憲法21条で保障されている表現の自由は、個人の人格の形成と展開にとって、そして立憲民主主義の基盤として不可欠であることから、表現の自由は基本的人権の中において優越的地位にあり、表現の自由に対する制限は必要最小限度のものでなければならないとされます。しかし、近年、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由とした不当な差別的言動が行われ、その出身者又はその子孫が多大な苦痛を強いられるとともに、当該地域社会に深刻な亀裂を生じさせています。そこで、このような不当な差別的言動は許されないことを宣言するとともに、不当な差別的言動の解消に向けた取組を推進するべく、2016年6月3日、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(以下「解消法」といいます。)が公布・施行されました。

 地方公共団体には、解消法により、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けて、地域の実情に応じた施策を講ずる努力義務が課されました(解消法第4条第2項)。これを受けて愛知県では、公の施設の利用許可に係る審査基準が改正され、利用不許可の基準として、「催物の内容」が「本邦外出身者に対する不当な差別的言動が行われるおそれのあるもの」については、施設の利用は許可しないことが規定されました。

 しかしながら、報道によれば、反移民などを掲げる政治団体に対し、愛知県の施設であるウィルあいちの利用が許可され、昨年10月27日に開催された当該団体の催しでは、「犯罪はいつも朝鮮人」、「リンチは鮮人の伝統行事」等と書かれたカルタが展示されました。そして当該カルタの写真がインターネット上で拡散されました。当該カルタの内容は、在日コリアンを著しく侮蔑し、地域社会から排除することを煽動するもので、解消法第2条の不当な差別的言動に該当することは明らかでした。しかし当該施設の事務所長は上記の展示を現認したにもかかわらず、「私の判断では決められない」として、そのまま展示は継続されました。愛知県知事が後日「ヘイトに当たり、わかった時点で中止を指示すべきであった。」と指摘しているところです。

 本邦外出身者に対する不当な差別的言動は、対象者に多大な苦痛を強いるとともに、当該地域社会に深刻な亀裂を生じさせるものであり、日本が加入する人種差別撤廃条約に照らしても、解消されるべきです。そのための施策として、愛知県外の地方公共団体では、表現の自由に留意しつつ、公の施設における本邦外出身者に対する不当な差別的言動を防止するため、利用制限の対象・手続を明確化した条例やガイドラインを策定し第三者機関を置く取組も存在するところです。

 当会は、愛知県及び県内市町村に対し、本邦外出身者に対する不当な差別的言動が行われるおそれのある催物に対する公の施設の利用に関し、今回のように、本邦外出身者に対する不当な差別的言動が公然と行われることがないように、ガイドラインや条例の策定等、実効性ある取組を進めることを求めます。

2020(令和2)年3月26日

愛知県弁護士会 

 会長 鈴木 典行