2020年(令和2年)5月14日

愛知県弁護士会     

 会長 山 下 勇 樹 


第1 意見の趣旨

1 消費者庁は,いわゆる「販売預託商法」及びこれと類似の商法につき, 内閣府消費者委員会の2019年(令和元年)8月30日付け「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての消費者委員会意見」の具体的提言内容を踏まえ,かつ, 「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」における今後の議論及び報告を十分に反映させたうえで,特定商品等の預託等取引契約に関する法律(以下「預託法」という。)の改正に向けた措置を早急に講ずるべきである。

2 消費者庁は,預託法の改正にあたっては,以下の諸規制についても,併せて導入すべきである。

(1) 投資取引という実態に即した広告規制,行為規制,実効性確保措置の整備及び不招請勧誘の禁止

(2) 登録制による参入規制

3 消費者庁は,預託法の改正に併せて,行政による破産申立権につき検討を行い,販売預託商法に対する規制として,消費者庁による破産申立制度を導入すべきである。

4 国は,販売預託商法を規制する新法の制定ないしは預託法の改正に併せて, 同新法ないしは改正預託法の定める禁止行為及び無登録営業の各罰条該当行為につき,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織犯罪処罰法」という。)の犯罪収益没収規定(同法第13条第1項)及び被害回復給付金支給制度(犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律第3条)の適用対象とするよう立法措置を講ずるべきである。


第2 意見の理由

1 意見の趣旨1について

(1) 内閣府消費者委員会の建議・意見について

 内閣府消費者委員会は,いわゆる「販売預託商法」[1] 「物品・権利(以下「物品等」という。)を販売すると同時に,当該物品等を預かり,自ら運用する,又は第三者(ユーザー)に貸し出す等の事業を行うなどして,配当等により消費者に利益を還元したり,契約期間の満了時に物品等を一定の価格で買い取る取引」と定義されている(建議1頁)。 を悪用し,多数の消費者に深刻な被害をもたらす事案が繰り返し発生していることに鑑み,令和元年8月30日,「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての建議」(以下「委員会建議」と略称する)及び「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての消費者委員会意見」(以下「委員会意見」と略称する)を発出した。

 委員会建議は,消費者庁に対し,「販売預託商法及びこれと類似の商法に係る法制度の在り方や,体制強化を含む法執行の在り方について検討を行うこと」(建議事項1)等を求め,令和2年2月を目処にその各実施状況を報告するよう求めている。

 また,委員会建議と同時に発出された委員会意見は,いわゆる「販売預託商法」に係る法制度[2] 現行の預託法の改正によるか,新法の制定によるかを問わないが,指定商品制は採用すべきではないとの見解が示されている(意見書1頁脚注1)。 ・法執行の在り方についての検討に関し,その具体的規制内容を提言するものとなっている。

 具体的には,①商品の販売とその預託を組み合わせた「販売預託取引」[3] 物品等の販売と当該物品等の預託が当事者を異にして一体的に行われる場合や,物品等の販売に仮想通貨が用いられ,交換の法形式で行われる場合等,形式的に潜脱しようするものについても規制の対象に含めることも求めている(意見書1頁脚注2)。 を規制対象とし,②現物まがい取引[4] ①物品等が存在しない場合,②物品等の数量が預託されているはずの数量よりも著しく少ない場合,③物品等の販売価格が実際の価値に比べて著しく高額であるなど形式的に物品等を介在させている場合,が挙げられている(意見書1頁1(1)ア)。 の禁止(罰則による担保)及び民事効付与(契約無効),③元本保証[5] 「将来,事業者が物品等の買取りを行う場合に,販売代金の全額又はこれを超える金額に相当する金銭を支払うべき旨を示すこと」と定義されている(意見書1頁1(1)イ)。 の禁止,④取引の適正性・規制の実効性を確保するための措置の整備[6] 説明義務・書面交付義務の充実・強化,クーリング・オフ,中途解約権,所轄官庁への調査権限の付与など(意見書1頁1(2)ア,1頁脚注3,2頁脚注4) ,⑤犯罪収益の没収・被害回復制度の整備[7] 意見書には明示されていないが,組織犯罪処罰法の適用対象とすること,及び,犯罪被害者給付金制度の活用が念頭に置かれているようである(令和元年6月28日第301回消費者委員会本会議資料2・「現物まがい商法について ― その欺瞞性と刑事規制の限界」佐久間修名古屋学院大学教授) ,⑥参入規制[8] 届出制が示唆されている(意見書4頁脚注5)。 の導入,を提言している。

(2) 消費者庁の対応について

 消費者庁は,委員会建議及び委員会意見を受けて,「悪質ないわゆる『販売預託商法』について,多くの消費者被害が発生していることを踏まえて,特定商取引法及び預託法の観点から検討を行う」として,令和2年1月31日,「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」(以下「検討委員会」と略称する)を開催し,「令和2年夏までを目途に一定の結論を得る。」旨を公表した[9] 消費者庁・令和2年1月31日付けNews Release「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会の開催について」

 検討委員会では,具体的論点として,「悪質ないわゆる『販売預託商法』に対する実効性のある対策」が挙げられており,現行法を前提とした執行強化に止まらず,預託法等の法改正を含めた法制度の見直しを視野に入れた議論が展開されている[10] 第1回審議(令和2年2月18日)において,衛藤晟一大臣より「特定商取引法と預託法の法改正を視野に入れた,充実した議論を行っていただきますようお願いし,」という発言がなされ,河上正二委員長より「制度的な対応が必要かどうかというような議論をしている段階ではもうございません。」という発言がなされているほか,多数の委員より参入規制の導入を含めた法改正の必要性が指摘されている(第1回 特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会(2020年2月18日)議事録)

(3) 販売預託商法被害の激甚性

 販売預託商法は,特殊詐欺被害全般を遙かに凌駕する多額の経済的被害を生起させており[11] 内閣府消費者委員会「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての調査報告」(令和元年8月)図15「種類別被害総額比較」によれば,特殊詐欺全類型の年間被害金額は例えば平成29年で589億円程度であるが,同時期に被害が発覚したジャパンライフ事件は2000億円,ケフィア事業振興会事件は1000億円の被害金額であり,いずれも単体で,年間の特殊詐欺被害側額を遙かに凌駕している。 ,単一の取引類型として,これほど激甚な被害を生じさせるものは他に見当たらず,国民経済上の損失としてもはや看過できない事態となっている。

 また,その被害者層が高齢者に偏していること,一人あたりの被害金額が高額であることから,いわば「老後資産を根こそぎ収奪される」という悲惨な被害実態を招来しがちであることが指摘されている[12] 委員会報告書・図7「契約当事者の年齢の件数と割合」によれば,70歳代以上の被害者が70%を占めており,図8「契約購入金額の件数と割合」によれば,被害金額1000万円超が53%(5000万円超は14%)を占めている。

 超高齢者社会を迎え,社会保障制度の先行きに不安を抱く高齢者層が増加するにつれ,高齢者層を主要なターゲットとする悪質商法の拡大が懸念されるところ,高齢者層を中心に激甚かつ悲惨な消費者被害を繰り返し生起させている販売預託商法を効果的に抑止することは,もはや一刻の猶予も許されない喫緊の課題である。

(4) 販売預託商法の本質的問題点及び現行法制がこれに十分な手当をしていないこと

 預託販売商法の悪質性につき,委員会建議は,「①物品等を販売すると同時に預かると説明しつつ,実際には物品等が存在しない,②当該物品等を運用する事業の実態がなく,早晩破綻することが明らかであるにもかかわらず,高い利率による利益還元が受けられる,あるいは販売価格と同額での買取りにより元本を保証すると説明して取引に誘引する点で,消費者を二重に欺いて」いる点にあると指摘している。

 すなわち,販売預託商法の本質的問題点は,「物品販売契約でありながら裏付けとなる物品を欠いていること」(物品欠缺)及び「事業としての実態がないのにもかかわらず財産を拠出させること」(事業実態の欠如等)にあり,この二つの問題を効果的に抑止する必要がある。

 この点,現行の預託法は,預託約束及び利益供与・買取約束からなる取引を規制対象としているが,同時になされる物品の販売取引は取引要素として考慮されておらず,また,預託取引についても要物性は求められていないため,結果として,物品の実在性については何ら担保されない建付となっている。また,物品預託を受けた事業者が顧客に対して利益供与を行うためには,当然,預託物品を利用した収益事業を実施することが前提となっているはずであるが,預託法は,かかる事業の適切性(物品の実在性を含めて)の確保については,十分な制度的手当がなされていない[13] 指示対象行為の規制(同法第5条),報告徴収・立入検査権(同法第10条),業務停止命令・指示処分(同法第7条)が定められているが,参入規制(登録制等)は導入されておらず,主務官庁に対する業者の定期的な報告義務等は定められていない。

 すなわち,現行の預託法は,販売預託商法の本質的問題を抑止するための効果的な規制を決定的に欠いた法制といわざるを得ない。

(5) 現行法制に基づく法執行の問題点

 販売預託商法について,消費者庁は,預託法や特商法に基づき行政処分により対応してきたが,必ずしも十分な効果をあげてはいない。

 現行法制(預託法,特商法)に基づく行政処分としては,特定の契約類型にかかる取引における勧誘行為規制(不実告知・事実不告知等)違反に基づく業務停止処分が主軸となっている[14] 消費者庁見解「販売預託商法」に関する事件に関する処分の例」参照 。しかし,業務停止処分は新規契約締結の勧誘行為を禁止するだけで既存の顧客に対する配当は継続可能であり,また,特定の契約類型にかかる取引について業務を停止せしめるに過ぎないことから,実質的には同じ事業でありながら形式的に契約形式を変更することで,業者自体としては事業継続が事実上可能となってしまう。

 そのため,監督官庁が行政処分等を発出し,被害者がこれを契機に事業者及び取引の信頼性に疑念を抱いた場合であっても,配当等が継続される限り,騒ぎ立てて破綻を早めるよりも,業者の説明(「今後も配当継続に問題はない」「新たな事業を展開する」等)に縋って成り行きを静観することになりがちである。

 すなわち,業務停止等の行政処分等がなされた場合でも,被害者への感作力は限定的であって被害認識・申告には結びつきにくいうえ[15] 委員会報告書・図6「PIO-NETに登録された相談件数の推移(週別)」によれば,ジャパンライフ事件において,消費者庁による4回の行政処分の直後でも,相談件数はいずれも微増に止まっており,破綻報道が出てようやく被害相談が激増したことがわかる。 ,事実上処分を潜脱して事業継続を行うような悪質な事業者に対する関係では,その抑止効果も限界があり,結果として,配当停止による大規模被害の顕在化まで,効果的な抑止が機能しないという事態が繰り返されている[16] ジャパンライフは4回の業務停止余分を受けながら債権者による破産申立がなされるまで事業を継続していた。また,WILLについても2回の業務停止処分(通算39ヶ月間)を受けながらも事業活動は収束していない(消費者庁見解「販売預託商法」に関する事件に関する処分の例」)。

 すなわち,特定の契約類型に対する勧誘行為規制に基づく業務停止処分を主軸とする法執行を前提とする限り,勧誘行為規制違反の立証は被害申告に依拠せざるをえないため,被害申告が低調となりがちな販売預託商法被害の場合には,法執行の迅速性・実効性は十分に確保されているとはいい難い状況にある。

(6) 販売預託商法を規制する法制度の整備が急務であること

 今般,内閣府消費者委員会が委員会建議及び委員会意見を発出し,これを受けて,消費者庁において検討委員会を設置し,同検討委員会において,預託法改正を視野に入れた議論がなされていることからすれば,現行法制では預託販売商法を効果的に抑止し得ないこと,及び,販売預託商法による被害を根絶するためには抜本的な法制度の改正が必要不可欠であること,かつ,かかる対応が喫緊の課題であることは明らかである。

 消費者庁は,委員会意見の提言する具体的制度内容を踏まえ,かつ,検討委員会における今後の議論及び報告を十分に反映させたうえで,速やかに,預託法の改正を行うべきである。

2 意見の趣旨2について

(1) 委員会意見の提言内容について

 委員会意見は,規制法制の実効性確保及び法制の可及的早期実現という相反する要請を調整し,これらを可及的に充足し整合させるものとして提言されたものであって,その具体的内容は,販売預託商法被害抑止のため具備すべき最低限度を提示するものである。

 従って,立法化にあたっては,少なくとも,具体的規制として明示された部分については,提言内容から後退することがあってはならない。

 他方で,委員会意見の各趣旨のうちには,一定の方向性は示すものの具体的な規制内容としては一部の例示を示すに止まっているものも存在する。

 従って,委員会意見の提言する各趣旨を法案として具体化するに際しては,例示された規制内容に止まることなく,当該趣旨の趣意を正確に理解したうえで,前述したような被害実態を踏まえ,販売預託取引の効果的な抑止という見地から,その規制・制度内容を具体化していく必要がある。

 なお,当会は従前の意見書[17] 平成30年11月22日付け愛知県弁護士会「『預託商法』について抜本的な法制度の見直しを求める意見書」 において,販売預託商法に対する法規制として,将来的には金融商品取引法と同様の規制枠組みによる法制の実現を求めていたものであるが,販売預託商法被害の激甚性及び早急な手当が必要であることに鑑み,早期の立法化を最優先するとの見地から,委員会意見の提言内容につき,可及的早期の立法化という趣意を損なわない範囲で,販売預託商法被害抑止に必要な法規制の在り方につき,以下にその具体的内容を述べる。

(2) 規制対象について

 委員会意見は,指定商品性を排したうえで「販売から始まる預託取引」を規制対象とすることを提言している。当会も各意見書において,販売と預託とが一体化した取引を規制すべきである旨指摘してきたところであり[18]「預託商法のうち,事業者による物品の販売と,販売業者又はその関連業者が 収益の配当を約して当該物品の預託を受けることが一体的に行われている形態のもの」(平成30年11月22日付け愛知県弁護士会意見書) ,全面的に賛成する。

 この場合,定義の隙間を突いた潜脱商法の横行を可及的に排除するため,取引定義を工夫する必要がある。この点,委員会意見は「物品等の販売と当該物品等の預託が当事者を異にして一体的に行われる場合や,物品等の販売に仮想通貨が用いられ,交換の法形式で行われる場合等,形式的に潜脱しようするものについても規制の対象に含めることも求められる。」と指摘しているように,販売事業者と預託事業者とを形式的に分離したり,販売と預託にタイムラグをおくことで牽連一体性がないかのように装ったり,商品販売にあたり売買以外の法形式を採用したり,預託に関してリース等の法形式を採用したり,販売商品の引き渡し時期を先期日とすることで預託には当たらない[19] ケフィア事業振興会事件では,約半年後を履行期とする農産加工品の販売という先渡取引の形態であるが,履行時に現物の引渡しに代えて事業者が契約目的物を買取ることにより代金(購入金額に金利相 当額のプレミアムを加算した金額)を支払うという「買取」オプションが付加されており,当該買取オ プションの下では対象商品の引渡しもないため,その所有権移転は著しく形骸化しており,実質的に は,契約目的物の購入代金名目で金銭を拠出し,半年後に利益を加えた拠出金全額が償還される」という販売預託商法と同様の取引となっていた。  なお,ケフィア事業振興会は2000年から社債の販売などで資金を集めていたが,2009年12月に関東財務局から金融商品取引法違反(無登録営業)にあたるとして指導を受けたことから,2011年より上記商法を展開し始めたとのことである(2020年2月20日付け東京新聞)。 などと主張することによって,容易に規制の潜脱が可能となることがないよう手当することが必要である。

(3) 禁止行為の法定(委員会意見趣旨1(1)ア及びイ)について

 委員会意見は「悪質な」[20]「高い利率による利益還元や物品等の販売価格相当額での買取り(実質的な元本保証)をうたい,高齢者をはじめとする消費者から多額の金銭の 拠出を募るが,実際には物品等やそれを運用する事業は存在せず,消費者から拠出された金銭を別の消費者の配当に充て,最終的には破綻するという詐欺的な商法」と定義されている(委員会建議1頁) 販売預託商法を抑止するため,①現物まがい商法等を罰則付きで禁止することで摘発を容易化し,かつ,被害者救済制度に繋げる,②現物まがい商法等を民事上も無効とすることにより被害者からの契約離脱・返金請求を容易化する,③実質的な元本保証を禁止することにより経済的合理性に乏しいスキームを抑止する,ことを第一義に挙げている。

 委員会意見が現物まがい商法等として禁止行為に摘示している3類型(①物品等が存在しない場合 ②物品等の数量が預託されているはずの数量よりも著しく少ない場合 ③物品等の販売価格が実際の価値に比べて著しく高額であるなど,形式的に物品等を介在させている場合)は,委員会建議が指摘する販売預託商法の本質問題点である「物品欠缺」を可及的に補足すべく定義したものといえる。

 既に述べたとおり,被害申告が低調かつ被害が高齢者に偏している販売預託商法被害においては,被害者からの被害申告及び具体的勧誘状況の再現を必要とする不実告知・事実不告知等の勧誘行為規制及びこれを理由とする法執行には限界がある。従って,具体的勧誘状況の如何に依拠しない客観的事実状態に基づく行為規制・法執行を整備することが必要不可欠である。

 現法制上,現物まがい商法等については,詐欺や出資法違反による検挙事例も存在するものの,立証の困難性等の事由もあり抑止手段として効果的に機能していないとの指摘がなされている[21] 消費者報告書25頁 。また,販売預託商法では往々にして実質的な元本保証がなされていることが多いが,形式的には物品等が介在しているため,実質的な金銭出資と評価することが困難なケースも多く,出資法違反による摘発も低調である。

 この点,委員会意見の提言する現物まがい商法等の禁止は,物品欠缺等の客観的要件に基づき問題のある取引類型を直截に処罰対象として禁止することにより,この種の事件における行政責任・刑事責任追及の容易化・迅速化が期待でき,上記のような勧誘行為規制に基づく法執行の限界を補完することが可能となる点で,法執行の強化として適宜かつ有用である。また,組織犯罪処罰法と連動させることで被害回復給付金制度の活用も可能となることから,被害救済の見地からも極めて有用な規制といえる。

 加えて,現物まがい商法等を民事上も無効とすることは,被害者において契約離脱・被害回復の手段を提供することになり,相談現場・実務における被害救済に資することも期待しうる。

 また,実質的な元本保証取引を禁止することは,実現可能性・持続可能性に乏しい事業スキームに対する財産拠出を抑止する効果が期待でき,販売預託商法の本質的問題点である「事業実態の欠如」に対する手当として適切かつ有用である。もっとも,委員会意見は,実質的元本保証の要件として「将来,事業者が物品等の買取りを行う場合に,販売代金の全額又はこれを超える金額に相当する金銭を支払うべき旨を示すこと」と定義しているところ,過去の事例では,将来の物品買取の際の元本償還保証のみならず,運用期間中の配当利益として元本額以上を保証するという形態で実質的元本保証を謳うものも存在している[22] 具体例として,ジャパンライフ事件における「長期契約」が挙げられる。 。出資法はこのような場合でも適用の余地があることに徴すれば,委員会意見の定義では,現行法制よりも限定した行為規制となってしまい不合理である。従って,禁止されるべき実質的元本保証として,物品買取の際の元本償還保証のみならず,運用期間中の配当利益として元本額以上を保証するという形態も包摂する定義とすべきである。

 以上の修正を加えたうえで,当会は,禁止行為の法定に賛成する。

(4) 取引の適正性・規制の実効性を確保するための措置(委員会意見趣旨1(2))について

 委員会意見は,「『販売預託商法』は投資性のある取引であり,消費者がリスクを正しく理解して取引に入れるよう,正しい情報が適切に消費者に伝わらなければならない。そこで,説明義務・書面交付義務の充実・強化や,法所管官庁への調査権限の付与等,取引の適正性,規制の実効性を確保するための措置が講じられるべきである。」と提言する。

 委員会意見の当該趣旨は,販売預託商法の本質が投資取引であるとの認識に基づき,かかる本質を踏まえた行為規制及び実効性確保措置の整備を求めるものであり,その一部を例示したものと思われる。以下に,委員会意見の趣旨を敷衍・補充したうえで,必要な具体的規制内容を述べる。

① 広告規制

 過去の販売預託商法被害事例では,雑誌広告等で宣伝活動を展開していたものが多い。また,スマートフォン等の個人端末の利用拡大や利用データに基づくターゲティング広告の発達等により,インターネットを利用した様々な利殖商法被害が横行している。かかる現状を踏まえれば,投資取引である販売預託商法については広告規制を加えるべきである。 広告規制は,誇大広告及び元本や利回り保証あるいはそれと誤認のおそれがある表示等の禁止の禁止とともに,取引の本質が投資であり,事業者の運用や信用状態によって元本割れや元本喪失のリスクのある取引であることを明瞭に表示すること,利益収受を表示するときはその計算根拠を表示する等を重要事項の記載義務として規定することが不可欠である。

② 行為規制

ア 適合性原則

 販売預託商法の本質は投資取引であるから,投資取引の一般原則たる適合性原則を導入すべきである。ことに,販売預託商法では,被害者一人あたりの被害額が高額であるため,何らかの過量販売規制を導入する必要があるところ,販売預託商法では購入物品は預託運用を前提としているため,通常の過量販売規制のように自己使用を前提とした適量ということが観念しえない。従って,投資取引に関する量的規制として,適合性原則を導入することは実際上も有用である。

イ 説明義務,断定的判断提供の禁止

 販売預託商法の本質は投資取引であるところ,顧客にかかる本質を理解させたうえで取引を開始することは事業者の責務となる。従って,事実に関する不実告知及び事実不告知を規制するのみでは足らず,適宜の説明義務を課すことが必要不可欠である。その具体的内容としては,取引の仕組みはもとより,販売預託商法特有のリスク要因,すなわち預託商品の存在及びその権利関係,提供される利益や元本償還は事業の運用実績に依拠するものであること,事業者の業務・財産状況によって元本欠損のおそれがあること等までが含まれるべきある。そのうえで,顧客に理解されるために必要な方法及び程度によって行われることが必要であり,ことに認識・判断力の落ちた高齢者等には,それに応じた丁寧な対応を要することを明記すべきである。

 加えて,断定的判断の提供・確実性誤認惹起行為も投資取引の本質に反するものであるから,その禁止規定も必要である。

 また,これら行為規制について民事効を付与することにより実効性を確保することが必要である。従って,不実告知・事実不告知の場合の契約取消権,及び,説明義務違反および断定的判断提供があった場合の損害賠償責任・損害額と因果関係の推定規定を導入すべきである。

③ 不招請勧誘の禁止

 不招請勧誘の禁止は,リスク耐性のない消費者が不用意に高リスク商品の取得勧誘にさらされる機会そのものを制限するという点で,被害防止に最も 効果的な勧誘規制である。販売預託商法は,リスクのある投資商品であり,リスク耐性に乏しい高齢者に被害が集中することが多い上, 大規模な被害を繰り返してきたことに鑑み,不招請勧誘を禁止すべきである

④ 実効性確保措置の整備

 委員会意見の提示する法制においては,現物まがい商法等を罰則付きで禁止することで,刑事責任追及の容易化・迅速化をはかることに主意がおかれている。

 しかしながら,従前の預託商法被害においては,事業破綻後の破産管財人の調査を経て物品欠缺等が判明したというケースが多く,事業継続中の立ち入り検査等で物の欠缺等が明らかになった事例もあるが[23] ジャパンライフに対する消費者庁の2度目の行政処分(「預託法及び特定商品取引法違反の事業者に対する業務停止命令,取引停止命令等について」(平成29年3月16日付け,消費者庁)) ,既に被害は大規模化しており,その後まもなく破綻に追い込まれている。

 このように,物品欠缺等の把握・立証自体が容易ではないことに加え,刑事処分の謙抑性原則との関係もあり,刑事処罰のみでは被害抑止として限界がある。従って,刑事処分に先立つ行政監督・処分によって,かかる悪質販売預託商法を可及的早期に抑止することが重要である。

 加えて,委員会意見が禁止行為として提示する現物まがい商法(物品欠缺等)の3類型は,経済的合理性がそもそも認められないという典型的な場合であって,かかる典型的なケースには該当しないまでも,経済的合理性に疑義があり,消費者被害の招来が懸念されるような事業スキームは存在している[24] 例えば,WILLの事案では,販売物は「テレビ電話起動ソフトの入ったUSB」であるところ,これらは複製容易で費用も廉価なので「物の裏付けを欠く」という事態は容易に回避可能である。消費者庁の処分は,「レンタルに廻しているはずのテレビ電話機が過小である」ことに依拠しているが,これは正に「事業の実態に疑義がある」ということであって,かかる問題は「販売した物の欠缺」では補足し得ず,事業の実現可能性・持続可能性の見地から規制することがより直截かつ実効的である。 。さらに,事業者による資産流用や事業収益に基づかない配当の実施など不適切な業務運営により資産毀損が加速化することも懸念される。

 従って,販売預託商法による被害抑止にあたっては,禁止行為とされる3類型や実質的元本保証取引を規制するだけでは不十分であり,これら要件には直接該当しなくとも経済的合理性に疑義のある事業スキームに対しては,入り口の段階で事前に排除し,また,恒常的なモニタリングにより不適切な業務運営を早期に覚知し,実効性ある処分により業務運営を適正化させ,改善が見込めない場合には事業継続そのものを停止せしめる必要がある。そのためには,監督官庁に必要な監督権限及び処分権限を付与することが必要不可欠である。

 以上を踏まえれば,実効性確保措置として以下の内容を整備すべきである。

・事業参入時における事業計画書の提出

・事業年度ごとの事業報告書の提出

・預託商品の保有・運用実態や利益配当見込みについての合理的根拠資料の提出

・報告の徴取および立入検査権限

・顧客に対する業務・財務状況報告書交付義務の導入

・預託財産管理の適正を担保するため,分別管理義務(分別管理がなされていない場合の取引等の禁止,資産流用がなされている場合の取引等の禁止を含む)の導入

・会計監査人による監査の義務づけ[25] 改正資金決済法では,暗号資産交換業者に対し,新たに「履行保証暗号資産」の管理状況についても,定期的に」についても監査対象事項とすることが望ましい。

・預託取引の特性を踏まえた公正妥当と認められる企業会計基準の利用義務の導入

 また,上記の各規制についてはその違反行為を行政処分の対象とするとともに,罰則を付してこれを抑止すべきである。

(5) 参入規制の導入の検討(委員会意見趣旨3)について

 委員会意見は,参入規制の導入を提唱しているものの,具体的制度としては,登録制ではなく届出制を例示している。

 当会も,預託商法被害の効果的な抑止のためには,参入規制の導入が必要不可欠と考えるが,以下の理由により,届出制ではなく登録制とすべきである。

ア 入り口段階で不適切悪質なスキームを排除する必要があること

 参入規制は,監督官庁による恒常的なモニタリングを可能とするための前提条件として必要であるのみならず,入り口において悪質なスキーム・業者を排除するための手段として極めて有用である。

 この点,委員会意見は参入規制導入の必要性につき,事業者及び事業者情報の事前把握を挙げており,入り口段階での審査の意義については重視していないようである。これは,委員会意見の主意が物品欠缺等の現物まがい商法の排除を第一義としているため,事業開始の時点では物品が存在しないのは当然であるから,入り口での審査そのものが前提として成り立たないことからすれば当然の帰結である。

 しかしながら,既に述べたように,経済的合理性に疑義があり消費者被害の将来が懸念される事業スキームは,委員会意見が禁止行為として提示する現物まがい商法(物品欠缺等)の3類型に限られない[26] ジャパンライフ事件における役員損害賠償請求額査定申立事件(東京地裁令和元年5月8日決定)では,そもそもレンタル事業においてレンタルユーザーから受領する賃料とレンタルオーナー制度においてオーナーに支払われる賃料とが同率に設定されていることから何らの利鞘もなく,レンタルオーナー制度を継続することにより必然的に生じる損失を新規契約に伴う新たな入金により賄うことでしか維持できない破綻必至のスキームであった旨認定されている。すなわち物品の有無以前の問題として,そもそもの事業スキーム自体が破綻必至のものであった。 。このような不適切なスキームについては,参入時において,預託商品の保有・運用実態や利益配当見込みについての合理的根拠資料を添付した事業計画書を提出させたうえで,参入の要否を審査し,問題があれば参入そのものを排除することがもっとも直截な抑止策となる。また,委員会意見は,実質的元本保証の禁止も提言しているところ,かかる約定の有無は物品欠缺と異なり事業計画書の内容等から事業開始時においても判断可能な場合もある。このような場合に,参入自体を排除することが適切である。

 しかるに,届出制では,必要書類が提出されれば受理するほかはなく,審査という契機が存在しないため,入り口段階におけるスクリーニングが機能しないことになる。参入時において不適切スキームを排除するためには,登録制の導入が不可欠である。

イ 登録取消による事業継続そのものを停止せしめうること

 既に指摘したとおり,現行法制における法執行の限界として,特定の契約類型に係る取引についての業務停止処分では,悪質業者の業務継続を停止せしめることできず,結果として被害が拡大してしまうという限界がある。  

 この点,登録制の場合,違反行為が発覚した場合には,登録取消によって新規契約締結の勧誘行為を禁ずるのみならず,事業継続そのものを事実上停止せしめることが可能となる。しかし,届出制にはそもそも取消という制度が観念し得ない。

 業務停止処分を繰り返し行ったにもかかわらず事業継続・被害拡大を防止できなかったといいうこれまでの販売預託商法被害事例の教訓に鑑みれば,登録制を導入すべきである。

ウ 消費者庁の対応について

 参入規制の導入について,消費者庁は,①無許可営業の横行のおそれ,②業規制の対象とした場合でも,違反業者に対する法執行としては業務改善命令や業務停止命令等の行政処分が中心であり,現行法令に基づく行政処分と大差がないこと,③販売預託取引という登録枠組みでは悪質業者の規制漏れや健全業者に対する過剰規制の懸念があり,規制の合理性に乏しいこと,④業規制に要する行政コストとの費用対効果を慎重に検討すべきであること,⑤業登録等が悪質業者によって信用惹起・標榜の手段として悪用される懸念があること,などの理由を挙げて,消極的な態度を示している[27] 2019年(令和元年)8月22日付け消費者庁「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての消費者委員会意見について」

 しかし,①無許可営業の横行のおそれについては,その懸念はあるものの,参入規制を導入することによるメリットの方が遙かに大きい。登録制を採用している金融商品取引法の運用実態においても,無登録業者が存在しており,警告書の発出等の対応をしているものの,完全に抑止し得ているわけではない。しかし,参入規制による悪質商法被害抑止の眼目は,監督官庁による無許可業者の摘発はもとより大事ではあるが,むしろ,許可業者のリストを開示することにより,被害者をして,自分の取引している業者が許可業者であるか否かを容易に判別できるようにすることで,取引への参加を留保させたり,取引から離脱させることを容易にさせるという点で著効がある。無登録営業を罰則で禁圧しておけば,無許可業者による営業の継続・公然化は困難となるから,少なくとも,登録制導入後においては,無登録業者による被害が,過去の被害事例のように大規模化することは十分に防ぐことができる。②業規制の対象とした場合でも,違反業者に対する法執行としては業務改善命令や業務停止命令等の行政処分が中心であり,現行法令に基づく行政処分と大差がないとの指摘については,既に述べたように,登録制を採用すれば,登録取消等の処分により事業継続そのものを事実上停止せしめることが可能となるので,被害の拡大防止という点では,現行の営業停止処分等の処分に比べて遙かに効果的である。③販売預託取引という登録枠組みでは悪質業者の規制漏れや健全業者に対する過剰規制の懸念があるとの指摘については,可及的に潜脱を許さないような規定の在り方を検討すれば足りる話であり,現行の指定商品性よりはるかに有益である。また,過剰規制という点で考慮すべきなのは,健全なシェアリング取引への影響であるところ,業界団体からのヒアリングによれば,販売一体型のケースはほとんど無いことが確認済みであり[28] 令和元年7月26日第303回消費者委員会本会議資料「SHARING ECONOMYビジネスの動向と今後の課題」(一般社団法人シェアリングエコノミー協会)では「販売&預託ビジネス≠シェアリングビジネスであるため,直接的な影響は現時点では考えられない」「シェアリングビジネス=遊休資産(スキルなど無形資産含む)の有効活用であり,投資などとは性質が異なる」との見解が示されている。 ,販売預託商法に対する参入規制導入が健全業者に悪影響を及ぼすというという懸念はない。④業規制に要する行政コストとの費用対効果を慎重に検討すべきであるとの指摘は,それ自体としては正論であるが,既存の遊休資産の運用を行うシェアリング取引はそもそも規制対象にならないことからすれば,販売預託商法として対象となる業者数はそれほど多数にはのぼらないと思われ,想定される行政コストは過大なものとはなり得ないと思われる。また,これまで販売預託商法が大規模な消費者被害を繰り返しており,極めて多額の国民経済上の損失をもたらしていることに鑑みれば,もはや,行政コストの問題は被害発生を放置し続けることを正当化する根拠とはなり得ない。⑤消費者庁登録による「お墨付き」を悪質業者に与えかねないとの懸念については,このような議論は,FX取引につきFX取引業者を業登録の対象とする金融先物取引法が制定された際や,仮想通貨取引につき仮想通貨交換業者を業登録の対象とする資金決済法の改正の際にもなされた議論であって,その後の各法制における主務官庁の監督や法執行を通じて,業界の健全化が図られたことは周知の事実である。消費者庁の指摘する懸念は,短期的にはあり得ても,長期的に見れば業界健全化・悪質業者排除の過程においては不可避な事柄であり,かかる懸念をもって参入規制そのものを否定する根拠にはなり得ない。

エ 検討委員会における議論状況

 検討委員会は,令和2年2月18日に第1回審議を開催しているが,複数の委員より,参入規制導入の必要性が指摘されていたところ[29] 第1回 特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会(2020年2月18日)議事録 ,同年4月21日の第2回審議(書面審議)では,14委員中6委員が登録制の導入を要請するに至っている[30] 第2回 特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会(書面審議)(2020年4月21日)各委員提出資料

 消費者庁は,事務方として,かかる委員の提言に真摯に受け止め,参入規制に関する消極的態度を改め,登録制による参入規制の導入を積極的に検討すべきである。

(6) 小括

 消費者庁は,販売預託商法に関する預託法の改正を行うにあたっては,委員会意見の具体的提言内容を踏まえ,検討委員会における今後の議論及び報告を十分に反映させるのみならず,登録制による参入規制,投資取引という実態に即した行為規制,実効性確保措置の整備,不招請勧誘の禁止の諸規制についても,導入すべきである。

3 意見の趣旨3について

 販売預託商法の事業者に対し業務停止命令等の行政処分を行っても,最終的に,速やかに資産を凍結し被害者に返還する仕組みがなければ,被害者救済は完結できない。被害者側からの破産申立は高額の予納金調達等問題があり事実上困難であるため,行政庁に破産申立権限を付与することが必要となる。

 この点について,消費者庁は,「消費者の財産被害に係る行政手法研究会」において,2013(平成25)年6月「行政による経済的不利益賦課制度及び財産の隠匿・散逸防止策について」という報告書を公表し,行政庁による破産申立制度の導入について,その意義や課題を具体的に論点整理し,今後の検討が期待される旨を述べている。しかし,その後6年以上にわたり議論が進んでいない。

 消費者庁は,販売預託商法に関する法制度の在り方を議論するにあたっては,並行して,行政庁による破産申立権の付与についても議論を再開し,早急に結論を得るべきである。なお,対象事案を販売預託商法に絞り,個別に導入を検討することも考慮すべきである。

4 意見の趣旨4について(犯罪収益の没収・被害回復)

 委員会意見は,悪質な類型の「販売預託商法」に係る事業者の犯罪収益を没収し,その上で,被害者の被害回復に充てる仕組みの導入を提言しており,その趣旨に全面的に賛成する。

 委員会意見はその具体的な方途については明言していないが,現物まがい商法の禁止規定の罰則を強化し,組織犯罪処罰法上の犯罪被害財産の被害回復給付金支給制度(犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律)[31] 検察官が,詐欺罪等の財産犯罪行為によって得た違法収益を犯人から刑事裁判を通じて剥奪(没収・追徴)した上,給付資金として保管し,事件被害者などに給付金を支給する制度 の適用対象とすることが念頭に置かれているようである[32] 具体的には,現物まがい商法の禁止及び無登録営業の各罰則を「長期4年以上の懲役又は禁固」とし (組犯法第2条第2項第1号イ),同法第13条第2項にこれら犯罪を追加する。ちなみに,貸金業者 の無登録営業罪は,5年以下の懲役又は1000万円以下の罰金であり(貸金業法第11条第1項,第47条第2号),組織犯罪処罰法第13条第1項,別表47号により犯罪収益は没収対象とされている。ただし,犯罪被害財産(第13条第2項)の対象にはされていない。

 もっとも,上述したように,物の欠缺等を要件とする処罰規定は,実態の覚知・把握に困難が伴うため,可及的早期に被害拡大を抑止するとの見地からは,その有用性には限界があり,より効果的な犯罪収益の保全・被害者財産の回復を図る制度が導入される必要がある。

 従って,現物まがい取引の禁止違反のみならず,登録制を導入したうえで無登録営業の罰則を強化し,両者を組織犯罪処罰法の適用対象としたうえで,被害回復給付金支給制度の適用対象とすることが考えられる。後者は形式犯であって立証も容易であり,迅速な法執行が期待できることから,早期の被害抑止及び被害回復に著効が見込みうる。

 以上より,国は,販売預託商法を規制する新法の制定ないし預託法の改正にあたっては,禁止行為(現物まがい商法の禁止)及び無登録営業につき,組織犯罪処罰法及び被害回復給付金支給制度の適用対象とするよう併せて法改正を行うべきである。

以 上



[1] 「物品・権利(以下「物品等」という。)を販売すると同時に,当該物品等を預かり,自ら運用する,又は第三者(ユーザー)に貸し出す等の事業を行うなどして,配当等により消費者に利益を還元したり,契約期間の満了時に物品等を一定の価格で買い取る取引」と定義されている(建議1頁)。
[2] 現行の預託法の改正によるか,新法の制定によるかを問わないが,指定商品制は採用すべきではないとの見解が示されている(意見書1頁脚注1)。
[3] 物品等の販売と当該物品等の預託が当事者を異にして一体的に行われる場合や,物品等の販売に仮想通貨が用いられ,交換の法形式で行われる場合等,形式的に潜脱しようするものについても規制の対象に含めることも求めている(意見書1頁脚注2)。
[4] ①物品等が存在しない場合,②物品等の数量が預託されているはずの数量よりも著しく少ない場合,③物品等の販売価格が実際の価値に比べて著しく高額であるなど形式的に物品等を介在させている場合,が挙げられている(意見書1頁1(1)ア)。
[5] 「将来,事業者が物品等の買取りを行う場合に,販売代金の全額又はこれを超える金額に相当する金銭を支払うべき旨を示すこと」と定義されている(意見書1頁1(1)イ)。
[6] 説明義務・書面交付義務の充実・強化,クーリング・オフ,中途解約権,所轄官庁への調査権限の付与など(意見書1頁1(2)ア,1頁脚注3,2頁脚注4)
[7] 意見書には明示されていないが,組織犯罪処罰法の適用対象とすること,及び,犯罪被害者給付金制度の活用が念頭に置かれているようである(令和元年6月28日第301回消費者委員会本会議資料2・「現物まがい商法について ― その欺瞞性と刑事規制の限界」佐久間修名古屋学院大学教授)
[8] 届出制が示唆されている(意見書4頁脚注5)。
[9] 消費者庁・令和2年1月31日付けNews Release「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会の開催について」
[10] 第1回審議(令和2年2月18日)において,衛藤晟一大臣より「特定商取引法と預託法の法改正を視野に入れた,充実した議論を行っていただきますようお願いし,」という発言がなされ,河上正二委員長より「制度的な対応が必要かどうかというような議論をしている段階ではもうございません。」という発言がなされているほか,多数の委員より参入規制の導入を含めた法改正の必要性が指摘されている(第1回 特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会(2020年2月18日)議事録)
[11] 内閣府消費者委員会「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての調査報告」(令和元年8月)図15「種類別被害総額比較」によれば,特殊詐欺全類型の年間被害金額は例えば平成29年で589億円程度であるが,同時期に被害が発覚したジャパンライフ事件は2000億円,ケフィア事業振興会事件は1000億円の被害金額であり,いずれも単体で,年間の特殊詐欺被害側額を遙かに凌駕している。
[12] 委員会報告書・図7「契約当事者の年齢の件数と割合」によれば,70歳代以上の被害者が70%を占めており,図8「契約購入金額の件数と割合」によれば,被害金額1000万円超が53%(5000万円超は14%)を占めている。
[13] 指示対象行為の規制(同法第5条),報告徴収・立入検査権(同法第10条),業務停止命令・指示処分(同法第7条)が定められているが,参入規制(登録制等)は導入されておらず,主務官庁に対する業者の定期的な報告義務等は定められていない。
[14] 消費者庁見解「販売預託商法」に関する事件に関する処分の例」参照
[15] 委員会報告書・図6「PIO-NETに登録された相談件数の推移(週別)」によれば,ジャパンライフ事件において,消費者庁による4回の行政処分の直後でも,相談件数はいずれも微増に止まっており,破綻報道が出てようやく被害相談が激増したことがわかる。
[16] ジャパンライフは4回の業務停止余分を受けながら債権者による破産申立がなされるまで事業を継続していた。また,WILLについても2回の業務停止処分(通算39ヶ月間)を受けながらも事業活動は収束していない(消費者庁見解「販売預託商法」に関する事件に関する処分の例」)。
[17] 平成30年11月22日付け愛知県弁護士会「『預託商法』について抜本的な法制度の見直しを求める意見書」
[18]「預託商法のうち,事業者による物品の販売と,販売業者又はその関連業者が 収益の配当を約して当該物品の預託を受けることが一体的に行われている形態のもの」(平成30年11月22日付け愛知県弁護士会意見書)
[19] ケフィア事業振興会事件では,約半年後を履行期とする農産加工品の販売という先渡取引の形態であるが,履行時に現物の引渡しに代えて事業者が契約目的物を買取ることにより代金(購入金額に金利相 当額のプレミアムを加算した金額)を支払うという「買取」オプションが付加されており,当該買取オ プションの下では対象商品の引渡しもないため,その所有権移転は著しく形骸化しており,実質的に は,契約目的物の購入代金名目で金銭を拠出し,半年後に利益を加えた拠出金全額が償還される」という販売預託商法と同様の取引となっていた。  なお,ケフィア事業振興会は2000年から社債の販売などで資金を集めていたが,2009年12月に関東財務局から金融商品取引法違反(無登録営業)にあたるとして指導を受けたことから,2011年より上記商法を展開し始めたとのことである(2020年2月20日付け東京新聞)。
[20]「高い利率による利益還元や物品等の販売価格相当額での買取り(実質的な元本保証)をうたい,高齢者をはじめとする消費者から多額の金銭の 拠出を募るが,実際には物品等やそれを運用する事業は存在せず,消費者から拠出された金銭を別の消費者の配当に充て,最終的には破綻するという詐欺的な商法」と定義されている(委員会建議1頁)
[21] 消費者報告書25頁
[22] 具体例として,ジャパンライフ事件における「長期契約」が挙げられる。
[23] ジャパンライフに対する消費者庁の2度目の行政処分(「預託法及び特定商品取引法違反の事業者に対する業務停止命令,取引停止命令等について」(平成29年3月16日付け,消費者庁))
[24] 例えば,WILLの事案では,販売物は「テレビ電話起動ソフトの入ったUSB」であるところ,これらは複製容易で費用も廉価なので「物の裏付けを欠く」という事態は容易に回避可能である。消費者庁の処分は,「レンタルに廻しているはずのテレビ電話機が過小である」ことに依拠しているが,これは正に「事業の実態に疑義がある」ということであって,かかる問題は「販売した物の欠缺」では補足し得ず,事業の実現可能性・持続可能性の見地から規制することがより直截かつ実効的である。
[25] 改正資金決済法では,暗号資産交換業者に対し,新たに「履行保証暗号資産」の管理状況についても,定期的に公認会計士や監査法人のチェックを受けることが義務づけられており,販売預託商法においても,同様に「商品の実在性」についても監査対象事項とすることが望ましい。
[26] ジャパンライフ事件における役員損害賠償請求額査定申立事件(東京地裁令和元年5月8日決定)では,そもそもレンタル事業においてレンタルユーザーから受領する賃料とレンタルオーナー制度においてオーナーに支払われる賃料とが同率に設定されていることから何らの利鞘もなく,レンタルオーナー制度を継続することにより必然的に生じる損失を新規契約に伴う新たな入金により賄うことでしか維持できない破綻必至のスキームであった旨認定されている。すなわち物品の有無以前の問題として,そもそもの事業スキーム自体が破綻必至のものであった。
[27] 2019年(令和元年)8月22日付け消費者庁「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての消費者委員会意見について」
[28] 令和元年7月26日第303回消費者委員会本会議資料「SHARING ECONOMYビジネスの動向と今後の課題」(一般社団法人シェアリングエコノミー協会)では「販売&預託ビジネス≠シェアリングビジネスであるため,直接的な影響は現時点では考えられない」「シェアリングビジネス=遊休資産(スキルなど無形資産含む)の有効活用であり,投資などとは性質が異なる」との見解が示されている。
[29] 第1回 特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会(2020年2月18日)議事録
[30] 第2回 特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会(書面審議)(2020年4月21日)各委員提出資料
[31] 検察官が,詐欺罪等の財産犯罪行為によって得た違法収益を犯人から刑事裁判を通じて剥奪(没収・追徴)した上,給付資金として保管し,事件被害者などに給付金を支給する制度
[32] 具体的には,現物まがい商法の禁止及び無登録営業の各罰則を「長期4年以上の懲役又は禁固」とし (組犯法第2条第2項第1号イ),同法第13条第2項にこれら犯罪を追加する。ちなみに,貸金業者 の無登録営業罪は,5年以下の懲役又は1000万円以下の罰金であり(貸金業法第11条第1項,第47条第2号),組織犯罪処罰法第13条第1項,別表47号により犯罪収益は没収対象とされている。ただし,犯罪被害財産(第13条第2項)の対象にはされていない。