司法試験合格後、法曹資格取得のため法律上義務付けられた司法修習は、戦後60年以上にわたって給費制が採られてきた。しかし、新第65期から第70期までのいわゆる「谷間世代」は、修習専念義務によって兼業・兼職が禁止される一方、約1年の司法修習期間中全くの無給で、大多数の司法修習生は修習資金の貸与という形で借金を余儀なくされる極めて不公正な制度が採用された。第71期司法修習生以降は、修習に専念するには不十分な額とはいえ修習給付金の支給が開始されており、谷間世代がいかに不公正な状態に置かれていたかが改めて浮き彫りとなっている。

 当会では、法曹養成は三権の一翼たる司法という国の社会インフラ整備に必要不可欠なもので、その養成は国の責務であるとして、上記「谷間世代」につき、事前の是正措置としての給費制復活を強く求め続け、修習終了後には事後的是正措置として給費制相当額ないし修習給付金相当額の一律給付を繰り返し求めてきた。

 また、この問題に関する2019年7月13日付当会会長声明において詳述したとおり、同年5月30日には、給費制廃止違憲訴訟の名古屋高等裁判所控訴審判決中、付言として、「例えば谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分考慮に値するのではないかと感じられる」と明記され、司法も立法府による一律給付等の事後的是正措置を求めているといえる。

 本年においては、新型コロナウイルスの感染拡大、さらに緊急事態宣言の発令という未曽有の事態により、人々の生活に様々な形で深刻な影響が生じている。

 そこで、当会では、法律相談センターでの面談相談に代わる無料電話相談窓口、中小企業のための新型コロナウイルス無料電話相談窓口を早期に設置し、市民の皆様が感染リスクを避けて法律相談できる体制作りに努めてきた。個々の弁護士においても各自工夫して相談や事件対応を続けており、多くの若手弁護士も司法サービスの担い手としてその職責を果たしている。

 特に、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、社会では、労働問題や契約キャンセルの問題、資金繰りや借金返済困難、DV等家庭内の問題といった極めて深刻な問題が生じており、弁護士が果たすべき社会的役割は増加している。

 他方で、緊急事態宣言発令後、裁判期日はほぼ取り消され、弁護士会の法律相談センターや法テラス、行政機関等の面談相談もほぼ中止となった上、各法律事務所においても面談による法律相談や打合せが困難であったこと等から、弁護士の収入減少も見込まれている。

 新第65期から第67期までの元司法修習生で、司法修習生に対する修習資金の貸与を利用した者につき、本年度分の修習資金の返還期限が7月25日に迫っているが、このような社会情勢において、修習資金の返還が足枷となり、若手弁護士の社会的、公益的な活動を阻害するような事態は避けなければならない。

 そこで、当会は、国に対し、改めて「谷間世代」に対する早急な是正措置を求めるとともに、本年の新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の事態を受け、本年度の修習資金返還の一律猶予(また、これに応じて各年度の返還期限を順次1年ずつ繰り下げること)を直ちに実施するよう求める。

2020年(令和2年)7月8日

愛知県弁護士会会長 山下 勇樹