昨日、福岡拘置所において、1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。今回の死刑執行は、本年8月2日の執行に続くものであり、森まさこ法務大臣が本年10月31日に就任してから初の執行である。2012年12月に第2次安倍内閣となってから、これで合計39名という多数の死刑執行がなされたことになる。

 当会を含めた多数の弁護士会及び日本弁護士連合会は、前回の死刑執行の際にも、これに対する抗議声明を発表し、死刑執行を停止するよう求めた。それにも関わらず、森まさこ法務大臣が死刑執行を命じたことは極めて遺憾であり、当会は、今回の死刑執行に対し、強く政府に抗議する。

 死刑は、かけがえのない生命を奪う非人道的な刑罰であり、死刑の廃止は国際的な趨勢である。現在、法律上・事実上の死刑廃止国は142か国に及び、世界の中で3分の2以上を占めている。OECD(経済協力開発機構)加盟国36か国のうちでも、死刑を残置しているのは、日本、米国、韓国の3か国だけであるが、韓国は事実上の死刑廃止国であり、米国も多くの州で死刑が廃止され、あるいは死刑の執行停止が宣言されており、死刑を国家として統一的に執行しているのは、日本だけである。

 2018年12月の国連総会は、史上最多の支持を得て、死刑存置国に対する死刑執行停止を求める決議を採択した。従前より、日本政府は、国連自由権規約委員会や拷問禁止委員会などから、死刑執行を停止し、死刑廃止を前向きに検討するべきであるなどの勧告を繰り返し受けている。

 裁判において誤判があることは不可避であり、日本においては、これまでにも4件の死刑確定事件についての再審無罪が確定している。 その後も、2005年4月に名古屋高等裁判所で、いわゆる名張毒ぶどう酒事件の再審開始決定が出されており、2014年3月に、静岡地方裁判所で、いわゆる袴田事件の再審開始決定がなされているが、いずれも、その後に取り消されている。こうした事実は、同じような証拠関係においても裁判所が異なることによって、死刑と無罪の結論が分かれることを実証するものであり、えん罪の恐ろしさは、死刑事件において際立ったものとなっている。また、死刑冤罪には、死刑か無期懲役かという量刑判断における誤判もあるもので、再審中の死刑確定者については、裁判の過程において、あるいは再審手続において、防御権が尽くされたといえるのか疑問が残る事例もある。

 そうした事件において、誤って死刑が執行されればそれは二度と取り返しのつかないものであり、絶対に回避されなければならない。

 こうした死刑制度の持っている重大な問題性や国際的な死刑廃止への潮流に鑑み、日本弁護士連合会は、2016年10月に開催された人権擁護大会において、死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言(いわゆる福井宣言)を採択し、その中で、日本において国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきであると宣言し、死刑制度の廃止に向けて取り組んでいる。

 当会としても死刑制度の廃止に向けて議論を深め、死刑廃止を含む刑罰制度全体の改革を求めるものである。また、国は国民に対し、死刑に関する情報を広く公開し議論を深めるべきであり、死刑制度の廃止が実現するまでの間、死刑執行を停止すべきである。

当会は、今回の死刑執行に対し、強く政府に抗議するとともに、以上の意見を表明するものである。

2019年(令和元年)12月27日

                愛知県弁護士会      

会 長  鈴 木 典 行