長期間身体を拘束して取調べを行い、そこで得られた供述を中心に公判審理が進められる我が国の刑事司法については、「人質司法」としてかねてより批判されているが、カルロス・ゴーン事件を契機にして、さらに内外から厳しい指摘を受けるようになっている。

 この人質司法を打破するためにも、身体拘束を受けた被疑者が弁護人の援助を受けることが極めて大切である。日本弁護士連合会も、昨年徳島市で開催された人権擁護大会において、弁護人の援助を受ける権利の確立を求める宣言を採択して、人質司法からの脱却を目指し、弁護人が取調べに立ち会うなど新しい刑事司法の在り方を追求している。

 ところで、我が国の被疑者段階における身体拘束の現状をみると、逮捕状請求が99.9%を超える割合で認容され、勾留請求に対しても95%を超える割合で勾留決定がなされている。勾留期間の延長についてもほぼ請求どおりの勾留期間延長決定がなされるなど令状主義が十分に機能しているとは到底いえない現状にある。このような現状に対して、我々弁護士・弁護人の多くが、積極的に準抗告申立て等の弁護活動を行い、不必要な身体拘束から被疑者の早期解放を図っていく努力を続けてきたか反省すべき点があった。

 このような反省から、当会は、昨年9月から11月までの3か月間、会を挙げて、不当、不必要だと考える勾留決定に対しては全件、準抗告申立てに取り組む運動(以下、全件運動)を行った。その結果、この3か月間に、被疑者国選弁護人を務めた当会会員から、勾留決定に対する準抗告申立てを行ったとの申告が合計124件あり、その内24件で準抗告が認容されて被疑者が釈放された旨の報告があった。全件運動期間前年の2018(平成30)年6月から12月までの7か月間に、名古屋地方裁判所管内で勾留決定に対し準抗告申立てがなされた件数は173件で、そのうち準抗告の認容件数は28件であったことからすると、この期間において相当数の当会会員が新たに勾留決定に対する準抗告申立てに取り組み、その結果準抗告が認容され被疑者が釈放される結果となったと解される。

 本件全件運動についての評価は色々あるところではあるが、これからも弁護士・弁護人が不当、不必要な身体拘束から被疑者の早期解放をめざす活動を続ける必要があることに異論はない。この活動を通して検察官や裁判官による身体拘束をめぐる実務・運用の改善、意識改革につなげていくことも可能となる。

 当会は、全件運動により当会会員から寄せられた準抗告申立事案に関する情報を活用して、被疑者弁護活動の一層の充実強化に取り組んでいくとともに、今後も引き続き、身体拘束された被疑者の弁護人依頼権を実質化すべく、不当、不必要な身体拘束から被疑者を早期に解放する弁護活動のより一層の充実強化をめざし、弁護士会を挙げた取組を継続していくことを改めて決意する。

 以上のとおり、声明する。

 2020(令和2)年3月11日

愛知県弁護士会 

会長 鈴 木 典 行