2020年(令和2年)7月13日

愛知県弁護士会      

会 長  山 下 勇 樹