名古屋刑務所では、昨年の7月24日、4階建ての施設の単独室に収容されていた40歳代の受刑者が、早朝、嘔吐した状態で布団に横たわっているのを発見され病院に搬送されたものの、熱射病が原因で死亡するという事件が発生しています。

昨年と同様、今夏も酷暑が予想されているなか、このような惨事の発生を繰り返すことは絶対に許されません。

日本国憲法は、すべての国民に対して、個人の尊重と生命、自由及び幸福追求に対する権利(13条)を保障しています。

また、わが国が批准する国際人権(自由権)規約は、7条において、「何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない。」と規定し、10条1項は「自由を奪われたすべての者は、人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して、取り扱われる。」規定しています。

このような規定に加え、憲法25条、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約16条1項なども踏まえれば、生命及び良好な健康状態に対する権利が、刑事施設の被収容者においても保障されていることは明らかです。

それゆえ、刑事施設は、被収容者の自由を剥奪し、拘禁をした結果として、その生命及び良好な健康状態に対する権利を確保し、被収容者の健康を侵害しないような生活及び処遇を保障し、効果的で十分な医療及び監護の提供と、それに関する手続を保障する責任を負うべきものです。

刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律は、その56条で、「刑事施設においては、被収容者の心身の状況を把握することに努め、被収容者の健康及び刑事施設内の衛生を保持するため、社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとする。」と定めていますが、この規定も、被収容者の生命及び良好な健康状態に対する権利に関する以上のような理解を踏まえたものです。

以上のことから、刑事施設は、被収容者が熱中症に罹患しないための措置を講じる責務を有しています。

熱中症の発生は、年齢、疾患の有無、屋内外、作業の状況、気温、湿度などの様々な因子が複合した結果であるため、その防止のために講じるべき措置の内容は必ずしも一様とはいえないものの、真夏日(最高気温が30度以上になる日)や、猛暑日(最高気温が35度以上となる日)が重なる期間中に、エアコンなどの空調設備のない施設内環境に被収容者を継続的にとどめおくことは、熱中症に罹患させる危険をかなり高めることにもなることから、本来、許されません。

このため、猛暑に見舞われることが今後も想定される現下においては、名古屋刑務所においても、刑務所内の全部の居室及び工場内にエアコン等の空調設備を設置し、室内環境を整備することが急務と考えるとともに、以上のような設備の充実をはかることが困難な状況では、年齢、疾患の有無・内容・程度、健康状態、従事する作業の実情など、個々の被収容者の事情に対応したきめの細かい対応を心掛け、被収容者の生命、身体、健康が危険にさらされることのないよう万全の措置を取ることを強く求めます。

2019(令和元)年7月12日 

愛知県弁護士会  会長 鈴 木 典 行